――蹴られたり、襲われたりと体当たりの演技をしないといけないシーンが多かったようですが、撮影で一番大変だったシーンはどこでしょう?

神楽坂:全てが大変でした(笑)。一番大変なことは、演技にきちんと「自信を持つ」ことでした。稽古の時も、自信がなくて、黒沢さんやでんでんさんや吹越さん、梶原さんもそうですけど、私がここに入ってやって行けるのかなと思い、どんどん縮こまって行ってしまいました。そういう「自信を持つ」という所から始まったので、どのシーンというよりも、その気持ちを持つところでしたね。自信を持てたら、どのシーンも突っ走れるんですけど(笑)。

――妙子も自信がなさそうな役柄ではないでしょうか?

神楽坂:いえ、自信があるのでああいう(露出のある)洋服を着ていると思いますよ。でも、「こんなのは違う!私じゃない」とも思っています。最後は、溜め込んでいたものを気持ち良く吐き出しましたね。

――夫役を演じた吹越さんの印象は、いかがだったでしょうか?

神楽坂:吹越さんと一緒のシーンは、撮影の最初の方にまとまってありました。最初はちょっとクールな方なのかなと思っていたのですが、そうではなく、きちんと顔を向けて話してくれたり、さりげなくリードしてくれたりとすごく優しい方でした。最初はあまり話をしない状態で撮影をしていたので壁がある状態でした。でも、逆にその時は「冷え切った家庭」のシーンの撮影でしたので、良かったのかなと思っています。

――壁を失くすために工夫は何かされましたか?

神楽坂:監督に初日から「キスして!」と言われました(笑)。初日は、私が吹越さんに「村田さんの所で良い仕事がある」と話すところで、キスするシーンなんてなかったのですが、「夫婦っぽく!」と言われて、すごくキスしましたね(笑)。

――キスで吹越さんとの壁を取り払ったのですね(笑)。先程、吹越さんをクールと仰いましたが、宣伝ポスターの顔は、眼力が凄いですね。

神楽坂:そうですね。でも、私が見ていた吹越さんは、こんな顔ではなかったですよ。

宣伝担当:このポスターは、かなり時間をかけて加工しましたから(笑)

神楽坂:この顔は最後の方の顔ですね。私が見ていたのは自信なさそうな時の顔ですから。ラストの方で突き抜けちゃった時の。怖いなあ。

――園監督の印象は、いかがでしたか?

神楽坂:監督には、稽古の時は、たくさん怒られて涙を流しました。でも、それは私のためを思って怒ってくれていて、とても愛情がある優しい方なのだと撮影に入ってから気づきました。稽古の時は、追い詰められていたので、「絶対に見返す」という負けず嫌いな感じでいました。

――怒られた中でも、これが一番強烈だと思ったことを教えてください。

神楽坂:一番怒られたのは立ち稽古の時ですね。思い出すだけでも怖いです。「何をしてきたんだ?」「今まで生きてきてそんな感情も出せないなんてどういうことだ?」と今までの生きてきたことを全否定されたので怖かったです。

――園監督は、すごく怖い監督なのですね?

神楽坂:でも、さりげなく聞こえるか聞こえないかぐらいの声で「でも、俺が怒っているのは愛情があるからなんだよな」と誰かに話しているかの様に言うんですよ。近くに私もいるのに(笑)。私が、怒られて下を向いて聞いている時も「違うんだよ。だいたいみんなが怒らないから、俺が怒るんだけど…。」いうような感じで言うですよ(笑)。

――かわいらしい面もあるのですね。

神楽坂:繊細なんだと思います。

――黒沢あすかさんから、撮影現場で神楽坂さんと梶原さんがとても仲が良かったというお話を伺っているのですが?

神楽坂:喧嘩のシーンを撮ったり、2人だけ連れて行かれて稽古をしたりしたからでしょうか。

――その様子を黒沢さんは役柄の愛子の様にこっそりのぞいていたそうですが?

神楽坂:本当ですか?知らなかったです(笑)。確かに梶原さんとはよく話していましたね。つらい立ち稽古も一緒に乗り越えたこともあるからですかね。でも、黒沢さんとも、お子さんの話などをしました。お姉さんの様な先輩で、育てるコツや女性としてのアドバイスを受けたりもしましたね。

――この映画のテーマの一つである“死”と“暴力”についてどの様にお考えですか?

神楽坂:稽古でも、映画自体でも、「自分とちゃんと向き合って一生懸命生きているか?」と考えさせられました。いつ死ぬのか分からないと私は思っていたのですが、この映画に関わることで曖昧ではなく「死と言うのはこうだ!」と見せつけられた感じがします。暴力は、難しいですね。暴力を受けて分かることもありますからね。

――叩くという行為には、“愛のムチ”というものもありますからね。

神楽坂:小さい頃、私も外に出されたり、“やいと”とか・・・

――“やいと”とは何でしょう?

神楽坂:あれ?“やいと”って方言ですか?

宣伝担当:お灸のことですよ。

神楽坂:そう!お灸!関西では“やいと”って言いますね。悪い事をするとお灸を据えられました。それは愛のムチでしたね。