(※写真はイメージです/PIXTA)

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止まらぬ物価高などを背景に、「貯蓄」や「老後資金」に不安を抱える人は多いでしょう。しかし、お金を使うことに恐怖を覚えてしまうほどとなると、話は変わってきます。高まりすぎた“倹約意識”が、親子関係に深刻な溝を生むことも……。CFPの山粼裕佳子氏が、70歳の父親と33歳の息子の事例をもとに、行き過ぎた節約意識の危険性と漠然とした不安を解消する方法について解説します。

年収800万円・タワマン住みの33歳男性…父親と距離を置いていた「過去のしこり」

ワタルさん(仮名・33歳)は、都内で働く年収800万円の会社員です。2年前、川崎市内にタワーマンションを購入し、妻(32歳)と2人の息子(5歳・3歳)と4人で暮らしています。

妻も正社員ですが、昨今の物価高による生活費の増加や住宅ローンの返済、また、これから必要になる教育費などを考えると、家計に余裕があるとはいえません。

特にレジャー費が節約対象になりやすく、休日はお弁当を持参して、近くの公園でピクニックするのが定番化しています。それはそれで子どもたちも楽しんでいますが、「たまには遊園地や水族館へ子どもたちを連れて行ってやりたい」というのが本心です。

そんなワタルさんの頭を悩ませているのが、千葉県の実家で暮らしている父親・ナオキさん(仮名・70歳)の存在です。5年前に妻を亡くしてからというもの、「孫の顔が見たい」「たまには帰ってこい」などと、たびたび連絡が来るように。

親子仲は悪いと言い切れるほどではないものの、父親に対する苦い思い出から、ワタルさんは社会人になってからナオキさんとは距離を置いていました。

「学費は自分でなんとかしろ」…父の極端な〈ドケチ気質〉

父・ナオキさんには、「倹約家」というより「ドケチ」という言葉がピッタリでした。ナオキさんが中学生だったころに実家の家業が倒産。それから長い間、父自身もアルバイトで生活費を稼いで借金返済に苦労してきたという過去の経験から、「もったいない、まだ使える」が口癖に。お金を使うこと自体に罪悪感をおぼえるようになったといいます。

そのドケチぶりは、ワタルさんが生まれたあとも変わりませんでした。

ワタルさんが小学4年生に進級したときのこと。使い古したボロボロの筆箱を新調したいとナオキさんにねだったときも、「まだ使えるだろう、もったいない」と取り合ってもらえませんでした。このときは様子を見かねた母が内緒で買ってくれましたが、こうしたことは日常茶飯事でした。

そして極めつけは、大学進学時です。「さすがに学費は出してくれるだろう」と期待したワタルさんでしたが、ナオキさんは「お前がなんとかしろ」と一刀両断。結局、奨学金を借りて、自分で工面して大学へ進学しました。

贅沢品だけでなく必要なものにさえお金を出し渋る姿を見て、ワタルさんは「きっとうちにはお金がないんだろう」と納得していました。しかし、成長するにつれ家計事情がなんとなくわかってくると、ナオキさんのあまりのドケチぶりに疑念が湧くようになります。

ワタルさんはそれ以降、金銭面で親に頼ることを一切やめました。結婚費用から新居の購入費にいたるまで、すべて自分たちで賄ったのです。

財布を一切開かない父…孫には会いたがるのに「おもてなしゼロ・外食代は息子持ち」

そんな父・ナオキさんから最近、頻繁に「帰ってこないか」という連絡がくるように。最初は反発したワタルさんでしたが、「一人になって寂しくなったんだろうか。高齢だし心配だな」と心情を察し、子どもたちを連れて月1回のペースで実家に顔を出すことにしました。

正直、自分たちのレジャー費すら削っているなかで、千葉の実家までの往復の高速代やガソリン代は、ワタルさんの家計にとって決して小さくない痛手です。それでも親孝行の一環として、多少の無理をしてでも通いました。

ところが、実家に着いても特におもてなしがあるわけではありません。食卓にはスーパーの値引きされた惣菜が並び、飲み物は水道水です。

ワタルさんが、「たまには外食にしよう」と気を利かせれば、嬉しそうに「そうだな、そうしよう」と車に乗り込むものの、会計伝票を手に取ったことは一度もありません。いつもワタルさんが全額支払います。

ナオキさんは、60歳で定年退職したあとも、契約社員として68歳まで働きました。現在は無職ですが、月20万円の年金収入のほか預貯金も3,000万円あり、一人暮らしには十分といえる資産があります。

それでも、孫に会いたがるわりには、誕生日やクリスマスのプレゼント、お年玉すら渡したことはありません。息子のワタルさんが身銭を切って孫を連れてきていることへの労いも皆無でした。

「ああ、父さんはなにも変わってないな……」

これまでの父の姿から期待はしていなかったものの、それでもモヤモヤしてしまうのでした。

「金のムダだ」孫の遊園地代を拒絶…ついに息子が突きつけた〈絶縁宣言〉

いつものように時間とお金を工面し、親孝行のために実家へ帰省していたときのことです。

テレビで実家の近くに新しいテーマパークができたことを知り、ワタルさんは子どもたちに「近くだね。じぃじに連れて行ってもらおうか?」と伝えました。

すると、子どもたちもナオキさんの前で「ヤッター! じぃじ、連れてって!」と大喜びです。ところが、それを横で聞いていたナオキさんの表情には戸惑いが浮かんでいます。

入場料を調べてみると、大人一人4,000円、子ども一人500円とのこと。4人で行けば9,000円になります。

ワタルさんには、淡い期待がありました。自分には厳しかったナオキさんも歳を取り、可愛い孫から直接おねだりされれば変わるのではないか。毎回外食代を出している自分の代わりに、たまにはチケット代くらい出して、孫を喜ばせてくれるのではないか、と。

しかし、ナオキさんの口から出たのは、「いいじゃないか、公園で。金のムダだ」という一言でした。それを聞いた瞬間、ワタルさんのなかで何かが弾けました。

自分への仕打ちは我慢できても、可愛い孫の笑顔すら数千円を惜しむのか。自分がしていた親孝行は、「タダで孫と遊べる都合の良い娯楽」でしかなかった。積もり積もった鬱憤が限界を突破したのでした。

「こっちはローンでカツカツなのに、毎月高速代と外食代を出して、父さんが会いたいっていうから無理して来てるんだぞ!? たまには孫が喜ぶようにお金を使ってくれてもいいだろ。そんなに貯めこんでどうするんだよ、ドケチすぎるだろ……」

「……必要ないものに金を使うつもりはない」

「わかった、もういいよ。父さんは家族より大事なお金と一緒に生きていったらいいんじゃない?」

ワタルさんはそう冷たく言い放ち、子どもたちを連れて帰宅。この一件以来、絶縁状態となりました。

“漠然とした”お金の不安が招いた「親子関係の分断」

このような悲しい結末を迎えてしまった要因は、親子の「お金に対する価値観の違い」にあります。

父のナオキさんは、子どものころにお金で苦労したことがトラウマとなっているのでしょう。「お金がなくなったら、また生活ができなくなるかもしれない」という恐怖心から、お金を使うことができないのです。客観的には十分な資産があるように見えても、ナオキさんにとっては「安心」ではないのでしょう。

一方、ワタルさんの気持ちもきわめて自然なものです。「父さんにとっては家族よりお金のほうが大切なんだ」という思いは、深い失望と孤独感を抱かせます。ワタルさんが本当に欲しかったのは「お金」ではなく「愛情表現」だったのかもしれません。

【CFPの助言】目に見える「数字」が安心材料に…「キャッシュフロー表」作成のススメ

このような事態を回避するには、どのような対処法が考えられるでしょうか。

ナオキさんのように、「預貯金3,000万円」「年金20万円」「一人暮らし」「住宅ローンなし」「扶養家族なし」、つまり、「年金収入>生活費」である場合、預貯金を減らすことなく生活できます。

それでもナオキさんが心配なのは、まとまったお金が必要な「もしものとき」がいつか訪れるかもしれないと思うからでしょう。

たしかに、将来的に入院や介護で施設へ入る場合などを想定すれば、資産を取り崩す可能性があります。しかし、“もしも”を考えすぎてしまってはきりがありません。

漠然とした不安からお金を使えないのであれば、「キャッシュフロー表」を作成してお金の流れを可視化してみることをおすすめします。老後資産が本当に足りるのか数字で確認できれば、ナオキさんにとって大きな安心材料になるはずです。

そのうえで、「子どもや孫のために使う予算」をあらかじめ設定してみてはいかがでしょうか。「毎月〇万円まで」「年間で〇〇万円まで」などと具体的な予算を決めてしまえば、過度に我慢する必要もなくなります。

一方、息子のワタルさんとしては、父親に対して「あの世にお金は持っていけない」というように正論で諭すよりも、たとえば「子どもたちにじいじとの思い出をたくさん作ってやりたい」などと「役割」としてお願いすれば、ナオキさんもスムーズに受け入れられるのではないでしょうか。

「お金」と「人の感情」は密接に絡み合っているからこそ、トラブルの種にもなります。お金は、貯めることだけが正解ではありません。老後生活を充実させるためには、いまある資産の一部を「家族とのかけがえのない時間のために使う」ことも、有効なお金の使い方のひとつです。

FP事務所MIRAI
山粼裕佳子
1級ファイナンシャル・プランニング技能士
CFP®