(※写真はイメージです/PIXTA)

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大企業に勤めていても、業績悪化でリストラの憂き目に遭う可能性は誰にもあるものです。しかし、エリート層の再就職事情は意外に厳しく、希望のポストは狭き門であるという現実があります。「一流大卒・大企業の元部長」―そんな輝かしい肩書きがあっても、例外ではありません。今回は早期退職からの再就職を希望した東大卒の大手企業の元管理職の事例から、再就職を成功させるポイントをCFPの松田聡子氏が解説します。

エリート街道爆走の会社員、「肩たたき」で新天地探しへ

東京都在住の佐藤誠さん(仮名・55歳)は、東京大学を卒業後、新卒で誰もが知る大手メーカーに入社しました。経営企画部長として年収は1,500万円に達し、預金は2,000万円。絵に描いたようなエリート街道を歩んできた一人です。

ところが50代に入り、勤務先の業績が急速に悪化します。会社が打ち出した早期退職優遇制度の対象となり、佐藤さんは事実上の「肩たたき」に遭いました。その見返りとして、上乗せ分を含め4,000万円という、まとまった退職金を手にしました。

住宅ローンは払い終わっており、子ども2人はすでに大学を卒業して独立しています。経済的には、当面困ることはありません。それでも佐藤さんは、再び働くことを望みました。

「平日の昼間から家にいるのは、どうにも世間体が悪いから。それに、自分で言うのも悲しいですが、家の中私の居場所なんてないんですよね」

佐藤さんは力なく笑います。

「妻からは長年『仕事ができる自慢の夫』として見られていました。それが、急に1日中家にいるんです。やることも、テレビや動画を観るか、スマホをいじるか。最初は優しかった妻の目が、だんだん冷ややかになっていくのがわかりました」

家は専業主婦の妻が自由に過ごす場所。佐藤さんに身の置き場はありませんでした。そうした事情から、せめて65歳までは働きたいと考えたのです。

リストラされたとはいえ、大手メーカーの部長職を勤めていたことに加え、圧倒的な高学歴。いくらシニア層の就職が厳しいとはいえ、好待遇で迎えてくれる会社はあるはずだと佐藤さんは思っていました。

「東大卒・元部長」圧倒的な肩書きのはずが、なぜか響かない

しかし、面接の手応えは想像とまるで違いました。履歴書を見ると、面接官は決まって「素晴らしいご経歴ですね」と口にします。佐藤さんはつい嬉しくなり、過去の話に熱が入ってしまいます。

「東大では」
「私が部長を務めていた頃は」

ところが、いくら待っても採用の連絡は来ません。当初、佐藤さんがエントリーしていたのは、前職のライバル企業や有名メガベンチャー、顧問契約といった、いわゆるハイクラス求人ばかり。

次第に条件を下げ、少しランクを落とした企業にも応募してみたものの、結果は全敗。最近では積極的な就職活動もできなくなり、家に閉じこもりがちになっています。

「いくら経済的な不安はないとはいえ、無職のまま60代になるのは絶対に避けたい。妻の冷たい視線の中で、膨大な時間をどう過ごしていいかわからないんです。いったいどうしたらいいんだ……」

肩を落として、佐藤さんはつぶやくのでした。

「学歴」より高い、50代という壁

佐藤さんがつまずいた理由を考えるうえで、まず押さえておきたいことがあります。それは、学歴以前に「50代」という年齢そのものが、転職市場では大きなハードルになるという現実です。

厚生労働省の「令和6年雇用動向調査」によると、男性(パート労働者でない一般労働者)の年齢階級別転職入職率(常用労働者に占める転職者の割合)は以下のとおりです。

・30〜34歳:9.5%
・35〜39歳:7.5%
・40〜44歳:5.9%
・45〜49歳:5.8%
・50〜54歳:4.7%
・55〜59歳:4.3%

30代と比べると、50代で実際に転職する人の割合は半分以下の水準です。年齢を重ねるほど、転職という選択そのものが少なくなっていく様子がうかがえます。

さらに、転職した人の賃金がどう変わったかを見ると、もう一つの転換点が浮かび上がります。同調査で、前職より賃金が「増加」した割合から「減少」した割合を引いた差(男女計)を見ると、50〜54歳ではプラス10.8ポイントと、増えた人が上回っています。ところが55〜59歳ではマイナス9.2ポイントと反転し、給料が下がった人のほうが多くなるのです。

55歳前後を境に、転職すると収入が下がりやすくなる――佐藤さんの年齢は、まさにその境界線上にありました。

では、なぜ輝かしい経歴がプラスに働かないのでしょうか。採用する企業の多くが見ているのは、「即戦力になるかどうか」、つまり会社が変わっても持ち運べる汎用的なスキル(ポータブルスキル)や専門性です。

大企業で順調に出世してきた人ほど、社内調整や自社特有の業務プロセスに最適化されている場合があります。その力は社内では大きな価値を持ちますが、外から見ると分かりにくく、市場価値が低く見積もられてしまう可能性があるのです。

加えて、50代の元エリートが希望しがちな課長・部長クラスやハイクラス求人は、もともと枠が少なく激戦区です。そして企業側は、「過去の肩書きにこだわり、年下の上司や新しいやり方に柔軟に対応できないのではないか」という懸念も抱きがちです。

前職と同じ年収・役職を求めれば、待遇のミスマッチも生じます。学歴や経歴そのものが否定されているわけではなく、こうした複数の要因が重なっているのです。

FPからのアドバイス:収入よりも「働き続けられる居場所」を優先する

佐藤さんの場合、資産の多寡に関係なく仕事を続けたいという意思があります。一方で、その資産についても、意外と安心はできません。

資産は6,000万円超・住宅ローン無し・子どもは独立済み。それでも、無職のまま現役時代と同じ感覚で生活を続けると、例えば月30万円の生活費なら年360万円、月40万円なら年480万円が消えていきます。高収入世帯は生活レベルが高いので、その癖が抜けなければ、資産は想像以上のスピードで減っていきます。

ですから、月10万〜20万円でも稼いで資産の減少を緩やかにする方が、将来の安心感は格段に高まります。FPの観点から言えば、今の佐藤さんに必要なのは、前職と同等の収入ではなく「長く安定して働き続けられる居場所」です。

では、佐藤さんのようなエリートが再就職を成功させるには、何を意識すればよいのでしょうか。4つのポイントをお伝えします。

50代のエリートが再就職を成功させるには

第一に、「〇〇大学卒」「〇〇社で部長だった」という肩書きそのものではなく、その経験を通じて培った力を語ることです。マネジメント経験、若手の育成力、課題解決力といったスキルを、新しい職場でどう活かせるのかという具体的な言葉に「翻訳」して伝えると、相手にも価値が届きやすくなります。

第二に、「前職と同水準の年収」「同等の役職」へのこだわりと、自身の市場価値を冷静に秤にかけることです。そのうえで、収入、やりがい、居場所のうち、自分が本当に優先したいものは何か。その順位を整理するだけで、選べる仕事の幅は大きく広がります。

第三に、これまでの実績を伝えつつも、年下の上司や新しいツールに対して「一から学ぶ姿勢」「柔軟に協調する姿勢」を、面接の場ではっきりと示すことです。企業が抱きがちな懸念を、自ら和らげる効果があります。

第四に、視野を広げることです。人手不足に悩む地方の優良企業や中小企業のなかには、大企業で培った組織づくりやガバナンスの知見を強く求めているケースがあります。これまで目を向けてこなかった場所に、活躍の可能性が眠っているかもしれません。

学歴も過去の実績も、確かに価値ある資産です。ただ、それは「しがみつく対象」ではなく、「次の場所で活かすための要素」と考えられないでしょうか。

人生後半戦で大切なのは、過去の栄光にとらわれず、自分が納得して過ごせる居場所をどう確保していくかです。佐藤さんがそのことに気づいたときが、本当の意味での再スタートとなるでしょう。

松田聡子
CFP®