まさかの「自公過半数割れ」になったときに、石破首相が繰り出す政権維持のための「意外すぎる奥の手」

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大きな賭け

石破茂首相は就任から間もない10月9日に衆院を解散し、15日公示―27日投開票の総選挙に突入した。自民党会派は解散時に256議席を有したが、派閥による政治資金収支報告書の不記載問題、いわゆる「裏金問題」が大きな逆風となり、政権サイドは情勢調査などから現時点で、単独過半数233議席を割る恐れがあると分析。

連立を組む公明党(解散時勢力32議席)を含め、与党で過半数を下回れば政権を失う可能性がある。新政権発足の余勢を駆って、解散から投票日まで18日間という超短期決戦に出た大きな背景である。

党執行部は政治資金問題への対処として、党旧安倍派を中心に、不記載があった前職議員のうち40人以上に対し、非公認あるいは比例代表の重複立候補禁止(つまり小選挙区で敗れれば即落選)という異例の措置を取った。旧安倍派には9月の総裁選で石破氏を支持しなかった「非主流派」議員が多いとみられており、この「厳格な」対応は党内政局的な色彩も帯びた。石破政権にとって総選挙は対野党だけでなく、対旧安倍派という党内不和にも対峙せざるを得ない「二正面作戦」となった。

「地方創生の交付金を当初予算ベースで倍増させ、地域の独自の取り組みを強力に後押しする」

石破首相は9日の解散直後の記者会見で地方創生交付金の倍増をぶち上げ「日本創生解散」と銘打った。しかし一連の政治資金問題が余りにセンセーショナルであり、メディアは野党が唱える「裏金解散」にスポットを当てた。つまり政権側は争点設定で野党に「マウント」を取られた形となったのだ。第2次安倍政権が「消費税増税延期」「消費税収の使途変更」を打ち出し、争点をつくり出して解散を仕掛けたようにはいかなかった。

石破政権は政治資金問題という「負の遺産」を背負いスタートしており、いわば「宿命」にいきなり直面したわけだ。もっとも、不記載事件化による内閣支持率急落が当時の岸田文雄首相の退陣につながり、党所属議員・党員の危機感が石破氏の総裁選勝利の原動力となったことを考えると、逆境下の総選挙は、宿命というよりも「宿題」と言った方が妥当である。

失望感は下げ止まった…?

新政権は野党との「争点化」の主導権争いに敗れたが、今度は不記載問題で党による処分を受けた前議員らの非公認や比例重複立候補禁止という「劇薬」で逆襲する。一時は不記載候補者も比例重複を認めるとの報道が相次いだため、この「厳格措置」は一種の「サプライズ」となり、改革への一定の本気度を有権者に印象付けた。

例えば、大阪7区で立候補した元職・渡嘉敷奈緒美氏はSNSのX(旧ツイッター)で、ビラ配りの際に人々から「石破さん、思い切ったことやったわね」「石破さん、ほんま偉いわ」と褒めてもらったと発信した。不記載に関係ない自民党候補者にとって「自民党というだけで有権者から批判される。厳しい対応は当然」(中堅議員)というわけだ。

石破総裁誕生後、市場は政府が緊縮財政に走ることを疑い、株価は急落。解散前に衆参予算委員会を開くかどうかや、持論のアジア版NATO(北大西洋条約機構)構想などについても、発言を後退させたとして「変節」批判を受けた。

しかし、処分議員の非公認とその人数拡大、比例名簿外しで「ひとまず失望感が下げ止まった」(与党筋)のが現状である。石破首相は最近「衆院選勝利のためには、とにかく、やるべきことは全てやりつくすしかない」と周囲に語っている。

選挙結果で自民党議席は、仮に解散時より20〜30減なら230前後と、まさに単独過半数(233)ラインの攻防となる。公明党は日本維新の会と初めて対決する小選挙区が関西で複数あるなど、解散時の32を守り切れるかどうかが注目点。このため現時点では自公で何とか過半数を確保できるとの見立てが有力だ。

「底なし」もありうる

しかし今後は予断を許さない。主争点は政治資金であり、自民党議席が上振れする余地は限定的だ。逆に下振れすると「底なし」もあり得る。特に選挙中は、政治について普段は興味のない層も関心を持つようになる人が多い。

このため有権者の動向に一方向のベクトルができれば、地滑り的影響を与えることがある。

自民党の「下げ止まり感」とは裏腹に、非公認、もしくは比例重複を禁止された前職議員らの反発は強かった。例えば、党公認を得たが比例名簿に掲載されなかった前職・高鳥修一氏(新潟5区、旧安倍派)はXの自身のアカウントに

「次は惜敗率99・9%でも重複立候補が無いので落選です。比例名簿から安倍派が消える分、惜敗率がもっと下の他派閥候補が繰り上げ当選なので自民党トータルの議席は変わりません。消えるのは安倍派だけ。でもこんなことして比例の自民票は減りますよ」

と投稿した。ある旧安倍派筋は「まるで安政の大獄だ」と評した。衆院選後は「石破下ろし」が始まると予測する報道もあり、獲得議席数によって政権を取り巻く情勢は大きく左右されるのは間違いない。

ただ肝要なのは、党執行部は不記載問題で比例重複を認めなかった30人強の当選に全力を挙げる構えであることだ。「裏金議員」として強い逆風を受ける候補の落選を最小限に抑えないと、政権を失いかねない。「旧安倍派潰し」を地で行けば、自らの首を絞めることになる。

党が直面するのは、比例重複外しという「非情」を行う半面、その候補者を是が非でも小選挙区で当選させねばならぬという強烈なジレンマ。まさしく異例尽くし選挙である。

石破首相は若手時代に政治改革を訴えて自民党を一度離党し、失意の下に復党した経緯がある。離党、復党時の衆院選は計2回、無所属で戦った。また総裁選で石破政権誕生の大きな流れをつくったとされ、俗に言う「キングメーカー」に位置付けられる岸田前首相も、若手の頃、故・加藤紘一元幹事長による「加藤の乱」に参画し血判状まで用意したというが、結果的に鎮圧に終わった経験がある。「岸破政権」の2人とも駆け出し時代、政界の辛酸を痛いほど味わったことがあるのだ。

今回の非公認、比例外しへの中堅・若手らの反発に対し、粛然と「組織の論理」に沿い、諦観にも似た平静さを感じさせるのは、そうした体験に根差していると思わずにいられない。「政界に身を置くこととは、すなわち多くの不条理があることなのだ」と。

まさかの「奥の手」

これに対し、野党はどうか。第1党の立憲民主党は解散時勢力が約100議席と比較的「発射台」が低いこともあり、議席が伸びそうだ。日本維新の会は最近の世論調査では党勢の停滞が表れており、大まかに言うと、与党が議席を減らした分を、立憲が積み増すイメージが想定される。

だが、立憲の野田佳彦代表が訴える「政権交代」への壁は厚い。特に共産党は今回、多くの小選挙区で候補者を立て、立憲と競合する。立共で票を食い合い、自公候補を利するとも想定され、立憲側には「共産は政権交代実現に非協力的だ」との声もある。

もっとも、共産にしてみれば、これまで自党の候補を下ろしても「共産党が表に出ると票が離れる」などと嫌味を言われた上、安全保障などで政策の違いが大きいならば、立憲に忖度する義理はないのはうなずける。

選挙で与党敗北となれば、自公は国民民主党、維新などと政権枠組みの拡大を模索することが予測される。さらに自民党側が密かに注目するのは、旧民主党に所属するなどした吉良州司、北神圭朗氏ら無所属の前衆院議員4人で構成した「有志の会」である。過去にメンバーだった前職・仁木博文氏が自民党入りした「実績」もあるため、選挙の結果次第では、このグループが注目される局面もありそうだ。

石破政権は来年の夏までもたない…そして「意外な男」がまさかの再登板へ!