「脳のオンとオフ」は自分自身で簡単に切り替えられるという(写真:プラナ/PIXTA)

「やってやるぞ!」と気合を入れても、全然長続きしない。テスト期間のときに限って、なぜか部屋の片づけをしてしまう。そんな経験は誰しも持っているでしょう。やる気を出すべきシーンであればあるほど、逆にやる気がわいてこないなんてこともありますね。

ですが、脳内科医で医学博士の加藤俊徳氏によれば、「『やる気が出ない』はなくすことができる」そうです。

本稿では、加藤氏の著書『結局、集中力が9割 脳のプロが教える 誰でも集中力が最大化する方法』から、一部を抜粋・再構成して、今すぐ簡単に集中力を高める方法をお届けします。

ほかのことに気を取られるのは、自分に甘いから?

「明日までにプレゼン資料をつくらないと……」

「2週間後にレポートを提出しないと……」

「そろそろ晩ごはんの支度をしないと……」

会社、学校、家庭など、日常生活の中には「やらなくてはいけないこと」がたくさんあります。

それなのに、なんだかやる気が出ない、気が向かない、身が入らない。「早くやらなくちゃ」と思っていながら、ほかのことに気を取られてしまう。

SNSを見たり、音楽を聴いたり、ゲームに興じたり……。誰にでも、「あ〜、ダラダラとムダな時間を過ごしちゃったな」と後悔した経験があるはずです。

このように、「やらなくてはいけないこと」になかなか取りかかれないのは、じつ意志が弱いからでも、自分に甘いからでもありません。「脳のオン、オフの切り替えが上手にできていない」からです。

「脳のオン、オフを切り替える」とは、「集中している状態」(オン)と「集中から解放されている状態」(オフ)を切り替えることです。これができれば、ラクに集中モードに入れます。

「そんなことできるの?」と思われるかもしれませんが、じつは私たちは、日常的に脳のオンとオフを経験しています。

脳は、自分自身で「オンとオフ」を切り替えられる

● 脳のオン…… 「脳の集中が始まる」こと。
脳がオンになると、必要なときに必要な脳番地(※)が働くようになる。脳番地がしっかり働くと、「集中している状態」となる。

※脳番地…… 同じような働きをする神経細胞の集まり(部位)と、その神経細胞の集まりと関連している機能の総称として私が提唱している概念。人が「集中している」と感じているとき、脳番地は「最高の結果」を出せるように働いている。

● 脳のオフ…… 「脳の集中が終わる」こと。
「やるべきこと」から解放された状態。

たとえば、学校で筆記テストを受けるときは、「始め」の合図で「オン」になり、問題を解くことに集中します。「終わり」の合図がかかると「オフ」になって、テストを終えます。

またたとえば、映画館では、照明が脳の切り替えのスイッチになることがあります。劇場内の照明が落ちると「オン」になってスクリーンに集中する(「今から映画が始まる」と認識する)。エンドロールが終わって照明が明るくなると、脳は「映画が終わった」ことを認識して脳はオフになります。

こうした切り替えの多くは、時間、環境、条件など、外的なきっかけによってもたらされています。筆記テストでは「始め」と「終わり」の合図によって、映画館では照明の切り替えによって、結果的にオンとオフにさせられているわけです。

ですが、外的なきっかけを与えられなくても、自分自身でオンとオフを切り替えることができます。

誰か(何か)に「切り替えさせられる」のではなく、自発的に切り替える。仕事をするときは「仕事をする脳」に、読書をするときは「読書をする脳」にパッと切り替え、パッと行動し、パッと処理できれば、いたずらに時間を過ごすことはありません。

オン、オフの切り替えかたがわかっていれば、「やりたい」と思ったことはもちろん、「やりたくないな」「面倒だな」と思ったことでさえ、すぐに始められるのです。

必要なのは「目的」と「時間」を明確にすること

ここからは、具体的にどうすれば脳のオンとオフを切り替えることができるのかを紹介していきます。

ズバリ、その方法とは、「自分自身で、自分の脳にオンとオフの指示を出す」ことです。

「指示を出す」といっても特別なことをするわけではなく、「『今からこれを始める』『この時間になったら終わりにする』と自分にいい聞かせる」のです。

「え? いい聞かせるだけ?」と疑問に思われるかもしれませんが、いい聞かせるだけで、私たちの脳は働き始めます。

「始まり」と「終わり」をいい聞かせるときのポイントは、「何のために、何を始めるのか」という「目的」と、「何時に、それを始めるのか」「何時に、それをやめるのか」という「時間」を明確にすることです。

目的が明確……目的が決まると、「これをするには、どの脳番地を使えばいいのか」が決まるので、集中できる。一方、目的があいまいだと、脳が「どの脳番地を使っていいか」迷ってしまうため、オンになりにくい。集中している状態とは、「必要な脳番地がムダなく働いている状態」なので、どの脳番地を働かせていいのかがわからないと、集中できない。

時間が明確……記憶系脳番地が働くため、オンとオフが切り替わりやすくなる。記憶系脳番地は、覚えたり思い出したりするだけでなく、「スケジュールを決めて実行する」ときにも使われる。

「なんとなく始める」「しかたなく始める」という否定的な態度ではなく、「今から、◯◯◯◯のために始めよう」と肯定的に脳にいい聞かせると、脳は集中しやすくなります。「やってもやらなくても、どっちでもいい」と思っている限り、集中できません。

どうしても人は、「もう少し寝ていたい」「お酒を飲みたい」「ゲームがしたい」といった短期的欲求(すぐに満たすことができる目先の欲求)に流されやすいものです。やらなければいけないことを先送りにして目先の欲求を優先してしまうのは、目的の解像度が低いからです。

今から約7、8年前、近くの大学が英検の会場になったことを知り、いきなり思い立ち受験したことがあります。ですが、そのときの私は、目的意識が希薄でした。

「なぜ自分は英検を取得したいのか」「英検を取得してどうなりたいのか」が定まっておらず、「息子が受けるなら、自分も受けてみるか……」と、ゆるく、浅く、軽く考えていたのです。

「受験する」と決めた以上は、当日、手を抜くつもりはありませんでしたが、今も忘れません。時計が13時あたり手前を示した頃、英文を読んでいる最中に、ついに睡魔が襲ってきたのです。これは、人生初の経験でした。私自身、『なんとなく』で受けた試験でしたが、本番中に集中力もモチベーションも上がらないだけでなく、人生初の試験中の睡魔には、深く反省しました。

さらに、反省点を具体的にすると、「準1級まで合格していると、大学受験で選択肢が広がって有利だよ」と受験生には指導しているのに、いざ自分が英検を受けた後、どうするかを決めていなかったことでした。

「何を」と「いつから」を紙に書き出すと効果的

どんな人にでも「やりたくないこと」「気が進まないこと」をやらなければいけない場面があります。そんなときでも、「自分は◯◯◯のためにこれをやる」という目的、理由が具体的であるほど、脳をオンに切り替えることができます。

自分の中で目的が決まっていたり、「こんな自分になりたい」という目標がはっきりしていると、集中力は高くなります。

しかし、「今から◯◯◯のために、×××をする」と意識するだけでは切り替えが上手にできないときは、「やること」と「開始時間」を紙に書き出してみてください。

「文字を書いて、それを見て、手と、目を使って目的を意識する」ことで、運動系、伝達系、視覚系、思考系の脳番地が働いて、「やるべきこと」に集中しやすくなります。

そしてもう1つ。ダラダラせず、やるべきことに集中して短時間で終わらせるには、「時間の区切り方」もポイントです。時間を区切るとは、時間割をつくることです。

「何時から何時までは、これをする。そのあと、何時から何時までは、これをする」と、始まりの時間と終わりの時間を決めることです。

脳は「時間」を区切ったほうが覚醒する

脳は、時間を区切ったほうが覚醒度(集中度)が高くなります。期間が決まっていなかったり、時間の枠が大きかったりすると、「まだ始めなくても大丈夫」と先送りしたり、「あれって、どうなっていたかな」とほかのことを考えやすくなったりします。


ですが、締め切りが決まっていると、締め切りが近くなるほど、集中度は高くなります。「締め切りまであと10分しかないけれど、まだ仕事が終わっていない」とき、「あぁ、そういえば、あれもしないといけないな〜」「あぁ、空が青いなぁ〜」などと、余計なことに気を奪われることはないはずです。

時間割をつくるときは、仕事や勉強を「量で区切る」よりも、「時間で区切る」ほうが集中力は高まります。量で区切るとは、「今日は参考書を10ページ読もう」「今日中に提案書をつくろう」といったように、「時間の枠を問わず、自分で決めた量が終わるまでやり続ける」ことです。

1時間で終わる仕事に1日分の余裕があると、「ゆっくりやっても大丈夫」「1日あれば余裕でできる」と甘えてしまい、結局、その仕事に1日費やしてしまいます。

1時間で終わる仕事は1時間できっちり終わらせる。そのためにも、量ではなく時間で区切るようにしましょう。

(加藤 俊徳 : 医学博士/「脳の学校」代表)