写真提供=NHK

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 現在放送中のNHK大河ドラマ『光る君へ』の脚本を手がけている大石静が9月30日放送の『あさイチ』(NHK総合)に出演。ゲストで登場した藤原斉信役の金田哲、清少納言役のファーストサマーウイカとともに、『光る君へ』について語った。

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 番組冒頭、大石は「先週くらいに、最終回を書き上げました」と報告。「燃え尽き症候群みたい」と笑った。また『あさイチ』への出演を迷っていたそうで、「自作を自分で解説するのはちょっとカッコ悪いな……と思って」「でも視聴者の方の声を聞くのは素敵だなと思って」と語った。

 そんな大石はもともと平安時代に詳しかったわけでも、紫式部や藤原氏に関して書きたかったわけでもなく、最初は「道長って偉い人なの?」という程度の知識しかなかったという。だが、『光る君へ』のディレクターである中島由貴からの熱烈な“口説き”によって「70歳になる年だったので『こんなに求めてくれるならやらないといけない』と思って」書くことを決めたことを明かした。そのため脚本は、書くと決めて取りかかってから3年以上が経過しているという。これらの大石のコメントにSNSでは、「かっこいい」「心の中で温めに温めた本を、満を持して実現させたと思ってた」「この方、御歳73歳なの?」と様々な反響が寄せられた。

 大石は、大人の不倫愛を描いた『セカンドバージン』(2010年/NHK総合)や軽度認知障害に侵されている女性と元小説家の男性との恋愛を描いた『大恋愛~僕を忘れる君と』(2018年/TBS系)などを手がけ、“ラブストーリーの名手”とも呼ばれている。実は、大河ドラマを手がけたのは『光る君へ』で2作目。1作目は2006年に放送された『功名が辻』で、司馬遼太郎の同名小説を原作としながらも、大胆な解釈を加えることで、全く新しい角度から戦国時代を描ききった。明智光秀が主君・織田信長に対して謀反を起こした事件として知られる「本能寺の変」を、信長と信長の正室である濃姫、そして光秀の三角関係が発端の一つであるかのように表現したのだ。大石は、戦国時代を単なる武士同士のバトルとして描くのではなく、“恋愛”の要素を効果的に入れることで、感情にグラデーションを感じられる人間ドラマに仕上げることに成功した。

 また、脚本の大きな軸に「恋愛」をおきながらも、女性を単に“恋に溺れる人”として描かないのも大きな特徴と言える。『光る君へ』の主人公・まひろ(吉高由里子)も道長(柄本佑)と出会い恋に落ちるが、同時に文学の持つ力や政治に興味を持つようになっていく。「好きな人に振り向いてほしい」という気持ちだけで行動せず、それだけで人生を終わらせたくないという強い気持ちがまひろからは感じられるのだ。

 番組の後半では、視聴者から寄せられた「このドラマで最もしあわせなキャラクターは?」の質問に対し、大石は「自分の作品が千年後も読まれているヒロイン」と紫式部の永遠の存在感を強調。すかさず、「清少納言も……」と付け足すファーストサマーウイカのコメントもあり、スタジオの雰囲気も和やかに包まれた。

 そんなまひろをはじめ、自ら作りあげたキャラクターを見つめる大石の目線は至って冷静だ。『あさイチ』で自らが描いた紫式部(まひろ)という人物について、大石は「紫式部はとても気難しい人」とバッサリ。その上で、紫式部を「人間は意に反して生まれ、意に反して死ぬ。その間を、虚しい、思うようにいかない人生を、生きるんだって思っていた」人間として描いたことを明かした。宮中で慣れない生活をしているまひろのこれからを大石のような目線で見ると、また違ったものが見えてくるかもしれない。(文=久保田ひかる)