アクションカメラの先駆者、GoProがリストラで従業員15%削減…研究開発よりもマーケティングに力を入れたスタートアップはなぜここまで凋落したのか?

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アクションカメラ市場を切り開いた、アメリカのスタートアップ企業「GoPro」が凋落の一途をたどっている。2024年4-6月の売上高は、前年同期間比22.7%減の1億8600万ドル。4600万ドルの営業損失を出し、前年同期間の2200万ドルの営業損失から赤字幅を大きく拡大している。日本の緻密でていねいなモノづくりから一線を画すようにして誕生したGoProだが、競合他社の開発スピードに取り残され、マーケティング先行型のビジネスモデルの崩壊を体現しているかのようだ。

【図】GoProの売上高と出荷数

自信をのぞかせていたサブスクも成長限界に到達

GoProは、8月19日に全社員925人(2024年6月末時点)の15%に相当する140人の人員削減策を発表した。8月6日の決算発表日に、2024年度の経費を3億2000万ドル程度に抑制するリストラ案を出しており、人員削減はその一環となる。

なにしろGoProは売れていない。2024年4-6月の出荷数は57万6000台、これは前年同期間の2割減である。2024年度上半期の累計販売台数は96万9000台(前年は116万6000台)。なんと100万台を下回ったのだ。

GoProは、動画の自動アップロードやクラウド上で編集作業などができるサブスクリプションサービス「GoPro Plus」(日本国内では2017年3月30日からサービス開始)の運用に自信を見せていた。

5K動画撮影に対応、また旧モデルではできなかったレンズカヴァーの交換が可能になった「HERO9」を市場投入した後の2021年1-3月の課金売上は1000万ドルで、前年同期間から2.2倍に急拡大していた。しかし2023年7月以降は、四半期単体で2500万ドル付近での横ばいが続いている。

特に2023年に入ってからの停滞感が顕著になり、GoProはこの年にサブスクリプション加入での本体割引を廃止した。結局のところ、割引をエサに加入者を釣り上げていたにすぎず、根本的な収益改善策にはなっていなかったということだ。

アクションカメラが陳腐化したというのは本当か?

市場調査やコンサルティングを行うMordor Intelligenceの「アクションカメラ市場規模と市場規模株式分析 - 成長傾向と成長傾向予測 (2024 ~ 2029 年)」によると、2024年のアクションカメラの市場規模は44億1000万ドルで、前年比15.8%の増加。2029年までに91億8000万ドルまで拡大する見込みだという。市場規模は大きく、拡大ペースも速い。

GoProは、創業者ニック・ウッドマン氏が自身のサーフィンの様子を自由に撮影できるカメラがなかったことをきっかけに開発に着手。アクションカメラの市場を切り開いた。

しかし、皮肉にもGoProはアクションカメラ市場拡大の大波に乗り遅れる結果となったのだ。

キーワードの検索需要を調べる「Googleトレンド」でGoProを検索すると、そのピークは2014年12月に訪れている。ナスダック市場に上場した2か月後だ。現在は、その1/4ほどにまで落ち込んでいる。

一方、2024年にピークに到達しているのが「Insta360」だ。 

Insta360は中国のスタートアップShenzhen Arashi Vision(深圳嵐ビジョン株式会社)の360度カメラだ。2016年にiPhoneに接続するカメラを発売して成功したが、製品単体で撮影できるウェアラブルカメラへと舵を切った。

当初、Insta360は風景撮影などに強みを持っており、GoProとの差別化は図れているかのように見えた。しかし、Insta360の小型化が進み、耐久性も備えるようになると、アクションカメラとしての高い性能にも注目が集まるようになった。「Insta360 Ace Pro」はライカとレンズを共同開発するなど、映像のクオリティがGoProを各段に上回るようになる。

GoProはInsta360よりも充電時間が長いうえ、熱暴走が頻繁におこる傾向があり、炎天下の夏では使用に耐えられないことすらある。Insta360と比較すると、劣っている点が目立ちすぎるのだ。

よく、GoProの業績不振はアクションカメラ市場の低価格化と陳腐化が進んだことが要因だと報じられることがある。しかし、GoProは単なるアクションカメラの陳腐化のせいで後れを取っているとは考えにくい。

いまや日本の電気メーカーはテレビなどの主力家電分野で凋落している。これは生産技術が流出・模倣され、人件費の安いアジアメーカーが優れた製品を低価格で販売できるようになったためだ。テレビはすでに技術力で差をつけるのが難しいところまで到達しており、価格のみが勝敗を分けるポイントとなれば、今後日本メーカーが逆転するのは難しい。

しかし、GoProの凋落はこの流れとは明らかに異なる。製品力そのものが、競合に劣っているのだ。価格に見合う価値を提供できていないのである。

それに加えて、スマートフォンに搭載されるカメラの品質も向上した。特に動画撮影においては、iPhoneとGoProの画質は変わらなくなっている。クオリティの高い競合他社の製品と、消費者がすでに持っているスマートフォンに中間にGoProが位置するとすれば、購入する理由が失われているのは明らかだ。

研究開発費よりもマーケティングを重視した、いびつな構造

GoProが絶頂期を迎えていた2015年度の研究開発費は2億4100万ドル。一方、広告宣伝費は2億6800万ドルだった。製品開発にかけるそれよりも、マーケティング費用のほうが高かったのだ。

アクションカメラの誕生と市場拡大は、YouTubeやSNSの発達と切り離すことができない。GoProはサーファーやスノーボーダーなどアウトドアスポーツのユーザーが撮影した動画を買い取り、自社のYouTubeで利用するなど、巧みなマーケティング戦略でファンを獲得してきた。

上場した2014年当時、日本の家電メーカーがGoProのような優れた製品を生み出せなかったのは、各メーカーが機能性にこだわり過ぎたからだとする風潮があった。そこに「現代の消費者は機能を買うのではない、体験を買うのだ」というGoProの登場は革新的だった。

確かにそれは一理あるが、GoProは機能面を軽視しすぎたきらいがある。GoProはソニーなどから主力部品を調達し、製造を委託するファブレス企業だ。

ファブレスで大成功した会社にAppleがあるが、その理由は、iPhoneの製品化には巨額の研究開発費を投じ続け、デザインと機能面で他社が追随できないレベルにまで達することができたからだ。

さらに、GoProは2016年にドローンを販売してわずか2年後に撤退している。中国の民生用ドローントップメーカーであるDJIの牙城を崩すことができなかったのだ。短期間での撤退決定は、その端緒すらつかめなかったということになる。一連の出来事は、GoProがモノづくりに向いていない企業であることをよく表している。

ファブレスというと格好はつく。しかし、製造を委託する会社にモノづくりを丸投げした結果、上流工程を担う会社の技術開発力そのものが落ちるというのはよくある話だ。

GoProは2018年に身売りの可能性に言及して世間を驚かせた。それ以降は具体的な話に進展していないが、すでに進退きわまった状態にあるように見える。今回の人員削減でますます開発力は失われ、他社に勝てる商品を世に送り出せるとは考えづらいからだ。

GoProの時価総額はかつて90億ドル近くまで達していたが、現在は2億ドルほど。巨大企業はおろか、中堅でも手を出せそうなレベルだ。

一時代を築いたスタートアップが苦境に立たされ、叫び声をあげている。

取材・文/不破 聡 写真/Shutterstock