バリキャリの皮をかぶった限界OLが包容力たっぷりの女子大生に甘やかされる『限界OLと女子大生が〇〇する話 1』

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 社会の中で人と関わりながら生きる私達は、多かれ少なかれ自分を偽ってはいないだろうか。親、友達、職場の人たちの前でそれぞれが求める自分を演じている気がして、ふとした時に疲れを感じることもあるだろう。

いま、編集部注目の作家

『限界OLと女子大生が〇〇する話 1』(小畠泪/‎KADOKAWA)は、X(旧Twitter)でバズった注目作だ。お隣同士で暮らすバリキャリ風の限界OL・瀬川さんとイマドキ女子大生の安藤さんがひょんなことから交流を持つことからはじまるトキメキに満ちた百合漫画だ。本書では、Xで追っていた人も細切れではなく通しで2人の物語を楽しめる。さらに、20ページ以上にわたる描き下ろしも収録されていて必読だ。

『限界OLと女子大生が〇〇する話』を試し読み

 仕事帰りに瀬川さんは、安藤さんが部屋の前で男に絡まれているのをみつけて助けるところから物語は動いていく。瀬川さんは安藤さんを自宅にあげるが、お茶すら出せないような部屋の散らかりようだった。そこで、安藤さんは助けてくれたお礼に掃除を手伝い部屋を綺麗にしていく。瀬川さんは、会社ではしっかりしていると言い訳するが、

こんなにダメダメなのに?

 と安藤さんが突っ込みを入れてしまう。言われた瀬川さんはいきなり泣いてしまう。

みんなが思っているほどすごくない…
ありがとう 気付いてくれて

 瀬川さんは、外では完璧な仕事ぶりで面倒見もいいすごい人として見られていた。本当は仕事でミスもするが、それは自分でリカバリーしてしまうから気付かれない。逆に、部屋の掃除をはじめとした家事はてんでダメ。食事はコンビニばかりだ。それを指摘されたことで、涙腺がゆるんでしまうとは、今までどれだけ無理をしてきたのかと思ってしまう。

 まわりが「あなたはこういう人」と評する自分、それは本当の自分なのか。まわりが思い望む自分になるために無理をしている人もいるのではないだろうか。毎日ギリギリで頑張ってすごい自分を演じざるを得ない瀬川さんにとって、本当の自分をさらけ出し受け入れてくれる存在が突如現れたのだ。ダメというある意味貶すような言葉が、ダメでもいいんだという救いとなることもあるだろう。

 一方で、安藤さんは大学の友達グループとの会話が合わないことが悩みだ。友達たちの下ネタや会話のテンションに付いていけず、グループ内では「天使すぎ」と友達から言われてしまう。しかし、瀬川さんの世話を焼く時はとてもいきいきとして楽しそうだ。

 瀬川さんと仲良くなった安藤さんは部屋の掃除を手伝うようになる。そして、2人の仲は徐々に近づいていく。

 外面を取り繕って生活をしていると、自分をさらけ出すことが難しくなってくる。相手が素の自分をみつけて肯定してくれたらどんなに嬉しいだろうか。自分の短所も長所も飲み込んでくれる相手がいたら、性別は関係なく惹かれてしまうかもしれない。

 気付いたら、相手のことを考えて逢いたくなってしまうようになるのは必然ではないだろうか。描かれる2人の変わりゆく表情をじっくり味わっていただきたい。私は、甘酸っぱくて大変美味しゅうございますと叫びたくなった。有りがちないにしえの表現ではあるが、どちらかのお宅の壁になって見守りたいとも思った。いや、2人の部屋の間の壁になればいいんじゃないか?

文=山上乃々