セブン-イレブン

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「買収への“懸念”が残る」

 国内に本格的なコンビニエンスストアのチェーンが誕生してから今年で50年。そのサービスは、半世紀で世界に冠たる地位を確立した。そんな折、最大手のセブン-イレブンカナダの同業者から買収提案が──。われわれの慣れ親しんできた風景は、一変してしまうのか。

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【写真を見る】セブンイレブンを飲み込もうとするACTが展開するコンビニチェーン「クシュタール」

 セブン-イレブンに、外資の手が伸びていると報じられたのは今夏のことだった。

カナダを拠点に北米や欧州でコンビニ『クシュタール』などを展開する『アリマンタシォン・クシュタール』(以下ACT)から買収を提案されたと日経が報じたのを受け、親会社であるセブン&アイ・ホールディングス(以下HD)が8月19日に発表しました。『法的拘束力のない初期的な提案』の時期は7月中下旬とみられ、HD側は独立社外取締役のみで構成される特別委員会を設置し、内容を精査。9月6日には、その答申を受けて先方に送付した提案拒否の書簡を公表しました」(全国紙経済部記者)

 その書簡でHDは、

「ACT側が提案の条件を大幅に引き上げても買収には“懸念”が残るとし、とりわけ日本の消費者の生活にHDが不可欠な役割を果たしているという点について、『さらなる協議が必要』と明言しています。コンビニのあり方についての両者の考え方の乖離は著しく、交渉は長期化するとみられます」(同)

懸念される新商品の削減、食品のレベルの劣化

 コンビニ評論家の渡辺広明氏が言う。

セブン-イレブン

「日本のコンビニは毎週100品以上、年間で約5000品の新商品が出て、うち7割ほどが1年で入れ替わります。つまりは、それだけ商品開発力が卓越している。さらに全国津々浦々、同じ商品が売られているというのはハイレベルのオペレーションで成り立っているわけで、まさに世界最高峰のリアル小売業です」

 連綿と受け継がれてきたこのシステムは外資といえど、おいそれと手を付けられる部分ではないといい、

「買収された途端にサービスがガラッと変わるとは思えませんが、それでも強いて懸念を挙げるならば、新商品はおろかテイクアウト用の中食もほとんど置かれていない“北米式”の店舗になりかねないという点です。週に100の新商品は多過ぎるから削減するとか、コストに見合うようにおにぎりの品質を落とすとか、はたまた廃棄が出ないように食品を軒並み冷凍にしてしまうとか……。となれば、相当数の消費者の支持を失うのではないでしょうか」(同)

「インフラ機能を維持できるのか疑問」

 また、生活インフラの観点から外資の買収を危惧するのは、コンビニジャーナリストの吉岡秀子氏である。

「例えばコンビニは、地震など災害時には要請に応じて物資を届ける『物資支援協定』を全国の自治体と結んでいます。帰宅困難者が発生した場合は『災害時帰宅支援ステーション』としてトイレなどを提供する取り決めもなされており、大雨などで河川が増水して危険を感じるような際には、近くのコンビニが自治体に報告するケースもあります」

 さらに続けて、

「店の入口に、周知する“象のステッカー”を貼って『セーフティステーション』としても機能しています。これは助けを求められたら緊急通報したり、特殊詐欺を防いだり、また迷子や認知症の方を保護したりと、町の安全・安心拠点の役割を果たす活動です。小売業の枠を超え、こうして重要なインフラの役割を担っているコンビニが、外資に買収されても同じ機能を維持できるのか、非常に疑問です」(同)

 同様の指摘は他の専門家からも。流通情報誌「激流」の加藤大樹編集長はこう語る。

「重要なのは、セブンなどのコンビニは小売りの最大手として流通を支え、そして食を通して消費者の暮らしを支える商店というだけでなく、すでに国内のインフラの一部となっている点です。ATMなどの銀行機能を備え、自治体の発行する書類を受け取ることもでき、夜間も営業していることから地域の防犯の役割も担っている。少子高齢化が進むさなか、特に過疎地などでは、コンビニは“地域の生命線”になっていると言っても過言ではありません」

 9月12日発売の「週刊新潮」では、HD経営陣の本音や、1号店オープンを成し遂げた「コンビニの父」こと鈴木敏文・HD名誉顧問(91)のコメントを紹介している。

「週刊新潮」2024年9月19日号 掲載