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近年、映画やドラマ、舞台といったフィクション作品には、あらかじめ「トリガー警告」が表示される機会が増えた。この作品には暴力描写や性的描写がある、自殺や自傷行為の表現が含まれている……。観客や視聴者のトラウマをむやみに呼び起こさないように、また作品を受容する側がある程度の基準をもって選べるようにと、世界的に実施されている取り組みだ。

しかし、このトリガー警告に反対する声も決して少なくない。あらかじめ要素や描写を明かしてしまうことで作品性が損なわれる、作り手の意志や観客の体験が軽視されているというのだ。「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」(2022-)や『ラスト・ナイト・イン・ソーホー』(2021)などで知られる俳優、マット・スミスもその一人のようである。

「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」より © 2022 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.

英のインタビューにて、スミスは「大きな問題だと思います。とりわけ今は、倫理的に難しい物語を語るべき時代。絵画や舞台に触れるとき、不快に感じたり、腹が立ったりしてもかまいません。私が心配しているのは、すべてが抑えられ、単純化されていることです」と述べた。

「私たちは観客に対し、作品を見せる前から“怖い思いをしますよ”と言っているわけです。しかし、衝撃を受けたり、驚いたり、動揺したりすることが重要ではないのですか? ある種の風潮ゆえに、ストーリーを規制しすぎたり、発表することを恐れたりするのは残念なこと。私はトリガー警告には賛成できません。」

ここで言及されているのは、トリガー警告そのものに対する疑念と、トリガー警告の普及によって起こるかもしれない自主規制の問題だ。レーティングと表現の問題は以前から存在し、「R指定になったり、激しい描写が含まれていたりすると興行成績や視聴率に影響する」というスタジオやテレビ局の考えから、過激な表現が修正されることは時折あった。トリガー警告もそうした考慮の範疇に入れば、おそらく自主規制の問題につながってゆくだろう。

今年2月、同じくトリガー警告に疑念を表していたのが、『ハリー・ポッター』シリーズでも知られる名優レイフ・ファインズだ。「昔はトリガー警告なんてなかった」といい、「『マクベス』には非常に不穏なシーンもあれば、ひどい殺人もあるけれど、演劇のインパクトは衝撃を受けたり、動揺したりすることであるべき。こうしたものに備える必要はないと思う」とコメント。「衝撃や予測できないことが俳優や演劇をエキサイティングなものにしている」のだと強調したのである。

作品性や体験を守りたい&そのままの形で享受したい側の視点と、作品によって思わぬダメージを受けたくない側の視点はなかなか交わらない。トリガー警告が、「そういうものは事前に見たくない」と考える者の目にも飛び込んでくる問題もあるが、その一方で、人はどんなものにトラウマを呼び起こされるかわからない以上、警告の表示を選択できるというのも解決策にはならないのかもしれない。

ここ日本でも広がりをみせている「トリガー警告」、あなたはどのように捉えるか。

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