「中国人のマナーが悪い」印象は老人のせいだった…”迷惑老人”であふれる中国の絶望的な状況

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中国で“迷惑老人”をめぐる、ある事件が起きた。

8月上旬、中国の地下鉄の車内で、高齢者が若者をいきなり殴ったのだ。69歳の高齢男性が23歳の若い男性に「席を譲れ!」と怒鳴ったのに対し、若者は高齢者に席を譲らなかったことが事の発端だ。

これに対して、SNS上では賛否両論が巻き起こったが、意見の多くが若者を擁護し高齢者を批判するものだった。前編『「ヤバさは日本以上」地下鉄で69歳男性が23歳の若者に暴行…いま中国を悩ます“迷惑老人”の実態』で見たように、ひと昔前の中国ならこれはあり得ない反応だった。

社会の変化に伴い、中国に根付く価値観も少しずつ変化している。その背景の一つに、中国社会の高齢化がある。

中国人の印象を悪くする“迷惑老人”

23年末の時点で、中国の65歳以上の人口は約2億1700万人。高齢化率は15.4%に上る。日本(約29%)に比べれば低いが、急速に高齢者が増え、高齢化社会になりつつある。定年が早い中国では、65歳以上の人々の多くは、すでに働いていない。

彼らの認識では「高齢者は敬われ、大切にされるべき存在」であるはずだが、今の若者から見れば、働かないのに年金をもらって暮らし、傍若無人にふるまう「社会のお荷物」のように見える。

また、中国の場合、特有だと思われるのは、65歳以上の人々は、文化大革命(1966〜1976年)を経験してきた世代で、あまり教育を受けていない人が多いという点だ。

そのこともあるからか、行列に横入りしたり、勝手に他人の座席(高速鉄道などの指定席)に座り込んだり、大声でわめいたり、上半身裸で外に出たりする老人が少なくないが、若者の多くは、そうした行動を嫌悪し、「恥ずかしい」と思っている。

老人にしてみれば、これまでも、ずっとそうやって生きてきたのに、なぜ突然、若者から嫌われたり、迷惑がられたりしなければならないのか、と思うが、ネットを通じて「世界」の情報にアクセスし、洗練されてきている若者にとっては、「中国人のマナーがなかなかよくならないのは、迷惑老人のせいだ。彼らが中国人全体のイメージを悪化させている張本人」との意識がある。

2000年代、急速に経済発展した時期に生まれた若者にとって、価値観は常に変化しているが、高齢者の意識は昔と少しも変わらない。このギャップが存在し、埋まらないという問題もあるだろう。

厳しい失業率も社会の分断の背景に

それに加え、昨今の若者を取り巻く厳しい現状も関係している。中国国家統計局の発表によれば、今年7月の16〜24歳(学生を除く)の失業率は17.1%。前月比3.9%上昇し、現在の集計方法となった23年12月以降で最悪となった。

これは2022年の日本の15歳〜24歳の完全失業率が5%未満にとどまっている(独立行政法人 労働政策研究・研修機構より)ことを見ても、かなり高いことがわかる。

前述の事件の被害者だった若者も無職だったと現地メディアで報じられている。

精神的に追い詰められている若者も多く、高齢者に対してだけでなく、そもそも、他者を思いやること自体、難しくなっているという問題もある。精神的な余裕がなくなってきているという点では、日本も同様かもしれない。

個人的な感想だが、日本でも、以前に比べて電車内でトラブルを目撃する機会が増えてきた、社会がギスギスしてきた、と感じている。

こうした社会環境の中で起きたのが、冒頭の山東省の事件だったが、中国のSNSを見てみると、ここ数年、似たような事件が頻発している。今回のような流血騒ぎになることはあまりないが、昨今はすぐに現場で動画を撮影する人が増え、小さなトラブルが表面化するようになった。

それがSNS上で他人同士の「別のケンカ」に発展、新たな社会問題の火種にもなってきていると感じている。

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