国内電通グループは8月5日、電通本社ビルにてAI戦略説明会を開催。独自のAI戦略を新ビジョン「AI For Growth」として発表した。「AI For Growth」は、さまざまなレイヤーでのAI活用の取り組みを総称した名だ。

同グループは、AIを単なる自動化や効率化のための技術・機械として利用するだけではなく、人の思考プロセスやノウハウはもちろん、さまざまなデータをAIにインプットし、進化したAIから人がまた学ぶというサイクルの実現をめざすという。

電通ジャパン(dentsu japan)のデータ&テクノロジープレジデントである山口修治氏は、「お客様や社会の成長に貢献するという目的のために、我々はAIを活用するという考えが根底にある」と述べ、2016年ごろから注力した自社のAI活用を振り返った。「当初はAIを活用したビジネスが実際にはあまり広がらず、利益にならないという課題があった」と同氏は話すが、ジェネレーティブAIの誕生以降、ビジネスとしての活用が急速に高まっていると実感しているようだ。

AIは広義のマーケティング全般に利用できる



同グループが「AI For Growth」の取り組みとして挙げたのが、「マーケティング支援」「トランスフォーメーション支援」「プロダクト開発」「データインフラ拡充」「AI人材育成」「技術研究・開発」「AIガバナンス整備」「組織構築・経営」の8つであり、とくにマーケティング支援の部分では、クリエイティビティと技術力をかけ合わせ、AIで新たなマーケティングや顧客体験の創出を狙う。

AIを使ったマーケティング支援の直近の事例として、説明会では4社の事例が挙げられた。ひとつは、KDDIの「なりきりアスリートメーカー」で、ユーザーが自分の顔写真からアスリートのイラストを生成できるエンターテイメントだ。パリオリンピックの開催とあわせて実施したという。また、日本コカ・コーラの事例として「AI明日メーカー」を紹介。興味ある項目を選ぶだけでオリジナルの占いができるコンテンツであり、占いの文章と画像をAIが生成するものだ。

このほか、みんなのマーケットによる同社サービス「くらしのマーケット」の広告クリエイティブを紹介。OOH広告において、アートディレクターのディレクションのもと、人物画像を画像生成AIで制作したという。

さらに、ゴルフダイジェスト・オンラインのAI活用では、ゴルフ場の検索ページに「GDO店員さんAI」の設置。これは、ユーザーひとりひとりのゴルフ体験に関して、カスタマージャーニー上のあらゆる接点でサポートできるエージェントAIだという。

コンテンツの制作から広告クリエイティブ、はたまたチャットボットなど、AIを使ったマーケティング支援はさまざまだが、山口氏は「AIの活用はユーザーに向けたアウトプットだけではなく、広義のマーケティング全般に利用できる」と語る。

課題となるガバナンスの整備



一方で、AI活用におけるガバナンスの整備も、近々の課題であることに間違いはない。国内電通グループでは、世界に拠点を持つグループ全体のAIポリシーと、日本の状況に沿ったガイドラインという二重の体制で運用しているようだ。同社のAIサービス利用ガイドラインをを要約すると、主に以下の3点に集約される。

システムとデータの管理

安全性と透明性の担保

確実な運用体制

具体的には、取り扱いに注意が必要な個人情報や機密性が高い情報の入力は不可、AIで生成されたコンテンツを取引先などの社外へ提供する場合は必ずその旨を付記して合意を得るなどに加えて、活用においては通常の広告業務と同様かそれ以上の登録商標・登録意匠の類似性をチェックし、生成結果そのままの利用ではなく、加筆修正による独自性の担保を推奨するという。

また、誤情報の確認を必ず実施し、コンテンツの粗製乱造も禁止する。加えて、AIガバナンスコミッティの組成と電通ジャパン全案件への対応窓口を設置しているようだ。

「創造的思考モデル」の導入



説明会ではこうした同社のAI戦略に加え、同グループ内でのクリエイティブ活用を目的とした新AIプロダクト「AICO2」も発表された。「AICO2」はコピーライターが考えたコピーだけではなく、コピーライターの意図や思考プロセスも学習させたキャッチコピー生成テクノロジーだ。

従来の「AICO」(2017年リリース)はキャッチコピーのパターンを学習し、文法のパターンなどを適用したうえで出力されていたが、今回のバージョンアップはライターの思考回路やノウハウを学習させ、より心の琴線に触れるようなコピーを生成できるようになったという。



クリエイティブ領域におけるAI活用について登壇した電通 CXクリエーティブ・センターセンター長の並河進氏は、「当社のクリエイターおよびプランナーの創造的な思考を学習させた画期的な人工知能モデルを『創造的思考モデル』と呼んでいる。今後、このモデルをさまざまなAI活用に導入・検証していく」とした。

Written by 島田涼平