ユニクロ中国の店舗(写真:ロイター/アフロ)

円安下のインバウンド需要を追い風に絶好調のユニクロが、利益の4分の1を稼ぐ中国市場で不振に陥っている。日本ではバブル崩壊後に価格破壊を起こし、デフレ消費の勝ち組として成長したが、当時の日本と同じような不況にある中国では逆に消費者離れを招いている。

ユニクロやジーユーを運営するファーストリテイリングは7月11日、2024年8月期第3四半期決算(国際会計基準)を発表、通期予想を上方修正した。売上収益は前年比11%増の3兆700億円、純利益は3650億円と過去最高を見込む。

前年は過去最高だったものの…

国内ユニクロ事業はインバウンド需要の強い追い風を受け大きく伸びた。値引きを減らしたことが奏功し、粗利益率も向上している。海外ユニクロ事業も直近の2024年3〜5月は北米、欧州、東南アジアが大幅な増収増益だった。

一方、ファーストリテイリングの稼ぎ頭だった中国のユニクロ事業は3〜5月、大幅な減収減益となった。

2023年8月期通期は香港、台湾を含むグレーターチャイナの売上収益、営業利益ともに過去最高を更新し、同9月〜11月も大幅な増収増益だったが、同12月〜2024年2月は営業利益が横ばいとなり、成長が止まった。つまりこの1年で急失速している。

2023年8月期の営業利益で、グレーターチャイナのユニクロ事業は全体の27.4%を占め、国内ユニクロ事業(30.9%)に次いで大きい。

ユニクロのグレーターチャイナの店舗数は1031店舗(2023年8月末)。うち中国本土が9割超の925店舗で、国内の800店舗を上回る。

今は全体の好調の陰に隠れて目立たないが、中国の不振が業績に与える影響は大きい。

不動産不況が長引き、雇用の悪化と中国経済の減速が鮮明となった1年前から、ファーストリテイリングは決算会見でユニクロ中国事業の見通しをたびたび聞かれてきた。

柳井正会長兼社長は昨年10月、「ショートタームでは景気後退はあるかもしれない」としながらも、長期的な消費の成長に自信を示し、中国の特殊性を強調するのは欧米流の考え方だと反論した。


中国ユニクロの店舗(写真:筆者提供)

しかし2024年3〜5月のグレーターチャイナ事業は予想より下振れし、ユニクログレーターチャイナCEOを務める潘寧氏は7月11日の決算会見で中国事業の変調を認めた。

ユニクロ風味で安い「平替」が出現

潘氏はユニクロ中国事業の不振の原因を、コロナ禍収束によるリベンジ消費で前年同期の業績がよかったことの反動、消費意欲の低下や天候不順、ショッピングモールの集客力低下、さらにマーケティング活動の不足や、ニーズにあった商品構成が不十分だったことなどと説明した。

天候要因は別として、「景気低迷で財布のひもが固くなった消費者に逃げられた」と総括できる。

潘氏は中国の消費者の新たな価値観として「平替(ピンティ)」というキーワードを紹介したが、そのことは中国でも話題になった。

「平替」とは「より安価な代替品」という意味で、例えるなら無印良品の商品とどこか似ている、100円均一の収納ケースといったところだ。

潘氏は中国の消費トレンドとしてさらっと紹介したが、ユニクロは中国でまさに「平替」に売り上げを吸われている。

中国のECプラットフォーム「タオバオ(淘宝)」や「ピンドゥドゥ(拼多多)」で「優衣庫(ユニクロ)平替」を検索すると、「ユニクロと同デザイン」「商品タグを切ったユニクロ」「ユニクロ差押え品」と称したユニクロもどきの商品が多数ヒットする。価格は本家より2〜5割安い。


ユニクロ 平替で調べるとたくさんのユニクロ風味が出てくる(写真:タオバオより引用)

中国のアパレル工場は、越境ECのSHEINのようなファストファッションにトレンドを反映した新商品を猛スピードで供給している。そこで経験を蓄積し、品質やデザインを向上させ、自らECを通じて消費者に直接商品を販売するD2Cブランドが台頭している。

ユニクロは1998年に1900円のフリースが大ヒットしたことで全国区のブランドに成長し、アパレル業界に価格破壊を起こしてデフレ時代を勝ち抜いた。

機能的でコストパフォーマンスに優れるというブランドイメージは日本市場で完全に定着しており、学校の制服にも採用されるようになった。この1、2年で主力製品を値上げしたが価格競争力は揺るがない。

中国の消費者がユニクロに抱くイメージは、日本とは異なる。ユニクロは2002年に同市場に進出したが、知名度が高まり店舗数が急激に増えたのは中国法人が設立された2012年ごろからで、消費力が急速に向上する中国人消費者に対し、コスパの高さや機能性ではなく「日本のおしゃれなアパレルブランド」を打ち出した。

為替レートによって日本円換算額は変動するものの、同じ商品なら日本で購入したほうが安く、2010年代に中国に住んでいた筆者は、日本に一時帰国した際にセールで値下げされたウルトラライトダウンジャケットを購入し、お土産に配ってとても喜ばれた。

ユニクロが2019年にニューヨークの著名アーティスト「KAWS(カウズ)」とコラボしたTシャツを中国で発売した際には、転売目的で入手しようとした客が店舗に詰めかけ、大混乱を引き起こした。日本で発売されたときも都内の店舗は中国人だらけだった。

圧倒的に安いとも思われていない

カウズの例からもわかるように、ユニクロは中国で「定番」というよりも「おしゃれ」「ホワイトカラーの若者向け」「トレンド」というイメージを持たれている。

潘氏は「現在、中国大陸は不景気で、価格の安さを重視するお客様は特に若い方を中心に多くなっています。ただし、ユニクロの価格を高いと思っているお客様はそれほどいないと思います」と説明したが、「高い」とは思われていなくても、圧倒的に安いとも思われていない。

だから中国の消費が低迷し節約志向が高まったとき、「以前より値引きが少ない」と感じて不満を抱いた消費者もいたようで、ユニクロ風味の「平替」に顧客を奪われた。

日本の不況を追い風に既存アパレル企業から顧客を奪ったユニクロは、中国では逆の立場になったと言える。

潘氏は「集客できていない店舗が150ほどある」と述べ、ユニクロ中国事業の不振の理由として店舗間の集客力の差も挙げた。これも景気が関係している。

コロナ禍が収束し街に人が戻った2023年以降、ショッピングモール不況も顕在化している。2010年代後半に大型商業施設が次々に建設され、1つの駅に複数の施設がひしめき合っていることも珍しくない。過当競争で集客力の格差が広がり、平日の昼間はがらがらのモールも増えている。

負け組の商業施設に入居しているユニクロ店舗の売り上げは当然芳しくない。7月下旬の平日午後、大連市内の商業施設に入っているユニクロを訪れた日本人客は「10分滞在していたが、ほかの客は2、3人しかいなかった」と話した。

柳井会長兼社長は昨年10月、グレーターチャイナの今後の戦略として、より収益性の高い立地を厳選し年間80店舗ペースで新規出店すると同時に、収益性や集客力が低い店舗を中心に年間50店舗をスクラップアンドビルドしていくと説明した。潘氏も成長が見込める都市に旗艦店を出店しつつ、不採算店の閉鎖を進める方針を示した。

距離感に戸惑う消費者も

ポルシェやグッチなど欧州の高級ブランドはドルだった中国市場が大不振に陥り、責任者の交代や株価低迷を招いている。

中国経済が好調で消費意欲が旺盛だった時期はブランドの力で成長を続けられたが、景気が変調し消費者が選別を強めたことで買い控えが起きたり、「平替」されるのは(ポルシェは中国メーカーの高級EVにシェアを奪われている)、ユニクロも含めて共通している。

ファーストリテイリングは2025年8月期に中国市場を再び成長させるため、地域や店舗ごとのニーズにきめ細かく対応する「個店経営」を強化していくという。

ただ、SNSでは早速「ユニクロは店員に絡まれずゆっくり見て回れるところがよかったのに、最近はすれ違うたびに挨拶されて居心地が悪い」など、距離感の変化に戸惑う声も出ている。

(浦上 早苗 : 経済ジャーナリスト)