宮田笙子

写真拡大

 日本体操協会は7月19日、都内で緊急会見を開き、体操女子・パリ五輪代表の宮田笙子(19)に「喫煙と飲酒行為が発覚した」ため、彼女は代表を辞退したと発表した。以来、SNSなどネット上では今でも盛んに投稿が行われているが、なぜか今回は“賛否両論の大議論”が起きていない。Xでは多くの著名人が「代表復帰」を求めているのに対し、一般のユーザーは辞退を強く支持する声が圧倒的多数を占めているからだ。

 ***

【写真をみる】鍛えあげた太ももがしなやかに躍動! 身体のラインが美しすぎる宮田笙子

 IT担当の記者は「SNSは本来であれば、著名人の投稿でネット世論が決定づけられることも珍しくありません」と言う。

「ネット世論が変わるほどのインパクトが与えられなくとも、著名人の投稿に多数の読者が賛同のメッセージを寄せ、意見の違う投稿者と論争が起きることはよくあります。ところが今回は名だたる著名人が『宮田選手が五輪に出場できないのは問題だ』と反対を表明しても、一般のユーザーは納得せず、代表辞退は当然だという意見が圧倒的に多いのです。長年、SNS上での世論を見ていますが、著名人が反対しても賛否両論にはならず、投稿の圧倒的多数が賛成のままという状況は珍しいと思います」

宮田笙子

 では宮田の五輪辞退に異議を唱えた著名人の投稿を、Xから見てみよう。やはり最も注目されたのが、五輪に出場した経験を持つ為末大氏(46)の投稿だ。為末氏は400メートルハードルの日本記録を持ち、五輪は2000年のシドニー、04年のアテネ、08年の北京と3大会連続出場を果たした。

《問題だったとは思いますが、代表権を奪うほどではないと思います。どうか冷静な判断をお願いします》(註:ポストによってはデイリー新潮の表記スタイルに合わせた、以下同)

「大袈裟に騒ぐことが正義なのか?」

 登山家の野口健氏(50)の投稿も、一種の“アスリート枠”として注目を集めた。さらに野口氏は日本では18歳で成人になるにもかかわらず、飲酒と喫煙は20歳からという“ズレ”にも違和感を表明した。

《「法律違反したら代表選手から外される」という事ならば車などの駐車違反やスピード違反でも外されるのだろうか。1キロオーバーしても取り消しか? それはそうと成人してもタバコ、酒がダメなままなのが理解できない。成人を18歳に引き下げた時に見直すべきだったのでは》

 宮田側は飲酒や喫煙は1回だけだったと説明している。だが“依存”の観点から注目されたのか、覚せい剤と大麻所持で逮捕歴のある俳優でタレントの高知東生(59)の投稿は注目された。

《19歳の飲酒喫煙で、大人達がこんな一斉攻撃するのやめようぜ。少し前なら19歳は未成年として、重大犯罪者だって顔出し実名報道されなかった。飲酒喫煙でこんなに追い込む必要あるか? 誹謗中傷は命を脅かす危険だってある。人一倍頑張ってきた若者の少しばかりの失敗を、大袈裟に騒ぐことが正義なのか?》

政治家からも異論

 同じ芸能人のビートきよし(74)は政治不信に引っかけた投稿で注目を集めた。

《ごめんなさいしてオリンピック出してやれよ50億どっかやっといて偉そうにしてるクソジジイの方がよっぽどムカつく》

 自民党で50億円の金額が問題になったといえば、二階俊博氏(85)が党幹事長に在任中、約50億円の政策活動費が使途不明のままになっていることが思い出される。

 政治家からも異論が出た。まずは参議院議員で作家の猪瀬直樹氏(77)のポストをご紹介しよう。

《つくづく日本人は劣化している。たかがタバコで何を騒いでいるのか。麻薬じゃないんだぞ!! 規則尽くめの杓子定規が日本をダメにしてきたのだ。こんな些細なことで19歳の夢を潰すつもりか!》

 猪瀬氏は日本維新の会に所属しているが、立憲民主党の衆議院議員・米山隆一氏(56)も同様の意見を投稿したことは興味深い。この問題について米山氏は複数のポストを投稿しているが、ここでは2つをご紹介したい。

《仮に喫煙が事実だったとして、厳重注意の上反省文の一つも書いてもらえば良い事ではないかと思います。冷静な対応をと思います》

《罰則は厳重注意と反省文の提出で十分だと思います。法律にも、たばこ没収程度の罰則しかありません》

あの井川氏は「日本人バカばかり」

「2ちゃんねる」開設者で元管理人の「ひろゆき」こと西村博之氏(47)の投稿は、いわゆる“多数派世論の逆張り”が少なくない。今回も同じ狙いなのか、ネット世論が代表辞退を支持する意見に逆らい、宮田を擁護した。

《未成年の飲酒・喫煙禁止は未成年を守る為のもので、罰する為のものではないと考えるおいらです。まして2ヶ月後に飲酒も喫煙もOKな成人に過大な罰を与えるのは本人の為になるのかな?、、と 本来18歳から成人なので飲酒喫煙も成人が自己判断すべきものなのに、法の不整備で飲酒喫煙禁止という謎状態》

 都知事選で善戦した石丸伸二氏が、投開票の速報番組でインタビュアーに高圧的な態度で臨んだことは話題になった。この時、石丸氏を批判した“オピニオンリーダー”に「高須クリニック」の院長、高須克弥氏(79)と大王製紙前会長で、カジノを巡る背任事件で知られる井川意高氏(58)の2人がいる。今回も彼らは宮田擁護の論陣を張った。それぞれご紹介しよう。

《ルールは守らなければなりません。しかし未成年者は発達途上の未熟者ですので立ち直り不可能なほどの罰を与えないのが大人の良識だと思います》(高須氏)

《日本人バカばかりだから、たかが喫煙禁煙の体操選手を「法律を守らないヤツは」とか言うのが無知過ぎてクソ笑えるわ。「衡平」という概念さえ知らないクソクズ。法律違反とそのことに対する報いのバランスだわ。人殺しは死刑になっても仕方ないが、煙草吸って死刑か?》(井川氏 ※改行や句読点を補った)

ジャーナリストに殺到した批判

 ジャーナリストとしては、神奈川大学特任教授も務める江川紹子氏(65)が次のように投稿した。

《調査の上、吸ってたならお説教してやめさせる、というのは教育的指導としていいんだけど、ドーピングじゃないし、犯罪でもないんだから、出場停止とか過剰な罰はよろしくない》

 ネット世論の逆風を受けたと明かしたジャーナリストもいる。門田隆将氏(66)は日本体操協会を厳しく批判する投稿を行った。

《NHK杯3連覇の19歳体操女王・宮田笙子が喫煙でパリ五輪を辞退。日本体操協会の所業に絶句。投票権も持つ19歳の体操選手が喫煙で代表辞任に追い込まれる異常さ。厳しく注意し「以後気をつけなさい!」と指導すべき話。五輪に賭けるアスリートの思いを軽んじ、生涯に亘る悔いを残させた協会幹部。頭、大丈夫か》

 ところが門田氏の投稿に対し、異論が殺到したようなのだ。しばらくすると次のようなポストが投稿された。

体操協会の愚かな判断への私の論評に「法律や取り決めに違反したのだから措置は当然。これを許せば示しがつかない」との批判を多く頂いた。私も厳しい姿勢は当然と思う。だが幼い頃から五輪を目指し厳しい練習に耐えてきたアスリートにとって“死刑”に値する“出場辞退”をこの行為で下すか、という根本問題がある。なぜ“厳重注意の上、罰金50万円”でなく“出場辞退”なのか。所属する順天堂大が深い反省と共に協会への静かな怒りを表した事が印象的だった》

“常習性”に触れたスポニチ

 宮田の辞退は当然と主張する識者、著名人は極めて少ない。大阪府知事や大阪市長を務めた弁護士の橋下徹氏(55)や、元宮崎県知事で衆院議員も務めた東国原英夫氏(66)の投稿が目立つ程度だ。

 著名人は宮田に同情的なのに、なぜネット世論は宮田の五輪代表辞退を支持し、日本体操協会を擁護するのか。ITジャーナリストの井上トシユキ氏は「大前提として、ネット世論は極論に振れることが多いという点は確認しておく必要があります」と言う。

「その上で、ネットユーザーは“ルールの遵守”を求める傾向が強いとは言えるでしょう。例えば近年、校則の問題がXなどで議論になることが増えています。理解不能な校則も珍しくないのはご存知の通りですが、それを破った学生に対しては、意外なほど批判的な投稿が多いのです。『たとえ間違った校則であっても校則である以上、まず守るべき。その上で学校や教育委員会に働きかけ、校則改正を実現すべき』という論調なのです」

 ソクラテスの「悪法もまた法なり」を思い出すが、ネット世論に影響を与えたと思われる報道がある。スポニチアネックスが7月20日に配信した「喫煙、飲酒で五輪辞退の体操女子・宮田笙子 以前から素行の悪さ問題視 喫煙で過去に『厳重注意』の証言も」との記事だ。協会は「喫煙も飲酒も1回だけという宮田の説明を信じている」という姿勢だが、スポニチの取材では“常習性”を指摘する証言を得ているという。

「ルールを破ったほうが悪い」

「宮田選手を巡るネット世論は、報道からも大きな影響を与えています。彼女の辞退が報じられると、当然ながら多くの人が衝撃を受けました。理由や背景を知りたいという声は強く、最初に取り上げられたのはストレスの問題でした。次に内部通報ということが明らかになり、ネット上では『チクったのは誰だ? その動機は?』という論調に傾きました。そして最後に『「日本体操協会行動規範」には禁煙と禁酒が明記されており、たとえ20歳以上の選手であっても、代表活動中の喫煙と飲酒は禁じられている』と報じられたことが決定的でした。これで『ルールに違反したのなら仕方ない』というネット世論が一気に大勢を占めるようになったのです」(同・井上氏)

 本来であればネット上に「宮田選手がかわいそう」、「ちょっと厳しすぎるのでは?」という意見が投稿されても不思議ではないという。

「ところが宮田選手の問題では、同情論を投稿しても『とは言っても、ルールはルールだからね』と簡単に論破されてしまいます。議論で負けることが明らかになっているのですから、同情的な意見を持つ普通のネットユーザーは投稿を控えます。著名人の皆さんが義憤に駆られて『寛大な処置を求める』と投稿しても、『ルールを破った宮田選手が悪い』という反論が殺到することになります」(同・井上氏)

正義の実現

 この問題を考える上で重要なのは、ビートきよしの投稿だ。彼は「政治家はもっと悪いことをしているのだから、宮田選手は許してやれ」と主張した。だが、これはネットユーザーにとっては「最も分かっていない投稿」だという。

「自民党の裏金事件は、いわゆる“トカゲの尻尾切り”で終わろうとしているように見えます。また宮田選手の辞退を知り、飲酒運転の問題を思いだした人も多かったのではないでしょうか。非常に悪質な飲酒運転で死亡者が出た事故でも、危険運転致死傷罪が適応されず、業務上過失致死で判決が下され、大変な批判が噴出したこともありました。ネット世論は『政治家のほうが悪いから微罪の宮田選手を許そう』ではなく、『政治や飲酒運転など、馴れ合いだらけで全てをうやむやにする日本社会で、宮田選手の件だけは正義が実現した』と歓迎しているのです。ルールを破った人が正しく裁かれたと感じ、憂さを晴らしている状態だと言えるかもしれません」(同・井上氏)

デイリー新潮編集部