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貧困家庭に生まれ、いじめや不登校を経験しながらも奨学金で高校、大学に進学、上京して書くという仕事についたヒオカさん。「無いものにされる痛みに想像力を」をモットーにライターとして活動をしている。第71回は「頭痛との付き合い」です。

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15 年の付き合い

朝、強烈な頭痛で目が覚める。鎮痛剤を飲んでも効かず、また別の鎮痛剤を飲む。やっと痛みがましになってきたので動き出すが、また夕方になると頭痛に襲われる。これが2週間続いた。

思えば頭痛との付き合いは15 年くらいになる。学生時代も生理のときなどに頭痛になっていたが、大人になってからは片頭痛持ちになった。気圧の影響も受けやすく、雨の日は必ずと言っていいほど頭痛になる。緊張状態から解放されたときや、直射日光を強く浴びたとき、足元が冷えたときも頭痛になる。生活の些細なことがトリガーになりうるのだ。毎日のように鎮痛剤を飲むことはザラにある。年に何回か、酷い頭痛で寝込む。

例えば脳出血などの場合、殴られたような頭痛が起きるという。私の場合、そこまでではない。でも、座っているのもしんどいくらいの、ギリギリを責められているような痛みが続く。7〜8000円払ってMRIを撮っても、いつも異常なし。

一度肝臓の数値が上がって入院したことがあった。原因は分からなかったが、医者には鎮痛剤の飲み過ぎかもしれない、と言われた。鎮痛剤が効かないひどい頭痛になったとき、脳神経外科で検査してもらったのだが原因がわからず、薬の常用が原因の薬物乱用頭痛と言われた。腎臓や肝臓によくないから、鎮痛剤はなるべく飲まないようにと言われたが、飲まないと痛くてまともに生活できないため、飲まざるをえない。頭痛薬を飲む場合定期的な血液検査が必要だ。

終わりの見えない苦痛

鎮痛剤は種類にもよるが、痛みがピークになってからでは効きにくい。最近も、鎮痛剤はできるだけ我慢しよう、と思って飲まずに放置していたら、痛みが激しくなり、鎮痛剤が効かず仕事もスマホを見ることもまったくなにもできなくなってしまい、ひたすら寝て過ごした。

片頭痛が起きると、光や匂いに非常に敏感になる。また吐き気も起きる。朝の頭痛が鎮痛剤によっておさまる頃、もう次の頭痛がおき始める始末で、ずっと吐き気がおさまらず、食欲がみるみる減退していった。

外出の予定も立てられず、頭痛がおさまっているわずかな間に仕事をするような日々で、生活がままならない。いまはフリーランスなので好きなときに休めるので(とはいってもこなさないといけない業務量がある)まだいいが、フルタイムで働いていたときは吐き気があっても出社したものだ。

毎日2回の頭痛、鎮痛剤を4錠飲むような日々が2週間続き、終わりの見えない苦痛に、精神がごりごり削られていく。もう人間辞めたい。このまま生きていく自信がない。

苦痛に耐えて生きながらえる日々

最近、スイスに行って安楽死をした日本人のルポを読んだ。進行性の難病で、常に壮絶な痛みと耐えがたい不快感があるのだと言う。本当は生きたかったが、それに何年も耐え、治る見込みがないことから、死を選んだそうだ。私はその人の痛みを経験したことはないし、全く比べようがないのだが、ほんの少しだけ、わかる、と思ってしまった。

終わりが見えない不調が続くと、健全な思考ができなくなっていくし、生きる気力が搾り取られていく気がする。苦痛に耐えて生きながらえるだけの日々を、投げ出したくなる。


『死ねない理由』(著:ヒオカ/中央公論新社)

私は身体が弱く、様々な不調が学生の時からデフォルトであって、年に何度か酷い症状に襲われる。神がいるとしたら、とんでもないドSだと思う。毎回、もうダメだ! と思うギリギリのところまで追い込まれ、弱り切ったあとくらいに症状が治まる。その繰り返し。

無理して働いても、結局稼いだお金は医療費に消えていく。一体なんのために生きているのだろう。そう思うことが何度もある。

片頭痛を抑える注射

あまりに頭痛が続いたため、頭痛外来にかけこんだ。かかりつけ医に、片頭痛を抑える注射があると聞き、すがる思いで受診したのだ。しかし、いきなり注射というステップには進めず、予防薬の調整からはじめるという。

さらに、予防薬を出すのにもかかりつけ医の許可がいると言われ、翌日かかりつけ医の予約をとり、再度頭痛外来を受診することになった。


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片頭痛を抑える注射は、一度打つとひと月効果があるそうだが、なんと1万2千円もする。また、片頭痛にしか効かないため、緊張性頭痛などが混在している場合すべての頭痛を抑えられるわけではない。そういった理由もあり、いきなり注射というわけにはいかないそうだ。

そこで予防薬を出してもらい、飲み始めると、1日2回だった頭痛が1回になった。さらに予防薬を増やしてもらい、なんとか頭痛がおこらない日も出てきた。現在も薬の量を調整中だ。

何十年も付き合っていく

2週間分の薬でも5000円ほど。1ヵ月だと1万円だ。かかりつけ医には片頭痛の原因は激しい暴力を見続けた幼少期のトラウマ体験があると言われ、根本的にはトラウマ治療をするほかないと言われているが、1回1万円以上するため、保留にしたまま数年が経つ。トラウマ体験の影響があるという自覚は大いにある。

先日ヨガの体験に行ったのだが、深呼吸をしてと言われても、心臓がバクバクして、身体がギュッと緊張で硬直し、全然上手く吸えないのだ。知らず知らずのうちに全身に力が入っていて、呼吸が浅くなっているらしい。

頭痛治療に1万円、トラウマ治療に1万円かければ、1ヵ月の出費は2万円を超える。物価高で家賃の値上げも宣告された今、とても出せる気がしない。それに、この2万円ってなんなんだろう。自分でこの生い立ちを選んだわけじゃないのに。なんだか悲しくなる。


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毎日激しい頭痛に襲われていたときは、生きる気力を失っていたが、頭痛がましになってくると、少し前向きな気持ちも出てくる。やっぱり何より先に健康だ。

今年の分の病院の領収書を入れた袋は、半年分でもうパンパン。この身体とあと何十年も付き合っていくと思うと、途方もない気持ちになる。それでも、どうにかこうにか生きていくしかない。同じ片頭痛持ちの仲間に、食事改善やヨガがいい、と言われ、今は食事改善やストレッチに励んでいる。

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