日航ジャンボ機墜落事故で当時9歳の次男を亡くした美谷島邦子さん 遺族会「8.12連絡会」を立ち上げ、事務局長に

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 2001年、兵庫県明石市で開かれた「市民夏まつり・花火大会」の見物客11人が死亡、247人が重軽傷を負ったJR朝霧駅の歩道橋事故から23年となるのを前に、明石市は7月19日(金)、1985年に起きた日航ジャンボ機墜落事故の遺族会事務局長・美谷島邦子(みやじま・くにこ)さんを招き、事故の再発防止と安全を考える講演会を開催する。

日航ジャンボ機墜落事故で当時9歳の次男を亡くした美谷島邦子さん 遺族会「8.12連絡会」を立ち上げ、事務局長に

 美谷島さんは、御巣鷹山(群馬県上野村)で520人が犠牲となった日航ジャンボ機墜落事故で、当時9歳の次男を亡くした。美谷島さんは、なぜ大切な我が子が亡くならなければならなかったのか、日本航空の安全に対する姿勢を知りたいとの思いで、遺族会「8.12連絡会」を立ち上げ、事務局長として、被害者支援や再発防止を訴えてきた。
 今回、遺族としての考えや長年の活動で感じてきたことなどを通じて、「命」と「安全」の大切さを改めて伝える。

明石歩道橋事故 直後の混雑した様子 ※画像提供・明石市
明石歩道橋事故 直後の歩道橋内部 ※画像提供・神戸市

 明石市では2001年に起きた7月21日の歩道橋事故、12月30日の大蔵海岸砂浜陥没事故という2つの大事故を忘れることなく、再発防止と安全意識の継承を図るため、歩道橋事故から1年後に「市民安全の日」を宣言し、安全・安心を訴える講演会や職員研修に取り組んでいる。

2022年発売「明石歩道橋事故-再発防止を願って〜隠された真相-諦めなかった遺族たちと弁護団の闘いの記録」
明石歩道橋事故について、ある遺族は「事件」と表現 再発防止とは何かを問う

 2022年の「市民安全の日」、歩道橋事故遺族の有志が事故の再発防止を願い、「明石歩道橋事故 再発防止を願って」を自費出版した。美谷島さんもこの本に寄稿している。

安全はすべての業務に優先「こんな悲しいことがあるのか」と美谷島邦子さん

 その内容は「”被害者に寄り添う”という終わりのない仕事において、加害者、被害者が共に同じ方向を向いていけるように、国に働き掛けたい。どんな時も、安全がすべての業務に優先される」といった、被害者の生の声を発信し続けた美谷島さんならではの言葉だ。

明石歩道橋事故-本の出版に先立ち会見する遺族ら<2022年7月16日-兵庫県明石市>

 歩道橋事故の遺族も共感し、事故をどう語り継ぐかを改めて考えるきっかけとなった。

 その後、遺族の1人が「安全・安心について、これまでの市職員研修の枠を超えて、市民とともに学ぶべき機会を設けるべきだ」と、美谷島さんの講演開催を明石市へ提案した。

 そこで明石市総合安全対策室の上田晃司さんが、美谷島さんの著書「御巣鷹山と生きる」(2010年発刊)を読み、今年5月にJALグループの安全啓発センターを見学した。さらに美谷島さんの講演を聞き感銘を受け、今回の講演会開催につながったという。

 上田さんはあの日、新人職員として歩道橋の下で警備や帰宅者の誘導をしていた。しかし、「群衆雪崩(ぐんしゅうなだれ)」で大惨事が生じたことに気付いていなかった。「あの時、自分は何もできなかった」。

事故の教訓を後世に伝えるため、遺族会(当時)が2002年7月に設置した「想(おもい)の像」 2023年に会は解散、明石市に寄贈された
「想いの像」に手を合わせる丸谷聡子・明石市長<2023年7月21日>

 事故それぞれに原因や背景が異なる。上田さんは、行政マンとして「市民を守る責務をまっとうするか」を考えている。また歩道橋事故の遺族有志は「『真相究明と再発防止』を求め、この事故が忘れ去られないように、また人々の記憶にとどまったとしても『ただ悲しかった出来事』にしたくない」との思いで、この講演会の意義を語る。

明石市総合安全対策室 上田晃司さん「単に過去の出来事としての受け止めではいけない」<2021年7月21日撮影>

《明石市 安全・安心のまちづくり講演会》6/17(月)〜電話での受付開始

◆講師 美谷島 邦子(みやじま・くにこ)さん 
    日航ジャンボ機御巣鷹山墜落事故の遺族会「8.12連絡会」事務局長
◆日時 2024年7月19日(金)16時〜17時30分
◆会場 子午線ホール(兵庫県明石市東仲ノ町 アスピア明石北館9階)   
◆定員 100名(先着) ※どなたでも参加可能
◆申込方法 6月17日(月)〜6月25日(火) 電話で明石市総合安全対策室へ
◆電話番号 078-918-5069 ※ 受付時間・平日8時55分〜17時40分

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《明石歩道橋事故》 

 2001年7月21日午後8時45〜50分ごろ、兵庫県明石市の花火大会会場の大蔵海岸と最寄りのJR朝霧駅を結ぶ歩道橋で発生。殺到した見物客が折り重なるように転倒し(群集雪崩)、0〜9歳の子どもと高齢者計11人が死亡、247人が負傷した。

 不十分な警備体制が問われ、刑事裁判では、2004(平成16)年12月17日に業務上過失致死傷罪に問われた明石警察署元地域官ら5人が有罪判決を受けた。強制起訴された元副署長は、2013(平成25)年2月20日、公訴時効が成立しているとして「免訴(事実上の無罪)」判決を受けた(刑事裁判はいずれも上告審で確定)。

 遺族が明石市や兵庫県(兵庫県警)などに損害賠償を求めた民事訴訟は、2005(平成17)年6月28日に計約5億6千万円の賠償を命じる判決が言い渡された。