デンマーク鉄道の旅の起点はコペンハーゲン中央駅(筆者撮影)

円安や物価高などから海外旅行が敬遠されているが、あえて物価が高いことで知られるデンマークを鉄道で旅してみた。安全に鉄道旅行ができる国でもある。

デンマークが安全の根拠は

なぜ安全かというと、電子決済が普及し、旅行者を含めて現金(デンマーククローネ)を使う人がほとんどいないことに起因している。スリやひったくりは盗む対象がない。カメラやスマホを盗んだところで現金化が難しい。物価高のストレスはあるが、常にスリなどに注意しなければならないというストレスからは解放される。

筆者も渡航に際し、現地通貨への両替を行わず、すべてクレジットカード決済で、途中ドイツにも足を踏み入れたので、少量のユーロのみ所持した。券売機や自販機はクレジットカードのみ対応が多く、タッチ決済のみ対応の機械も多かった。トイレが有料だが、現金では利用できないと思ったほうがいい。

メトロや路線バスは最低運賃が500円以上するので、それなりの物価対策が必要だ。首都コペンハーゲンはコンパクトな街なので、徒歩のみで観光し、交通機関を利用する日は24時間券(約1700円)を購入、その24時間に集中的に利用した。24時間券ではメトロ、市内の国鉄通勤路線、路線バス、そして定期船も乗り放題で、その範囲には空港も含まれる。日本のように事業者が数多くあるわけではないので、24時間券を買ってしまえば別の切符が必要な公共交通はない。

メトロは24時間運行なので、早朝の飛行機利用などでもタクシーを利用する必要はなく、リーズナブルに利用することもできる。

狭い国土に思えるがデンマーク国鉄(DSB)の旅は興味深かった。いくつかの島から成るが、橋で結ばれ、インターシティ網が整っている。ユニークなのは、同じ外観ながら電車と気動車があり、双方が併結できることである。

コペンハーゲン出発時は10両編成で、途中駅で行先が3方向に分かれ、非電化区間へ直通できるなど、鉄道の機動性が活かされている。「乗り換えなし」を重視している点が好ましい。このような運行ができるくらいなので定時運行率も高い。切り離し、連結は自動で行い、地上係員によるジャンパーカプラー(電気ケーブル)や幌(連結部の通路の枠)の操作は伴わない(幌はないが通り抜け可能)。

国際列車はドイツとスウェーデン方面へ運行する。ドイツ方面はハンブルク行きで、ドイツ側車両は電気機関車牽引、デンマーク側車両は前述のインターシティ型である。スウェーデンへもトンネルと橋でつながっていて、両国間の海峡を意味する「エーレスンド」と呼ばれる電車が頻繁に行き来する。もはやコペンハーゲンとスウェーデン南部は通勤圏であった。両国の首都であるコペンハーゲンとストックホルムの間にはスウェーデン国鉄のSJ2000(登場時はX2000)による全席指定の列車が行き来している。ドイツのベルリンからコペンハーゲンを経てストックホルムまで運転する夜行客車列車も健在だ。

渡り鳥ルートは廃止

デンマークの鉄道というと、ドイツのハンブルクとの間に、列車をフェリー航送する「渡り鳥ルート」を思い起こす人も多いと思うが、このルートは廃止された。それどころか、列車、フェリー、列車と乗り継ぐこともできない。双方で港まで通じていた鉄道が廃止されている。

現在でもフェリーは頻繁に運航しているが、乗客は自動車利用者と、航送する長距離バス利用者がほとんどだった。現在のコペンハーゲンとハンブルクを結ぶ列車は、橋でつながっているユトランド半島を経由するルートで、距離は長くなるが線路がつながっているので、面倒なフェリー航送より所要時間は短縮されている。筆者は1990年代にこのフェリー航送を経験したが、風情あるルートだっただけに惜しい気もする。将来的には「渡り鳥ルート」をなぞるような海底トンネル計画がある。

コペンハーゲン都市圏は市内24時間券を利用したが、遠出の鉄道旅には「ユーレイルパス」のデンマーク版を利用した。「ユーレイルパス」もかつてとは様変わりしていて、モバイル版が主流、紙の切符を希望すると手数料が必要になる。

機能的にもモバイル版がおすすめで、購入すると時刻表がダウンロードされる。都市間で検索すると直行や乗り換えなどさまざまな組み合わせが表示される。その列車をタップすると始発から終着までのルートや時間などの詳細も出てくる。「ユーレイルパス」利用が前提なので、指定席もあるのか、あるいはパスだけでは利用できない全席指定席なのかなども表示される優れものだ。

日本のように私鉄が数多くあるわけでもないので、主要私鉄路線も表示され「パスでは利用できません」と出る。国別のパスを購入してもヨーロッパ全土の時刻表が利用でき、ダイヤ改正があると更新もされる。

利用したのは1カ月の4日間150USD(シニア料金)なので1日分は約5600円、それほど高額には感じなかった(一般は173USD)。日本風に表現すれば特急自由席乗り放題で、全席指定の列車はストックホルム行きSJ2000のみ、ドイツ行き国際列車の国内区間などは乗り放題である。

車内販売はセブン‐イレブンが担当

ロングシート車両はなく、メトロも含めてクロスシートである。ただし、ほとんどの列車に自転車スペースがあり、その部分は折り畳み式の窓に背を向ける座席である。通勤、レジャーともに自転車で鉄道を利用する需要は高く、国土がほぼ平坦なので自転車に向いた地勢である。

エストーと呼ばれる通勤電車以外は座席にテーブル、電源ソケットがあり、車内設備は優れている。

日本との大きな差を感じたのは、車内、ホーム、駅、さらには街中どこにでもゴミ箱が備えられていることである。通勤車両以外では各座席にもゴミ袋が備えられ、係員がときどき回収する。

物価高からレストランは高額なので、コンビニやファストフードを多く利用したが、いつでも近くにゴミ箱があるのは助かる。さらに、駅構内などにベンチなど座るところがたくさんあるとも感じた。ゴミ箱やベンチの少ない日本は、日本人利用者、訪日外国人観光客ともに不便を感じているのではないかと思う。

コンビニは至る所にセブン‐イレブンがあり、ローカルな無人駅でもコンビニがあった。ユニークなのは車内販売もセブン‐イレブンが行っていることだ。

駅員のいる駅はほとんどないが、ワンマン運転列車もなく、改札がないので切符のチェックのため車掌が乗務、ドア操作を行い、それは乗務員室からではなく、乗客が乗降するドアから行う。切符はスマホのアプリで購入、車掌は携帯するスマホで客のスマホのQRコードをかざしてチェックする。「ユーレイルパス」もQRコードである。全体的に合理化する部分と、利便性重視の部分のバランスが絶妙と感じた。

数多くの鉄道雑誌が売られている

意外な一面も紹介しておこう。合理化、IT化が進んでいるが、駅には必ずあるといっていいコンビニでは、雑誌のコーナーが充実していて、IT化が進むなかアナログなものも多く残っていた。鉄道雑誌、鉄道模型雑誌も数多く、ドイツやオーストリアで発行、それをヨーロッパ全域で販売するために現在も元気なのかなと感じた。

(谷川 一巳 : 交通ライター)