「右脳型は創造的」「左脳型は論理的」は本当なのでしょうか?(写真:mifaso/PIXTA)

「右脳型は創造的」「左脳型は論理的」という説は世界で広く知られていますが、本当にそうなのでしょうか? イノベーション、選択、リーダーシップ、創造性研究の第一人者であるコロンビア大学ビジネススクール教授のシーナ・アイエンガー氏が解説します。

※本稿は『THINK BIGGER 「最高の発想」を生む方法:コロンビア大学ビジネススクール特別講義』から一部抜粋・再構成したものです。

あなたは右脳型?左脳型?

今から、創造性を測る2つのテストをやってほしい。まずはこれ。

●初対面の人を覚えるときにポイントとなるのはどちらですか?

A.名前

B.顔

●新しい曲を聴くときはどちらに注目しますか?

A.歌詞

B.メロディやリズム

●手を組んだとき、上に来るのはどちらの親指ですか?

A.右

B.左

●足を組んだとき、上に来るのはどちらの足ですか?

A.右

B.左

Aが多い人は「分析的」な左脳型で、Bが多い人は「創造的」な右脳型だ。

次は2つめのテスト。次の文章を読んで、あなたに当てはまるものにマルをつけてほしい。

・人の名前より顔のほうが覚えやすい

・「勘が鋭い」と言われたことがある

・誰かが怒っているとき、何も言わなくても顔を見ただけでわかる

・パーティーを計画するときは、細部よりも全体的なことを考える

・計画を立てるより思いつきで行動する

・ボーッとしていると言われることがある

・気が散りやすい

・今ほかのことを考えていた

・芸術作品を見るときは、先に全体を見てから細部を見る

・好奇心から芸術をかじったことがある

・感情に訴える議論ほど信じやすい

・感情的になることが多い

・リスクを恐れない

・何よりも直感を大切にしている

・ものごとを先延ばしにしがちだ

・目で見た方が理解しやすい

・できるなら現実の世界より幻想の世界で暮らしたい

・実生活で出会う人より、架空のキャラクターの方が共感できる

・メモを取るとき落書きをすることが多い

・落ち着きがない

・人にどう思われようと気にしない

結果:マルが10個以上ある人はおめでとう! あなたは論理的な左脳型というより、創造的な右脳型だ。

では聞くが、あなたはこういうテストに意味があると思うだろうか?そうでないことを祈りたい。残念ながら、この手の診断はとても人気が高く、ネット上にもあふれている。そのうちの2つが、今あなたのやったものだ。

「分離脳」の理論が生まれたきっかけ

創造的な人と創造的でない人がいる、という考えは大昔からある。この考えが科学的な裏づけを得たのは1860年代、神経科学者のポール・ブローカとカール・ウェルニッケが、左脳の特定の部位に損傷を受けた人が失語症を発症することを発見したときだ。

この発見をもとに、右脳と左脳が違う働きをするという、「分離脳」の理論が生まれた。

神経心理学者のロジャー・スペリーは、左右の大脳半球をつなぐ、脳梁(のうりょう)と呼ばれる神経繊維の束を切断すれば一部の脳疾患を治療できることを実証し、その功績で1981年にノーベル賞を受賞した。

スペリーはこの知見をもとに、分離脳の性質をさらに解明すべく、さまざまな実験を行った。

例えば脳梁を切断した被験者に2つの物体を示し、1つは左目だけ、もう1つは右目だけで見てもらった。被験者に見たものを説明してほしいと頼むと、全員が左目(右脳)だけで見たものを絵に描いて説明し、右目(左脳)だけで見たものを言葉で説明することができたが、逆はできなかった。

スペリーはこれらの結果を踏まえ、「2つの思考方式」があると結論づけた。言葉を認識、分析する「言語的(左脳型)」思考と、かたちやパターン、色、感情を認識する「非言語的(右脳型)」思考である。

スペリーのこうした発見をきっかけに、右脳や左脳を鍛えるとうたう、さまざまなツールが生まれた。

例えば美術教育者のベティ・エドワーズは著書『脳の右側で描け』(河出書房新社)で、創造性を伸ばすためのデッサンのテクニックを伝授した。学習障害の専門家ケン・ギブソン博士は、左脳を鍛えて分析力を高めるためのテストやエクササイズを開発した。

左脳だけ、右脳だけ働くことはありえない

自分が創造的な右脳型か、分析的な左脳型かを調べるのはとても楽しい。自分の「型」を知れば、どういう人と気が合うのか、どういう状況で仕事がはかどるのか、どういう仕事が向いているのか、といったことがわかるかもしれない。

だが最近の研究で、新しい知見が得られている。少なくとも思考に関していえば、左脳だけ、または右脳だけが働くということはありえないのだ。

スペリーのノーベル賞受賞以降、神経科学の研究は飛躍的進歩を遂げている。なかでも画期的な突破口を開いたのが、1990年代初めに物理学者の小川誠二が開発した、MRI(磁気共鳴画像法)を使って脳の活動を可視化する手法だ。

活動中の脳のMRI画像を見ると、脳は創造的な部位と分析的な部位に分かれてなどいないし、完全に創造的な精神的活動も完全に分析的な精神的活動もないことがわかる(下図)。


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例えば、数学の問題を解く、絵を描く、科学実験をする、歌をつくるといったとき、私たちはつねに脳の全体を使っている。右脳型、左脳型の思考などというものは存在しない。

創造的な人々に共通する人格特性は「好奇心」

神経科学者が2006年に行った研究で、大人と子どもの被験者に3種類の数学の問題を解かせ、その間の脳のMRI画像を分析した。すると被験者が問題を解いている間、脳の右半球と左半球の両方で、神経細胞がクリスマスツリーのように発火していた。


また、被験者は数学の問題を解いた方法を説明するとき、分析力だけでなく、創造力も同じくらい使っていた。問題解決においては、これらの能力を分けて考えることはできないのだ。

そうはいっても、ずば抜けて創造性が高いように見える人々はたしかに存在する。創造性をもたらしているのが右脳の違いではないとしたら、彼らの何が人と違うのだろう? ゴッホのように、鬱病にかかりやすい人は創造性が高いのだろうか? それとも人気俳優のトム・ハンクスのように、幸福な人が創造的なのか?

研究では、多様な分野の創造的な人々に共通する人格特性が、たった1つだけ特定されている。それは、好奇心が強いことだ。そして好奇心は、意識して身につけることができる。同じことが、創造的な活動をやり遂げるのに必要な、粘り強さについても言える。粘り強さも、意識的に育むことができる。

(翻訳:櫻井祐子)

(シーナ・アイエンガー : コロンビア大学ビジネススクール教授)