すっかり強気を取り戻したように見える米国株。このままさらに上昇すると見ていいのだろうか(写真:ブルームバーグ)

前回の「米国株の下落が長期化する可能性は高くない」(10月29日配信)では、アメリカの株式(代表的な指標はS&P500種指数)が約3カ月にわたって下値模索が続く中で、「株式市場の下落はこれ以上長引かない」との考えを述べた。この間、株安となった最大の要因は、長期金利(10年国債金利)が一時5%まで大きく上昇するなど、債券市場の不安定な値動きだった。

アメリカ債券市場の過度な悲観が後退した

アメリカの長期金利上昇は、インフレ懸念よりも、経済の底堅さがもたらしていたものだが「夏場以降上昇が急ピッチとなったのは、債券市場の心理が悲観方向に傾きつつあることを意味する」、とコラムでは指摘した。金利上昇の根拠は確かではなく、「売りが売りを呼ぶ」という悲観に陥っているように見え、混乱が落ち着くだけで、市場の雰囲気は変わりうると考えたわけである。

幸い、11月初旬のFOMC(連邦公開市場委員会)や国債発行計画発表などを経て、債券市場の極度の悲観心理が後退した。同時に米国株市場は11月初旬から急反発して、11月24日時点ではほぼ3カ月前の水準まで戻った(長期金利も9月以来の水準4.4%台まで低下)。

同国経済は、経済成長が途切れず、高インフレが少しずつ落ち着く状況が、2023年前半から続いている。特にコアインフレの趨勢は、夏場には3%台前半(3カ月前比年率ベース)まで低下していた。FRB(連邦準備制度理事会)の多くのメンバーは「追加利上げが必要」と発言していたが、長期金利上昇もありすでに十分利上げを行ったとの判断を内心強めていたのが実情だった。

実際には、FRBの経済やインフレに対する判断・認識は、7月の会合時点から大きくは変わっていなかったとみられる。FRBの政策対応への疑念で、10月まで、主に債券市場で自己実現的な悲観心理が強まったということだろう。

混乱はいったん収まり、債券市場の市場心理は11月に大きく変わった。筆者を含めた多くのエコノミストは7月会合が最後の利上げと想定していたが、11月になってようやく、債券市場ではこの見方がコンセンサスとなり、FRBによる追加利上げ期待は、ほぼ消失した。

以上が、最近のアメリカ株価反発の経緯である。それでは、このまま株式市場の反発は続くのだろうか。筆者は、短期的にはやや懐疑的である。というのも、FRBの政策対応に対する悲観心理が、早くも楽観方向に傾きつつあるからである。市場では「早ければ2024年3月にもFRBが利下げに転じる」との期待が、早々に織り込まれつつある。

早期の利下げを期待する今の市場は「先走りすき」

確かに、追加利上げの可能性が、かなり低くなったのは理解できる。ただ、2024年春にも早ければ利下げを期待している今の金融市場の認識は、先走りすぎではないか。実際に、FRBが早期利下げを検討し始めるのは、インフレの趨勢が2%台に落ち着くとの認識が強まる状況になってからだと思われる。この時期は、早くて2024年の秋口ではないかと筆者は予想している。

市場のFRBに対する思惑が、楽観方向に傾きすぎているとすれば、年末にむけて一段高を期待させる株式市場についても、早晩息切れしてもおかしくない。年初からのS&P500種指数のリターンは約19%(11月24日時点)だが、企業の業績予想(1年先の利益)の改善は緩やかにとどまっており、株式市場は既に将来の業績改善のかなりの部分を織り込みつつあるようにみえる。

2024年は、FRBの高金利維持政策が、利下げ方向にいつ、どのように転換するかが、米国株を左右するだろう(さらなる利上げが行われるシナリオもありうるが、可能性は低い)。筆者が想定するシナリオは、経済は失速せずに緩慢な成長となり、インフレもゆっくりと落ち着く、いわゆるソフトランディングである。この場合、FRBが高金利政策を緩めるには時間がかかるだろう。

もう一つ想定されるのは、これまでの高金利でアメリカ経済が2024年前半に急失速(景気後退)して、FRBが早期に利下げを迫られるシナリオである。この場合は、市場が想定し始めたように、2024年春先の利下げ開始が現実味を帯びてくる。

筆者は、2024年のアメリカ経済について、前者のシナリオを想定している。これまでの利上げが今後経済成長を抑制する可能性が高いが、銀行貸し出しの大幅削減を伴うなど深刻な引き締め効果が、2024年になって強まらない、と考えている。このシナリオなら企業業績の改善が途切れないとみられ、株式市場にとって決して悪くない。

インフレは2024年内に2%台へ

ただ2024年利下げはインフレ率の落ち着きを見定めた後になるので、先に述べたように、市場で期待されつつある早期利下げは、簡単に実現しないとみられる。政策金利が高止まりする懸念から、長期金利が再び5%付近まで上昇するなど、債券市場の不安定な値動きが再来してもおかしくないのではないか。

であれば、2023年8月以降と同様に、2024年前半までは長期金利などの高止まりが、株式市場の割高感を再び高めることで、アメリカ株式市場の上値を抑えることになる。金利上昇への懸念がくすぶる中で、一本調子の上昇は難しいのではないか。

もっとも、短期的には株式市場に対してやや慎重だが、アメリカのインフレ率が再加速せずに、時間はかかるにしても、2024年には2%台のインフレへ落ち着く、と筆者は考えている。

経済・インフレがソフトランディングすれば、2024年も企業業績の改善は途切れないだろう。金利上昇がもたらす短期的な調整局面に冷静に対処できるかどうかが、2024年の米国株投資のパフォーマンスを左右することになりそうである。

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません。当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(村上 尚己 : エコノミスト)