空き家のイメージ(写真:haku/PIXTA)

両親が介護施設に入所したり亡くなったりするのをきっかけに起こる「空き家問題」。いざ実家の片付けをしようとしてもなかなか進まず、先のばしになってしまう場合があります。うまく片付けを進めるにはどうしたらいいのでしょうか。

約17万件の空き家情報を自社で調査し、500人以上の所有者からの相談、全国300以上の自治体との対話を重ねてきた和田貴充氏の書籍『今すぐ、実家を売りなさい 空き家2000万問題の衝撃』より一部抜粋・再構成してお届けします。

両親が亡くなり空き家のままの実家

片付けの場面での一例をご説明しましょう。自分で判断できる方は、プロの業者にお願いすれば完了です。しかし多くの方には、片付けて廃棄する事業者に頼むことにすら、背中を押してもらうことが必要なのです。そこで僕たちのように、所有者さんに寄り添って伴走する立場の人が、「もう片付けましょう」「こういった観点で片付けてみては?」と整理をし、プロの事業者に橋渡しする必要があるのです。

ご両親が亡くなって葬儀も無事終え、相続関係の大仕事も終えてホッと一息。気がつけば実家が空き家のまま残されています。実家からは離れたところで生活する子どもにとっては、「ときどきは風を入れなきゃ」とは思いながらも、実家に行っても迎えてくれる親もいないし、通うのは遠いし……。

「なんとかしないとな」と気になりつつ、月日はあっという間に流れてしまいます。そんな「空き家をどうしたらいいかわからない。なんとかして〜」という相談を受けると、僕たちはすぐさまその空き家に向かいます。ここも、僕たち空き家活用株式会社の出番です!

こんな事例がありました。少し思い出しながらお話しさせてください。

あるとき僕たちが向かったのは、ご両親が亡くなってから10年間も放置していた空き家でした。所有者のCさんは10年もの間、ほとんど片付けができなかったのです。

実家ですから、懐かしい思い出がいっぱい詰まっています。だから、人の手を借りて片付けるのはイヤ、自分でやりたかったと言います。

とはいえ、片付け作業は気が重いもの。自分の住んでいる家ですら片付けられないのに、貴重な休みを潰し丸一日かけて実家を片付けに行くのですから、なおさらです。意を決して実家に行くと、小物も飾りつけも、すべてが両親が住んでいたそのままです。今にも母親が、「あら、来たの?」と、手でノレンを開けて現れそうです。そんな生前のままの家財道具をいったいどこから手を付けたらいいか、かいもく見当がつきません。

まったく進まない片付け

「まずは、お金になるものからだよな」と考えたCさんは、現金や預金がまだ残っていないか、貴金属はないかと探しました。引き出しを開けると、ありました! 重要そうな銀行の書類がたくさん出てきたのです。でも果たして、それが重要なものなのかわかりません。あっちこっちの引き出しを開けて書類を引っ張り出しているうちに、外は夕闇に包まれてしまいました……。疲れ果て、「今日はもうやめよう」とトボトボ家路に。結局、片付けに行ったのに、かえって散らかしただけとなってしまったのです。

次に実家に行ったときには、自分が子どものころの懐かしいアルバムを発見してしまいます。

「こんなときもあったなぁ〜。お父さん、こんな写真を残してくれてたんだ」と、ソファに座り込んで楽しくアルバムを見ていると、気がつけば午後3時。住んでいる家は遠いので、もうそろそろ帰らなければなりません。

そんなふうにしてまったく進まない片付けのために、毎週末通うわけにはいきません。だんだん足が遠のき、やがて春になり秋になり……そのまま月日が経っていきました。Cさんの胸中で、「なんとかしなければ」と心の重しがのしかかるばかりでした。

やがて、庭木が茂り放題になり、隣の家から苦情が来るようになりました。庭師を頼んで、たびたび剪定してもらわなければなりません。そのたびにかなりの費用がかかります。親戚からは、ことあるごとに尋ねられます。

「実家、どうするの?」

「考えてるよ、うるさいな」と、次第に実家には触れないようになってしまいました。余談ですが、こうやって10年、15年と経っていくと、そのうち家に雨漏りがするようになり、ネズミやイタチなどが入り込んで棲みついてしまったりして、ますます行きたくなくなってしまうものです。

浮浪者が住んだり、空き巣に入られたり、放火をされる危険性もあります。やがて家が壊れて崩れていくのです。こういった朽ちた家の発生は、実は珍しい現象ではありません。ごく身近にあることなのです。

ポイント 本当に欲しいものは最初に持ち出している

話を戻しましょう。相談を受けた僕たちがCさんの実家に行くと、10年も空き家だったのに、ご両親の布団までそのままの姿で残っていました。

「ああ〜、これはけっこう物量がありますね。どうしたいですか?」

「自分でやるのはムリと分かったから、一緒に片付けてほしいんです」

「わかりました。じゃあ、ご一緒に片付けましょう!」

Cさんは「1つずつ、残すか捨てるか決めたい」と希望されます。「いいですよ。いらないものは捨てますから」と、僕は付き合っていきました。出てくるわ出てくるわ……。引き出物でもらった毛布が20枚も、箱ごときれいに押し入れに入っている。そんなものが次々現れるのです。物量が多いためキリがなく、だんだんわけがわからなくなってきました。

そこで、「売れるものからやりましょうか」とご提案し、買取業者に来てもらうことにしました。数人の業者さんが、家の中を走り回って買取できそうなものをテキパキ集めてくれます。貴金属や陶器などをまとめると、15万円ほどになりました。


「さらに残ったものは、どうします?」と僕がお尋ねすると、Cさんはふっとため息をついて、「もういいや、すべて捨てましょう……」とおっしゃいました。気持ちの整理がつき、ようやくそこから手放し始めたのです。

実はほんとうに欲しい物は、すでに最初に持ち出しているものです。整理術で知られる「こんまり」こと近藤麻理恵さんが「ときめく片付け」を提唱されていますが、遺品整理も同じで、家族は「ときめくもの」を、まず最初に手元に置いているのです。

それは家族のアルバム1冊だったり、思い出の深い品1つだったり。でも、その後10年もの間一度も触っていないものは、もう二度と使いませんよね……。そのことに気がつくと、所有者さんは家を手放すのです。

僕たちはそれをよく知っていますから、最初は一緒に手を付けながら、所有者さんの背中を押してあげるのです。そして、所有者さんが納得できれば、あとは心を決めて事業者に依頼し、実家を市場に出すことができるのです。

ポイント 事業者を目利きし、選べる状態で背中を押す

片付けだけに限らず、実家や空き家の処理に関わるあらゆる場面で、現場でプロの事業者はきちんと気持ちを汲んで、あなたを後押ししてくれます。そしてこういった事業者に出会い、依頼するための「背中を押す役割」も必要なのです。

そしてみなさんが事業者を選ぶ際に、そもそも信頼できる事業者から選べること。複数の選択肢を提示し、自ら選んで意思決定できること。こういった選択の場づくりを僕は大切にしています。

(和田 貴充 : 空き家活用株式会社代表取締役CEO )