金融庁は損保大手4社へ重い処罰を科すことよりも、再発防止策の加速を優先させる方針だ(記者撮影)

金融庁は年内にも、保険料カルテル問題をめぐって損害保険大手4社に対し行政処分を下す調整に入った。立ち入り検査を実施せず、各社が提出した報告資料に基づいて手続きを進める異例の処分となる。

処分の対象となるのは、東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損保の4社だ。

各社は主に大手企業向けの共同保険(複数社で保険を引き受ける仕組み)や官公庁向けの保険で、提示する保険料の水準や団体割引率を担当者間で事前に調整したり、引き受ける条件や幹事会社をすり合わせたりした疑いがある。

東急向けのほか、日産、ENEOS、成田空港など広範囲

今春には、東急グループ向けの企業財産包括保険(火災保険)や賠償責任保険で、4社がカルテル行為に及んでいたことが発覚。その後、金融庁が保険業法に基づく報告徴求命令を複数回にわたって発する中で、日産自動車や成田国際空港、石油元売りのENEOS、警視庁など広範な業種で疑義があることが判明している。

金融庁はカルテル行為が、一部では10年以上の長期に及んでいるとみて、報告徴求命令と並行し各社に任意でのヒアリングも実施している。新たな疑義が発生した契約に加えて、1996年の保険自由化までさかのぼり、大手企業との取引状況や営業活動の実態を詳細に報告させている。

4社によるカルテル行為の組織性、悪質性、反復性を踏まえると重い処分が想定されるが、実際には業務改善命令にとどまる見通しだ。その理由は大きく2ある。

一つは、業務停止にすると、契約者利益を損なう可能性が大きいことだ。大手4社が業界シェアの9割を握る寡占の状況にあって、仮に一定期間、共同保険の引き受けを停止させると、ほかに引き受ける損保が現れずに契約更改ができない企業が続出する可能性がある。

公取委の処分より前に業務改善命令を出す狙い

2つ目の理由は、カルテル行為が現時点では疑義にとどまっていること。東急グループ向けの共同保険をはじめとして、保険料などの事前調整行為がカルテルや談合にあたるか実際に判定するのは、金融庁ではなく独占禁止法を所管する公正取委員会だ。公取委が損保各社の営業担当者を呼び出し、ヒアリングを始めたのは11月に入ってからで、排除措置命令などの処分までには時間がかかる可能性がある。

12月以降、東急をはじめ複数の企業でカルテル行為の対象となった契約が更改時期を迎え、損保各社が年内から交渉に入る。そのこともあり、金融庁は早い段階で業務改善命令を出し、大手4社の再発防止の取り組みを加速させることを優先するべきとみているようだ。


金融庁から報告徴求命令を受けたことを知らせる東京海上日動火災保険の公表文書(記者撮影)

折しも、損保大手4社は中古車販売大手ビッグモーターによる保険金不正問題への対応に目下追われている。カルテル問題についても早急な改善計画の立案を迫られることになり、試練の冬になりそうだ。

(中村 正毅 : 東洋経済 記者)