両者の体の向きの違いがポイントに(写真:新華社/アフロ)

岸田文雄首相と中国の習近平国家主席がアメリカ・サンフランシスコで16日(日本時間17日)、首脳会談を行いました。両国の間には、尖閣諸島、台湾情勢、東京電力福島第1原発処理水を巡る問題など懸念事項があり、注目されました。

筆者が注目したのは、両首脳のファーストコンタクト時の振る舞いです。習主席は、これまでの首脳会談において、表情や態度といった非言語で相手国との距離感を示してきた様子が散見されたからです。表情・しぐさ分析の専門家の視点から、習主席の心理を読み解きます。

軽く口角を引き上げ、身体正面をカメラに向ける

会談は中国の滞在先ホテルで行われ、習主席は、岸田首相を迎え入れます。岸田首相と握手を交わし、軽く言葉を交わしている最中の習主席の表情を見ます。

軽く口角を引き上げ、笑顔です。昨年11月の岸田首相とのファーストコンタクト時、習主席は、口角を引き上げるだけでなく、歯も見せ、大きな笑顔を見せていました。それに比べると、笑顔はやや緩やかですが、不愛想な仏頂面(2014年11月の安倍晋三元首相との握手時に習主席は、「満面」の仏頂面でした)ではありません。

これは融和的な態度の表明と言えるでしょう。中国側が今回の会談に積極的であったとの一部報道にあることから、習主席の表情には納得がいきます。


2014年、安倍晋三元首相との握手時、習主席は仏頂面を見せていた(写真:ロイター/アフロ)

興味深いのは、両氏の身体の向きです。

習主席は自身の身体正面を岸田首相の方にやや向けてはいるのですが、大部分はカメラに向けています。一方、岸田首相は身体正面を習主席の方に向けているため、カメラからは首相の横姿が目立ちます。

横の岸田首相と正面の習主席。この構図は、TV画面を観ている人にとって、習主席の存在感を際立たせます。ただでさえ、岸田首相より体格の大きい習主席ですが、身体正面をカメラに向けることで、さらに大きく見えます。

自身の優位性をアピールか?

地位が高い者や力の強い者は、劣位の者に比べ、自分を物理的に大きく見せる姿勢や態度をとる傾向にあります。具体的には、胸を張る、肩幅以上にスタンスを取って立つ、両肘が外側に向くよう両手を腰に当てる、といった姿勢です。これらはリーダー姿勢などと呼ばれます。

一方、劣位の者は、自分の姿勢を小さくする。具体的には、肩を落とす、肩幅より狭いスタンスで立つ、両手を重ねて下腹部を守るように添える、といった姿勢です。こちらはフォロワー姿勢などと呼ばれます。

たとえ、実際に自身(自国)が上位だとしても、具体例で挙げたようなあからさまなリーダー姿勢をとるわけにはいきません。あまりに失礼だからです。そこで、習主席は、身体の正面をカメラに向け、自身を大きく見せ、さりげなく自身の優位性を視聴者に演出しようとしていたものと推測します。

「偶然、この姿勢だったのではないか?」という可能性は低いと考えます。なぜなら、握手を交わし、会話をする相手と正面で向き合わずに横向きで話すということは、コミュニケーションにおいてあまりに不自然です。

また、相手に対し、自身の優位性を直接示そうとするなら、相手に向かって胸を張り、身体正面を向ければ済みます。岸田首相より身体の大きい習主席なら、それで十分です。しかし、そうはせず、カメラの方へ身体正面を向けていたのです。視聴者へのアピールの可能性が濃厚です。

習主席の姿勢に対する他国首脳の対応法

ちなみに、これまでの習主席と他国首脳との握手シーンを見ると、習主席は、岸田首相のときと同様、カメラへ身体正面を向けています。しかし、相手の首脳もカメラへ身体正面を向け、両者とも自分を大きく見せようとする姿勢が多々、見受けられました。両首脳の姿勢が相似形をなしているのです。

習主席の方へ身体正面を向け、握手し、言葉を交わした岸田首相の態度は、謙虚であり、習主席を尊重する良好な振る舞いだと思います。しかし、「どう見えるか」「どう見られるか」というアピールが重要な場では、見せ方・振る舞い方を配慮・再考していく必要があるかもしれません。

私たち人間は視覚から大きな影響を受ける生き物です。姿勢のちょっとした違いが、知らず知らずのうちに私たちの脳裏に刻み込まれ、等身大以上の国力差を感じてしまうかもしれないのです。

(清水 建二 : 株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役)