断熱性能が高いマンションでも、省エネリフォームが増えているといいます(写真:kker/PIXTA)

食品をはじめとする日用品から電気料金や都市ガスなどの光熱費まで、値上げラッシュが続いている。光熱費に関しては、国が負担軽減策として行ってきた料金の値引きの延長を発表したこともあり、しばらくは値下がりか横ばいとなる見通しだ。

しかしいまだ先行きの不透明さは否めない。加えて今年の夏は異常な暑さを記録し、秋の気配とはほど遠い残暑が続いた背景もあり、住まいの「省エネ」「節電」への注目が一層高まる結果となった。一戸建て住宅を中心に気密性能・断熱性能を高める家づくりのニーズが増加しつつある。

断熱性能が高いマンションで省エネリフォームのなぜ?

しかしここにきて、一戸建てに比べると気密性や断熱性能が高いことの多いマンションでも省エネリフォームや改修工事を検討、実施するケースが出てきている。要因としては、高騰する光熱費が家計やマンションの維持管理費を圧迫していること、断熱性能が劣る高経年マンションが増えていることが挙げられるだろう。

マンションは建物全体を支える骨組み(躯体)部分が鉄筋とコンクリートからなるRC造が基本となっている。躯体部分の気密性能は折り紙付きだ。

あらためて気密性能の低い部分といえば、専有部である各住戸の窓に改善の余地がある。窓はそのままで断熱性の高いガラスへ交換する方法、一般的なアルミサッシから熱を伝えにくい樹脂サッシへと改修するなどの方法で断熱性を高めることが可能だ。

このほか、現状ある窓に内窓をつけ、二重窓にする内窓リフォーム、専有部である住戸の内側に断熱材の吹きつけなどの内断熱リフォームを施す方法などがある。

ただしマンションの場合、一戸建て住宅と異なり自由にリフォームすることはできない。居住者が使用する玄関ドアや窓枠・窓ガラス、専用庭、ルーフバルコニーなどの部分はマンションの「共用」部分にあたるからだ。

しかしながら、利用するのはその居住者に限られるため、「専用使用権」が認められた共有部分と呼ばれる箇所となる。今ある窓の内側に窓やサッシを加えるインナーサッシ(内窓リフォーム)は、「室内側のみの施工」というマンション特有の事情に適した代表的なケースだとも言えるだろう。

つまり窓や玄関から外側は厳密に言えば共用部分に該当するわけで、マンションの気密性能や断熱性能を向上させるためのリフォームなのだから、マンション全体で改修するという考え方もあるはずだ。

例えば一戸建て住宅やマンションの場合、断熱性能などを中心とする省エネ性能が優れている証しとしてZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)という指標がある。ZEHは7段階で格付けされる断熱等性能等級の5レベルとされる。

マンションのごく限られた数部屋にインナーサッシを入れただけでは、マンション全体の「省エネ」を達成しているとは言いがたい。そこで管理組合が主体となり、大規模修繕のタイミングでアルミサッシを樹脂サッシに改修するなどの対応を行っていく必要があるのだ。

実は「共用部分」も含まれる窓リフォームの注意点

特に築40年を超える高経年マンションの場合、建物全体の性能アップや資産価値の向上を目指し、組合として改修に取り組んでいかなくてはならない。これまで修繕積立金をしっかり積み立ててきた管理組合なら、大規模修繕と同時に住戸の断熱性能を高めるための修繕を行えるはずだ。

一方で「修繕積立金」が不足している場合、大規模修繕のタイミングで断熱性向上のための修繕を行うことは難しくなる。

現在の高経年マンションが建てられた当時は、長期修繕計画を基に「修繕積立金」を算出するという発想がなく、その指標も今ほど定まってはいなかった。

そのため現在、修繕積立金が不足する高経年マンションが増加している。そのうえ、外壁などの建築部分以外にも全体的な劣化が進む高経年マンションでは、給排水管や耐震改修なども検討する必要がある。断熱等性能向上のための施工にまで手が回らないのが現状となっている。

そこで事前に届出をすれば、共用部にあたる窓やサッシの改修について認める管理組合も増えている。昨今、カーボンニュートラルの実現を目的に、国や各自治体が住宅省エネ化に向けた積極的な支援を実施していることはご存じの方も多いだろう。

マンションの窓やサッシの改修工事を行う際の補助金制度もその一つで、条件さえ合えば、各専有部分のリフォーム工事でも活用できる。修繕積立金ではすべての改修が難しいため、補助金なども活用して、それぞれの窓サッシを改修して「OK」だと管理組合が「許可」している格好だ。

玄関ドア交換や窓の断熱化工事など、共用部分でありながら、各住戸の裁量に任せる「許可制」にした場合であっても、何らかのルールを定めておくことが重要となる。

例えば皆が好きなデザイン、カラーのサッシや玄関ドアを選んだ場合、マンション全体の美観を損なう可能性もある。またそれぞれ性能や水準に統一感がなく、異なる部材を使用した場合は、マンション全体の断熱性能などに差が出てしまう。

ひいてはマンションの資産価値にも影響する可能性があるため、あらかじめルールを決めておく。使用可能なデザインやカラー、また部材の性能や工事の手続きまで、きちんと「管理規約」や「細則」という形で定めておくことが大前提だ。

マンション管理組合も保険見直し

窓やサッシの改修にとどまらず、リフォームする際のトラブルは増加傾向にある。よく知られる事例に漏水がある。一般的に被害は階下に及び、原状復旧費用も含めた補修費用が数十万から数百万円と高額になる場合も。

これまでの経験上、最も高額な費用を要したのは、漏水が真下のみならず、両隣、さらにはその下の階にまで及んでしまったケースで、被害総額は数千万円近くになってしまった。個人での賠償を考えるとかなり重い負担となる。そこで通常は、マンションの管理組合が加入する保険に付帯する個人賠償責任の特約が適用される場合が多かった。

ところが最近、保険料の上昇に伴い、コストの抑制のために個人賠償責任特約を解約するマンション管理組合も少なくないという。自身が居住するマンション管理組合がどのような保険に加入しているのかを十分確認してほしい。

またリフォームといえば、在宅ワークや楽器演奏などのため間取りを変更したり、新たに防音室を設けようと検討している方もいるかもしれない。間取り変更や防音室にリフォームした場合、火災報知器やスプリンクラーの移設や増設が必要となることもある。

防災に関しても、個別ではなくマンション全体でのルールをあらかじめ設けておくのがベストだ。大きな変更があるリフォームに関しては、特に細則という形でのルール作成を行う必要があるだろう。

またせっかく細則を定めても、ルールに沿った申請がなされ、その通りに工事が行われているかどうかは別問題と言っていい。加えて工事の過程やルールが守られて完了したかどうかの確認については、おろそかになってしまっている。

管理会社に業務を委託しているマンションであっても、個別のリフォームに関しての内容の検証はほとんど行われない。管理会社にとっては、専有部のリフォーム工事は業務範囲外となるからだ。

適切な工事が完了しているか

リフォームトラブルを防ぐためには、適切に工事が計画されて、その通り施工されたかどうかを、あらためて確認するよう心がけたい。ホームインスペクターなど第三者の目線で確認してもらうのも一案だ。例えば最近増えてきたタワーマンションにしても、柱や梁の構造が一般的なマンションと異なり注意が必要なこともあるため、知識や実績が豊富な業者による施工が求められる。

また一見すると問題のないレンジフードのダクトが火災を予防する機能を果たしていないとして条例違反との指摘を受けるなど設計や工事のクオリティに難が生じるケースも少なからず報告されている。

自分たちのマンションの管理規約を確認し、チェックはどう行われているのかを理事会や管理会社に尋ね、しっかりと確認し、工事のクオリティに目を光らせる必要がある。

これからリフォームが行われる予定のマンション管理組合の皆さんには、あらためて細則を見直すことがルールに準じた適切な工事へつながり、ひいてはマンション全体の価値を高めるうえで重要だとお伝えしておく。

(長嶋 修 : 不動産コンサルタント(さくら事務所 会長))