いまから50年以上前に初飛行した戦闘機F-14「トムキャット」。いまだ根強い人気のある同機ですが、初期型は看過できない不具合を抱えていたそう。その一因を解決すべく製作された試験機には、NASAのレア仕様機もありました。

『トップガン』でも描かれたF-14の不具合

 約半世紀前の1970(昭和45)年12月21日、大手航空機メーカーのグラマン(現ノースロップ・グラマン)が開発した戦闘機F-14「トムキャット」が初飛行しました。その後、主に運用していたアメリカ海軍からは、15年以上も前の2006(平成18)年に退役していますが、同機はいまだに根強い人気を維持し続けています。


アメリカ海軍のF-14A「トムキャット」(画像:アメリカ海軍)。

 その理由のひとつに挙げられるのが、1986(昭和61)年に公開された映画『トップガン』にあるでしょう。加えて今年(2022年)は、その続編ともいえる新作『トップガン マーヴェリック』が公開されたことで、再び脚光を浴びるようになりました。新作では主役の座をF/A-18「スーパーホーネット」に譲ってはいるものの、クライマックスで敵国の戦闘機としてその姿を現し、主人公マーヴェリックを演じる俳優トム・クルーズとの“共演”を再び見せたことで、人気を再燃させたのではないでしょうか。

 前作の映画『トップガン』では、F-14「トムキャット」の飛行性能をスリリングなストーリーで巧みに描写するシーンがあります。それはマーヴェリックが操縦するF-14が回復不能なスピンに陥ってしまう場面です。映画のなかでは、僚機が生み出したジェット後流のなかにマーヴェリック機が入ってしまい、エンジンが出力低下を起こし、失速(コンプレッサーストール)してしまいます。

 コンプレッサーストールとは、日本語に訳すと「圧縮機失速」などといわれ、急激な姿勢変更などによりエンジンに入る気流が乱れ、その結果、異常燃焼や出力低下を起こす現象のことです。マーヴェリックが操るF-14は、最悪のエンジン停止にまで至ったことで推力のバランスも崩れスピンに入ってしまい、操縦不能となり墜落してしまいます。

 ただ、F-14のエンジンストールは、映画のみならず、現実でも深刻な問題として捉えられていました。

飛行特性の改善を目当てに生まれた“激レア” F-14

『トップガン』に登場するF-14「トムキャット」は初期型、すなわちA型でしたが、このモデルが搭載していたエンジン、TF-30ターボファン・エンジンはコンプレッサーストールが起きやすいという欠点を抱えていました。

 これはTF-30を最初に搭載したF-111戦闘爆撃機で、すでに判明していたことですが、F-14は当初TF-30よりさらに強力な新型エンジン、F401を開発して搭載することを計画していました。

 そのため、F-14Aの初飛行に遅れること3年、1973(昭和48)年には新型F-401エンジンを搭載したF-14Bも初飛行しています。しかし、コストと信頼性の問題で新型F401の採用は見送られてしまい、その結果、TF-30エンジンが使い続けられることになります。


エアショーでデモ飛行を行うアメリカ海軍のF-14A「トムキャット」(細谷泰正撮影)。

 加えてF-14「トムキャット」は、エンジンだけでなく機体そのものの空力特性でも弱点を抱えていました。それは気流に対する迎角が大きいときに方向安定性が不足してスピンに入りやすいことでした。これにはF-14の特徴のひとつでもあるVG(可変)翼特有の事情も関係していました。VG翼機ではロール操縦を行う補助翼を使うことができないため、スポイラーと水平尾翼の差動でロール制御を行っています。

 この制御系統に原因が包蔵されていたのです。高迎え角時の操縦性とスピン回復の問題を解決するため、機体メーカーのグラマンと海軍、NASA(アメリカ航空宇宙局)が共同で研究を行うことになりました。試験機として海軍が提供したF-14には油圧で開閉作動する小型のカナード(前翼)が機首に取り付けられ、スピンからの回復に失敗した場合に備えて非常用のパラシュートを尾部に装備していました。

 機内にはエンジン停止時に備えてバッテリーで動作する制御系を備えて飛行試験が行われました。飛行試験は、エドワーズ空軍基地の中にあるNASAドライデン飛行研究センター(現アームストロング飛行研究センター)を舞台に、1979(昭和54)年から1985(昭和60)年にかけて計212回、行われています。

決定版F-14Dができてもコストに敗北

 飛行試験と研究の結果、高迎え角時の機体制御に関する大きな成果を上げることができましたが、得られた成果が実機に反映されたのはそれから15年後に登場したF-14Dからでした。つまり、前作の『トップガン』が公開されていた時は、F-14「トムキャット」にとって、スピンの防止とスピンからの回復は、喫緊に改善すべき問題であったといえるでしょう。


エプロンに展示された際のアメリカ海軍のF-14A「トムキャット」(細谷泰正撮影)。

 なお、このD型はF-14シリーズの最終生産型となったモデルで、推力向上とコンプレッサーストール問題を解決した新型F110エンジンを搭載したのに加え、前述したNASAの研究成果を盛り込んだ飛行制御システムへの更新、さらに電子機器も一新されていました。

 操縦席も液晶ディスプレイを多用した、いわゆる「グラスコックピット化」が図られており、非公式の愛称「スーパートムキャット」の名に相応しいアップデート内容でしたが、同時期に生産されていたF/A-18「ホーネット」戦闘攻撃機の方が、取得費用も整備・運用コストも安価で、かつ多用途性に優れていたことから、予算獲得の戦いで苦戦を強いられ、その結果、生産数は少数で終わっています。

 筆者(細谷泰正:航空評論家/元AOPA JAPAN理事)は、『トップガン』公開前の1982(昭和57)年に、エドワーズ空軍基地でNASAがテストに使用していたF-14飛行試験機を見学する機会がありました。

 当時、アメリカ海軍の次期戦闘機はVG翼に可変カナードを装備した機体になるのではと想像を膨らませたことを思い出します。それから40年、可変カナード付きの艦載機は現れませんでしたが、当時の写真を眺めて、飛行中にVG翼を動かしながらダイナミックなデモフライトを見せてくれたF-14「トムキャット」の勇壮を脳裏に再現しつつ、同機の往時をしのびたいと思います。