ナゾの校則、いったい何のためにあるのでしょうか(写真:OrangeMoon / PIXTA)

もはや冗談のような「ブラック校則」はいつまで続くのか。

11月、福岡県久留米市の公立中学校に通う中学3年の女子生徒が“眉毛を剃ったのは校則違反”だと、理不尽な指導を受けたことが報じられた。地元放送局「RKBオンライン」によると、女子生徒は「眉毛と眉毛の間の産毛を剃っただけで、校則違反ではない」と訴えたが、教員からは「それも眉毛だ」ととがめられたそうだ。

筆者も中学生のころ眉毛がつながっているのが嫌で、眉間部分の産毛を剃っていた。産毛を剃ったくらいで校則違反なのか?と大いに驚かされた。

校則を調べられるサイトが立ち上がった

ブラック校則とは、ブラック校則とは人権や健康などを脅かす恐れのある不合理な校則のことだ。最初に注目されたのは2017年。大阪府に住む生まれつき茶髪の女子高校生が、校則で髪の黒染めを強要されたとして学校を提訴、市民団体が3日間で約2万人の署名を集めた件が発端だ。その後『ブラック校則』をタイトルにした映画も生まれるなど認知が広がってきたが、まだまだ撲滅には至っていない。

こうした中、学校の校則を調べられるサイトを立ち上げた人がいる。ITコンサルタントの植山良さん(39)だ。

まずは自身が住む千葉県内にある121の全県立高校のうち、生徒の外見や行動の規制が確認できた119校の校則を公開した。自治体の情報公開制度を使い、入手した校則を細かく分類。サイトを「School Rules Database」と名付け、誰でも無料で閲覧できるようにした。仕事の傍ら制作に10カ月を費やした。


細かく指定されていることの多い制服。画像はある学校の制服規定(画像提供:植山さん)

「多様性とか主体性が大切といわれている時代におかしいと感じ作りました。今後は全国の全公立学校にある校則をデータベース化したい」

そう話す植山さんが作ったサイトは、校則「服装」「装飾品」「頭髪」「化粧」「乗り物」「校外活動」「その他」と7つのカテゴリーに分け、それぞれに「下着規制」「ツーブロック禁止」「黒染め強要」などとさらに細分化されている。これらの項目をクリックすると、該当する高校の校則が表示される。校則の内容と学校名の2つの検索機能を備えている。

校則はより厳しくなっている


「School Rules Database」で校則を可視化しているITコンサルタントの植山良さん(写真:編集部撮影)

「学校名の検索は中学生向けです。高校選びの参考にしてほしい。ブラックな校則がある学校とそうでないところがチェックできます。校則の種類(検索)は、ネット民に向けて。ヘンなのをどんどん見つけてもらってSNSなどで取り上げてもらえたらと考えました」(植山さん)

入手した校則には「運転免許証の取得禁止」(89校=全体の75%)、「アルバイト禁止」(66校=55%)、「スカート丈規制」(69校=58%)と昔ながらのものが広く残存するうえ、「Yシャツの下に下着を着用する場合は無地の紺黒白とする」といった「下着規制」が8校(7%)ある。

さらには大阪府で問題になったような髪の黒染め強要、地毛証明書提出のような人権に関わるものもあった。ほかにも、レッグウォーマー、ルーズソックス、ニーハイソックス、ツーブロック、編み込みなど今時な高校生アイテムを禁止している。

男子の髪型規制は「前髪は男子は前髪は目にかからず、後ろはシャツの襟より長く、横は耳の半分以上にならないように」といった細かすぎるものも。生徒たちが「マジか?」と突っ込む姿が目に浮かぶ。

昔の感覚で作られた校則が残り、時代とともに新たに増えていく。植山さんが「(校則は)もっと厳しくなっている」と言った意味がよくわかる。このままでは校則を掲示する生徒手帳は年々分厚くなっていきそうだ。

「新たに出てくる若者たちの楽しいアイテムを、学校はどんどん規制しているわけです。いたちごっこにしか見えません」

そう嘆く植山さんが挙げた最も「ヘンな校則」は「旅行規制」(81校=68%)宿泊する場合「保護者の了承を得たうえで、許可を校長に願い出なくてはいけない」などとするもの。家族旅行も含まれるようだ。男女で旅行に行かないようにといった規制を敷きたいのだろう。

校則チェックや許可書類のやり取りが先生方の長時間労働の一因になっているのでしょうね。119校中81校も旅行を規制していることに驚くし、教師側が管理しやすい環境にするための校則が多いような気がします。

茶髪にしたり化粧したら、悪い人と付き合って非行に走るんじゃないか。近隣の住民からクレームが来ないよう、できるだけ規制を厳しくして問題を起こさせないようにしたいのかもしれません」(植山さん)

日本教育の歪みの象徴「ブラック校則

3年前に定年退職した元教員の藤原明夫さんは「明治以来の上から締め付ける教育観がずっと変わっていないのが問題。ブラック校則は日本教育の歪みの象徴だと思います」と話す。

「旅行許可の申請は、出せとは言うけれど、出した生徒には学割を与えて終わり。男女で行こうが僕らは何も気にしなかった。そもそも校則は守られなかったし、あってないようなものでした」


ある学校の制服規定(画像提供:植山さん)

そう話す藤原さんによると、校則はそもそも「生徒心得」なので生徒が作らなくてはいけないのに、大人が作ってしまったのが問題だという。

「そこが間違いだった。本来は時代に応じて生徒が変えるべきです。生徒心得なのだから、自分たちで何を心得るか考えてもらえばいい。生徒会が合議制で決めて、職員会議にかけてもらえばいいのです」

これに対し、千葉の県立高校に通う現役高校生の息子がいる40代の女性は「今の子どもたちは、私たちのころ以上に先生に抑圧されている」と話す。息子の学校は「スマホ禁止」だが、調べる必要のある授業での「スマホ検索」はOK。だが、その必要のない時間にいじっていた生徒が教員からこう怒られた。

「次やったら殺す」

学校に相談窓口はあるものの、言われた生徒も目撃した息子もこのことを伝えなかったという。

「先生が怖いのではないでしょうか。上に私立高と県立高に通った兄たちがいますが、進学校だと理不尽な校則はなくて自由だし、先生も抑圧的じゃないよねと思う。偏差値が上の学校ほど自由で、下がると締め付けが厳しくなるという実感があります。要は、親や教師に子どもの意思でやらせるという大人の覚悟がないんです」(女性)

これと同じ感覚が、筆者にもある。子ども2人が数年前に都立高校を卒業した。思えば高偏差値の高校は自由服で校則がなかったりするのに、低い学校には厳しい校則が敷かれていた。校則を盾に管理しようとするのは、教師が子どもを信用できないからだと感じる。つまり、ブラック校則は大人の不安の表れなのだ。

日本社会の、子どもの権利への消極的評価

どうすればブラック校則をなくせるのか。

千葉県内の公立中学校の校則を調査した弁護士の1人は「植山さんの活動は、不合理な校則が可視化されることで、外部の批判を受けたり、入学者の減少がもたらされたりすることを通じ、学校の内部改革が促されるとの目的があるとお見受けした。大きな意義があると思う」と話す。

弁護士によると「子どもも権利の主体である」という意識を、大人(教員)も子ども(生徒)ももつことが、不合理な校則をなくすために必要だという。大人側は、子どもは未熟だからしつけのため制限があるのは当然であるという意識が強い。

弁護士会の有志が行った公立中学校の校則調査で、校則の趣旨を尋ねたところ「中学生らしさを保つため・中学生には不要」といった紋切り型の理由で、服装、髪型、私生活等にわたる校則を一括して正当化する傾向が見て取れたという。

しかし、子どもも人間である以上、人権を保障される程度は大人と違いはない。加えて、校則制定の趣旨について「厳しく制限をすることは保護者・地域からの要望でもある」といったものもあった。現場の教員のみならず、保護者や周囲の大人にも、子どもには厳しいしつけが必要という意識は根強く「子どもにも権利がある」という意識は薄いように思われた。

「日本の社会には、子どもが自分の希望を言う、つまり、意見表明権という立派な権利の行使をすることを『生意気』と消極的評価をする風潮すら感じる。子どもも権利の主体であることを多くの人が意識できるようになることが第一歩でしょう」(弁護士)

その歩を進めるアクセルになるのが、植山さんの活動だろう。すでに千葉県内の市立中学校の教員から「進路指導のプリントで生徒たちに紹介したい」と問い合わせも受けた。すでに10の都府県から校則データを回収したが、情報公開を求めた自治体はいずれも協力的だという。47都道府県の校則を1つのサイトで一覧できる日はそう遠くなさそうだ。

植山さんは「英語版も考えています。海外の人にも日本の課題を知ってほしい。大変ですねとよく言われますが、お金にならなくても、人生で1つくらい社会的価値があるものをやってみたい」と未来を見据えた。

【植山良さんによる校則分析】

生徒の外見や行動を規制する校則が確認できた千葉県内の119の県立高校が対象。数字は規定がある高校数と対象全体に占める割合「School Rules Database」

・髪染め禁止 108校(91%)
・パーマ禁止 106校(89%)
・制服あり 105校(88%)
・装飾品禁止 100校(84%)
・化粧禁止 95校(80%)
・指定ブレザー・ジャケット 89校(75%)
・指定スカート 89校(75%)
・運転免許証の取得禁止 89校(75%)
・男女の制服区別 87校(73%)
・靴下規制 87校(73%)
・ピアス禁止 83校(70%)
・靴規制 81校(68%)
・旅行規制 81校(68%)
・指定ズボン 78校(66%)
・指定ベスト 74校(62%)
・指定シャツ 72校(61%)
・指定上履き 70校(59%)
・スカート丈規制 69校(58%)
・指定ネクタイ 68校(57%)
・指輪禁止 67校(56%)
・アルバイト禁止 66校(55%)
・コート規制 64校(54%)
・タイツ・ストッキング規制 64校(54%)
・ネックレス禁止 64校(54%)
・制服加工禁止 63校(53%)
・指定リボン 63校(53%)
・シャツ規制 53校(45%)
・マニキュア禁止 52校(44%)
・指定セーター 51校(43%)
・セーター規制 49校(41%)
・エクステンション禁止 44校(37%)
・頭髪加工禁止 41校(34%)
・かばん規制 39校(33%)
・バイク通学禁止 32校(27%)
・パーカ禁止 31校(26%)
・髪の長さ規制 31校(26%)
・カラーコンタクト禁止 30校(25%)
・ベスト規制 29校(24%)
・ベルト規制 29校(24%)
・奇抜な髪形禁止 29校(24%)
・眉毛加工禁止 28校(24%)
・色付きリップ禁止 28校(24%)
・自動車通学禁止 28校(24%)
・カーディガン規制 27校(23%)
・校外の団体加入規制 26校(22%)
・着崩し禁止 25校(21%)
・ルーズソックス禁止 24校(20%)
・イヤリング禁止 23校(19%)
・ブレスレット禁止 22校(18%)
・そりこみ禁止 22校(18%)
・口紅禁止 18校(15%)
・ひげ禁止 18校(15%)
・指定体操服 16校(13%)
・ヘアアイロン禁止 16校(13%)

・カーディガン禁止 15校(13%)
・男性の長髪禁止 14校(12%)
・指定ポロシャツ 13校(11%)
・ツーブロック禁止 13校(11%)
・携帯使用禁止 13校(11%)
・スウェット禁止 12校(10%)
・サンダル禁止 12校(10%)
・指定カーディガン 11校(9%)
・アンクルソックス禁止 11校(9%)
・ニーハイソックス禁止 11校(9%)
・長い髪は結ぶ 11校(9%)
・指定体操靴 10校(8%)
・タトゥー禁止 10校(8%)
・飲食規制 10校(8%)
・腰ばき禁止 9校(8%)
・レッグウォーマー禁止 9校(8%)
・下着規制 8校(7%)
・ヒール禁止 8校(7%)
・指定靴下 7校(6%)
・スカートの下のズボン着用禁止 6校(5%)
・授業中の防寒着着用禁止 6校(5%)
・屋内での防寒具着用禁止 6校(5%)
・つけまつげ禁止 6校(5%)
・つけ爪禁止 6校(5%)
・レインコート規制 5校(4%)
・モヒカン禁止 5校(4%)
・授業中の飲食禁止 5校(4%)
・校外の集会開催規制 5校(4%)
・ポロシャツ規制 4校(3%)
・かつら禁止 4校(3%)
・部活の強制入部 4校(3%)
・式典中の防寒着着用禁止 3校(3%)
・マフラー規制 3校(3%)・セーター禁止 2校(2%)
・サスペンダー禁止 3校(3%)
・指定かばん 3校(3%)
・装飾品規制 3校(3%)
・一部だけ極端に長さの違う髪形禁止 3校(3%)
・指定スカーフ 2校(2%)
・かばんの加工禁止 2校(2%)
・指定運動靴 2校(2%)
・地毛証明書提出 2校(2%)
・校外の金品募集規制 2校(2%)
・ジャージー禁止 1校(1%)
・指定コート 1校(1%)
・レギンス禁止 1校(1%)
・げた禁止 1校(1%)
・マスカラ禁止 1校(1%)
・マニキュア規制 1校(1%)
・ペディキュア禁止 1校(1%)
・編み込み禁止 1校(1%)
・黒染め強要 1校(1%)

(島沢 優子 : フリーライター)