大人も子どもも火を囲んで談笑する

世界の教育法、幼児教育、習い事、低学年の学習教室など、幅広い教育ジャンルのさまざまな選択肢をまとめた『子育ての「選択」大全』。著者で教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏が、知る人ぞ知る選りすぐりの選択肢を4回にわたって短期集中連載。第3回は、子どもたちが本当に自由に遊べる場所について。

「三間(サンマ)」が足りない現代の子どもたち

プレーパークとは、NPOや地域の住民によって運営されている子どもたちの遊び場です。スコップで穴を掘ったり木登りしたり泥んこ遊びをしたり、子どもたちが自由に遊べるようにしています。子ども同士のトラブルも極力大人が介入しないで子どもたち同士で解決させます。

要するに、昔であれば空き地や学校の裏山で子どもたちが勝手にやっていたことを思う存分できるように保証する場所です。逆にいえば、現在はどこの公園に行ってもルールでがんじがらめにされており、子どもたちの自発的な遊びが阻害されているということです。

プレーリーダーと呼ばれる専門家が、子どもたちの安全を守りながら、子どもたちの遊びを発展させるかかわりをしてくれます。

全国にあるプレーパークは、「日本冒険遊び場づくり協会」のホームページで検索することができます。

一例として、東京都日野市を中心に活動するNPO法人「子どもへのまなざし」が運営するプレーパーク「なかだの森であそぼう!」を見学しました。毎週金曜日および第2・3土曜日に開催されます。「子どもへのまなざし」は、野外保育をする「まめのめ」という認可外保育施設も運営しています。

会場となっている仲田の森蚕糸公園の入口には、次のように書かれた看板が立てかけられていました。

おとなの方へ
「自由に遊ぶ」って?
子どもたちは今、自由に遊んでいますか?
「やってみたいこと」に挑戦するのがあそびです。
挑戦なので時には失敗したり、ケガをすることもあります。
子どもがケガなしで健全に育つことはありえないのです。
いっしょに遊ぶと、ケンカもおきます。
ケンカできる相手がいて初めて学ぶことができるのです。
「ケガをしないように○○禁止」
子どもにとってよかれと思っておとながしていることが子どもの経験を奪っていると感じます。
子育てはひとりぼっちではとてもできません。
たくさんのあたたかいまなざしの中で子どもたちは成長していきます。これからも、子どもたちが「のびのび遊ぶ場」を、作り続けていくために参加者のみなさんと共に話し合い、力を合わせて活動を続けていきたいと思います。
地域の皆様のご理解ご協力をお願いいたします。

いまの子どもたちには「三間(サンマ)」が足りないといわれています。思う存分遊ぶための「空間」「時間」「仲間」です。言うなれば、それを保証しようというのがプレーパークです。

子どもたちは幼児期に、豊かな「サンマ」のなかでたっぷり遊ぶことで、体力を育むだけでなく、コミュニケーション能力や協働性、共感力、試行錯誤しながら諦めない力、課題発見能力などのいわゆる非認知能力を伸ばしていきます。

乳幼児の子育てを独りで抱え込まない

何かと制約の多い都市部の子育てにおいて、子どもたちが自然豊かな環境の中で、からだのなかから沸き立つような好奇心をそのまま表に出して遊ぶ機会はなかなか得られません。

そこで、普段は一般的な都市型の幼稚園や保育所を利用していても、ときどきプレーパークのような場所に参加して、子どものからだとこころを解放してあげることが大事だと思うのです。

また、たとえば「なかだの森であそぼう!」には0歳から18歳までが参加できます。まだ幼稚園にも保育所にも通っていない親子にとっては、同世代のお友達をつくったり、子育ての先輩たちとお話ができたりする貴重な機会になります。

「なかだの森であそぼう!」にはプレーリーダーだけでなく、中川ひろみさんという子育て支援のプロもいます。ひろみさんに子育ての不安を吐露する保護者も多いようです。

朝、公園に着くと、大きな鍋で大量のタケノコが豪快にゆでられていました。前日にNPOのメンバーで掘ったそうです。みんなで食べます。

乳児の母親たちはブルーシートを敷いた上に座りおしゃべりしています。そのまわりで幼児たちは自由に遊びます。泥んこになろうが、小川に落ちようが、転んで擦り傷をつくろうが、ちょっとした諍いが始まろうが、みんな動じません。

「サスケ」の愛称で子どもたちから慕われる20代のスタッフは木登り名人。まるで映画の「ターザン」のように木から木へと飛び移ります。ボランティアのおじいさんは子どもたちにベーゴマを教えていました。

お昼の時間には、近所に住んでいるという会社員の男性スタッフが、在宅ワークの合間を抜けてたき火を囲み、ギターを抱えてオリジナルソングを披露してくれました。大人にとっても、「社会」の枠組みの外に出て自分らしくあれる場所になっているようです。

学校が終わる時間になると、小学生や中学生もちらほらやってきます。一日、何をするでもなく、みんな思い思いにすごします。

ひろみさんたちは2009年からこの場所でプレーパーク活動をしています。

以下、ひろみさんの語りです。

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ここはもともと蚕糸試験場の跡地で、40年くらい閉鎖された不思議な空間だったんです。最初は水も出なくてトイレもなくて、結構自由にやらしてもらって、循環型のトイレ建設しちゃったり、畑つくっちゃったり。

それが「公園」になるってことで、木がバサバサ切られ始め、「遊具も置こう」って行政が言い出したので、「そんなのはいらーん!」って言って。都市公園になるということで火の使用も禁止ということになりそうだったんですが、「ほかにやれるところがないんだから残して!」と抵抗して。


禁止事項ばっかりの世の中になって、公園でも「ボールはダメだよ」「正しく遊びなさーい」「いい子でいてください」「うるさくしないでね」「ふざけて遊ばないで!」みたいな。ほんとにそういう看板があるんですよね。

新しくできる公園には遊具に適用年齢みたいなのが書いてありますよね。危ないものはどんどん撤去になり、自由に遊べるところがなくなり、一人一人がきれいなお砂場セットを持っていて、「それは誰々ちゃんのだからダメよ。貸してって言ったの?」みたいなことをいちいちやってる……。

ここには何も持ってこなくてもいいよってことにしています。無料で、誰がいつ来てもいいってことと、見守る大人がいますよってことが基本ですが、プレーパークといっても地域地域で雰囲気が違います。
(以上、中川さん)

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「遊び」が「学び」であることが腑に落ちる

プレーパークの子どもたちやそれを見守る大人たちのまなざしを見ていると、「子どもってこういう生き物なんだ!」「幼児にいちいち細かいことを言わなくていいんだ!」ということがわかってきます。それは保護者の肩の荷を下ろしてくれるでしょうし、何より「遊び」が「学び」であることが腑に落ちるはずです。

プレーパークに行くことで、子どもの「サンマ」が得られるだけでなく、親にとっても、子育てに対する視野を広げられるメリットがあるのです。

(おおたとしまさ : 育児・教育ジャーナリスト)