「離職する人が少ない大企業」ランキング

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ランキング常連の三井不動産は今回何位に入ったのでしょうか(写真:yama1221/PIXTA)

大企業で早期・希望退職の募集が増えている。東京商工リサーチによると、2020年に早期・希望退職者の募集を開示した上場企業は93社、判明している募集人数は1万8635人となった。リーマン・ショック直後の2009年に次ぐ高水準だ。コロナ禍で打撃を受けた企業を中心に「赤字リストラ」が広がった。2021年も6月時点で募集人数は1万人を超えており、2020年を上回るペースだ。

今後も業績が悪化した企業を中心にリストラなどが加速する可能性がある。しかし、こうした環境下でも社員を引きつけ、雇用を継続している企業はある。


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そこで、今回は『CSR企業総覧(雇用・人材活用編)』2021年版掲載の「離職者数(理由別)」の最新データを基に、「離職する人が少ない大企業ランキング」を作成した。ここでは、上位企業の傾向や取り組みについて紹介していく。

なお、本ランキングは2018年度の単独従業員数が1000人以上の大企業を対象としている。また、離職率は2019年度の離職者数を2018年度の従業員数で除した参考値だ。

各企業の詳細については『CSR企業総覧(雇用・人材活用編)』2021年版に掲載している。

トップは信越ポリマーと三井不動産

1位は離職者数9人で化学メーカーの信越ポリマー(離職率0.9%)と不動産大手の三井不動産(0.6%)が並んだ。

信越ポリマーはシリコンウエハーを搬送する容器の開発・製造などを手がける企業だ。フレックスタイム制度や短時間勤務制度を導入しているほか、社員の資格取得や自己啓発支援などにも積極的。また、50歳以上を対象としたキャリア研修を実施するなど、シニア層のモチベーション維持にも取り組む。2019年度の勤続年数は20.4年と製造業平均の15.9年よりも長く、2017年4月新卒入社者の3年後定着率も100%だ。

三井不動産は三菱地所と並ぶ総合不動産の双璧として知られる。2019年度の平均給与が1273万円という好待遇に加え、有給休暇取得率は82.8%、平均残業時間は月7.1時間と働きやすさは数値にも表れている。また、育休取得者への復帰前面談、事業所内保育所の設置、育児支援休暇(男女問わず、子1人につき5日)の導入など、手厚い育児支援を整備している。

3位は海運大手の商船三井で離職者数は10人(1.0%)。複線型の人事制度を導入して社員のキャリアの選択肢を増やすほか、役職定年制度の廃止やシニア層へのキャリア研修など幅広い年齢層のキャリア支援に取り組んでいる。

4位は総合水処理最大手の栗田工業(0.8%)と香料メーカーの長谷川香料(1.2%)が離職者数12人で並んだ。

栗田工業はフレックスタイム制度や勤務間インターバル制度のほか、新分野への挑戦を促すセカンドキャリアサポート制度などを導入している。

長谷川香料は女性活躍に取り組んでおり、管理職に占める女性比率は23.5%と製造業平均の5.1%を大きく上回る。

6位は屋外作業機械メーカーのやまびこで離職者数は13人(1.2%)。時間単位の有給休暇制度(年5日分)を導入し、社員に自由な研修受講を認めるなどキャリア支援に取り組んでいる。

7位は西部ガスホールディングス(1.1%)、東京エレクトロン(1.0%)、大同特殊鋼(0.4%)、極東開発工業(1.4%)が離職者数15人で並んだ。

また、参考値だが、離職率が最も小さかったのは特殊鋼専業メーカーで0.4%だった。同社はコアタイムなしのフレックスタイム制度や国内外留学支援、キャリアアップ支援制度などを導入している。

上位100社の平均離職率は1.9%

今回のランキングで紹介した100社の各数値の平均値は、離職率1.9%(前回調査比+0.1ポイント)、平均年齢41.9歳(同−0.3歳)、勤続年数17.2年(同−0.2年)だった。上位企業には製造業が多く、比較的業績が安定しており、柔軟な労働環境を整備しているなどの傾向が目立つ。

また、キャリア相談や人事評価の見直しによるシニア層のモチベーション向上や、キャリア支援や「手挙げ制度」など、学び直しやチャレンジの機会を提供している企業も多かった。

組織の活性化や経済変化への対応には、一定数の人員の入れ替えは必要になる。しかし、それはリストラや外部人材の登用だけでなく、社内人材のリスキリング(学び直し)によっても達成できるはずだ。ただし、それには企業の地道な取り組みや環境整備が必要であり、成果が出るまで時間を要する。

現在のところ「適正な離職率」に明確な答えはない。しかし、今回紹介したランキングの平均値や上位企業の取り組みは、多くの企業にとって参考になりそうだ。企業の持続可能な発展にとって「適正な離職率」はどの程度か。今後も調査を継続していきたい。