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ヒットの初代デザインを踏襲せず

text:Takahiro Kudo(工藤貴宏)editor:Taro Ueno(上野太朗)

まさかこうなるとは……。

公開された新型ヴェゼルのスタイリングを見てそう感じたのは、筆者だけではないだろう。

新型ホンダ・ヴェゼル

ヴェゼルはホンダのコンパクトSUVだ。2013年に発売されるやいなやヒット街道を走り出し、2014年には新車販売台数でSUVの1位を獲得。続く2015年と2016年にもそのポジションをキープし、3年連続でSUVの頂点に輝いた。

その人気は日本国内にとどまらず、登場以来グローバルでは約384万台を販売。いまやホンダにとって欠かすことのできない大ヒットモデルである。

初の全面改良となるフルモデルチェンジの正式発表はもう少し先の4月を予定しているが、先だってスタイリングや概要が公開された。

それにしても……である。

とにもかくにも驚いたのはデザインだ。

マツダ「CX-5」やトヨタ「ハリアー」のような雰囲気を持つことからネット上で「CXハリアー」とも呼ばれはじめたその姿に、初代の面影は一切ない。

コンパクトSUVとは思えないほど伸びやかなプロポーションは素直に優雅さを感じられるし、高級感だってある。

なにより、コンパクトSUV(サイズはまだ公表されていないが先代と大きく変わることはないようだ)ながら、大きく立派に見えるのが見事。コンパクトSUVにもかかわらず、このスタイリングがもたらす車格感はちょっとスゴい。

一方で気になるのは、初代が大成功したにもかからず、スタイリングを全面刷新する必要性が果たしてあったのかという点だ。

デザインの大幅な路線変更は、市場から好意的に受け入れられればいいが、もしそうではなかった場合は販売減に直結する。

ヴェゼルのように従来型が人気だった車種は既存ユーザーの新型への買い替えも多く期待できるから、一般的にはコンセプトを「守り」とする判断になりやすい。

しかし、ヴェゼルの場合は、守りに入るのではなく革新を選んだのである。

初代ヴェゼルが売れたワケ

その答えを探るヒントとなるのは、コンパクトSUVを取り巻く環境の変化だろう。

ヴェゼルは「Bセグメント」というクラスに属するが、BセグメントクロスオーバーSUVが大ブレイクするきっかけを作ったのは2010年にデビューした日産ジュークだ。

初代ホンダ・ヴェゼル

ジュークは、日本でも欧州でも大ヒット。

その魅力は個性あふれるデザインだったが、パッケージングは割り切りが多く、後席や荷室は狭かった。ただし、それは非難されることではなく、ジュークは何よりデザインありきの企画だから奇抜なデザインが成り立ったのだし、ユーザーもそれを受け入れていた。

しかし、後発ライバルがデビューするなかで、Bセグメント・クロスオーバーSUVのなかでも、ジュークとはちがう流れも出てきた。

それはスタリングよりもパッケージング、ストレートにいえば後席と荷室の広さを重視したタイプだ。初代ヴェゼルはその代表格といっていい。

初代ヴェゼルのパッケージング効率は素晴らしいものだ。わずか4.3mほどの全長に、ゆったりした後席空間と393Lの荷室を確保。

デビューから7年が経過しフルモデルチェンジを迎えようというこのタイミングでも、後席の広さはクラスナンバー1、荷室もトップの日産「キックス」に僅差で劣るものの、他車を引き離しトップクラスであるのだから立派である。

初代ヴェゼルの大ヒットには、この広い空間が大きな役割を果たした。

ヴェゼル登場以前は「広さが期待できない」とされていたこのジャンルに「実用的な広い室内」をもたらし常識を変えたことが初代ヴェゼルのヒットの方程式といえよう。

実用性を求める多くのユーザーが選んだことで、ヴェゼルは大きな支持を得たのだ。

初代ヴェゼルの課題は「見た目」?

ならば、その路線を継承すればいいではないか?

それは正論なのだが、BセグメントクロスオーバーSUV市場を取り巻く環境の変化が話を難しくしたのだ。

トヨタ・ヤリス・クロス

一躍メジャーなジャンルとなった同市場はいま、車種が急激に増えすぎて飽和状態にある。

国産車だけでもトヨタ「ヤリス・クロス」「C-HR」に日産「キックス」、そしてマツダ「CX-3」もあり、輸入車のライバルも少なくない。

そんななかで存在感を見せていこうとしたときに、広い室内だけではアピール度が低いのだ。

やはり注目されるスタイルがあってこそ、市場で目立てるのである。ジャンルが熟成されていくなかで、ライバルが増えたからいまだからこそ、個性と見た目の華やかさがさらに重要になってくるのだ。

はっきりいうと、初代ヴェゼルの実用性は素晴らしかったが、見た目に華があるとはいえなかった。

それを変えようというのが、スタイルの刷新なのである。

長所「実用性」は犠牲にせず……

問題は、新型ヴェゼルに従来モデルユーザーが失望しないだけの実用性が備わっているかどうかである。

従来モデルの使い勝手に魅力を感じていたユーザーからすれば、いかに見た目が立派になっても実用性が低下していたらガッカリ以外の何物でもない。

新型ホンダ・ヴェゼル

しかし、結論をいえば、その心配はいらないだろう。

ホンダの公式ウェブサイトの次期ヴェゼルを紹介するページに、以下のように書かれている。

「リアからフロントにかけてのクーペのような流麗なフォルムと力強い足回りでデザイン性を高める一方、後席の空間性能とユーティリティを大きく向上。足元スペースや、前席との距離にゆとりを確保しながらリアシート背面の厚みを増し……(後略)」。

すなわち「空間は増している」と受け取れるのだ。

ホンダ自身、初代ヴェゼルのヒットの理由、そしてユーザーがヴェゼルに何を求めるかをしっかりと理解している。

だからこそ、そこは譲れない部分としてしっかりとキープ。そのうえで大胆なスタイリングで勝負をかけてきた。

それが、次期型で大きくデザインが変わる理由にほかならない。

このデザインで、従来型の使い勝手をキープしているならすごいことだと思う。

ライバル多きなかでどう生き残るか?

コンパクトクロスオーバーSUVの黎明期は、「個性的なスタイリング」や「とびきり実用的なパッケージング」などの特徴があればヒットを狙うことができた。

しかし、市場が熟成してライバルが増えたいま、そのどちらかだけでは勝てないのだ。

新型ホンダ・ヴェゼル    ホンダ

スタイリング優先で開発されたトヨタC-HRは一時期かなりの人気を誇ったが、現在はその人気も衰えている。

マツダCX-3の美しいデザインは誰もが認めるところだが、実用性は割り切られていて、人気は長続きしなかった。

日産は見た目重視で開発したジュークの新型を日本で売るのをやめ、日本ではパッケージングに優れるキックスで勝負することにした(新型ヴェゼルとは逆パターンであるのが興味深い)。

そんななか、クラストップレベルの広い室内を死守しつつ、大胆なイメージチェンジをはかったヴェゼルがどこまで健闘するか、期待しながら見届けたい。