スマホデザインの変遷と進化について考えてみた!

Appleが次世代スマートフォン(スマホ)「iPhone X」を発表してから約半年、発売からは約4ヶ月が経ち、業界には1つのブームが生まれました。それは「ノッチ」デザインです。スマホの正面にはカメラや通話用スピーカー、照度センサーなどの設置スペースが必要となるため、ギリギリまで画面を広げようとするとどうしてもディスプレイに食い込む形で各種機能を配置せざるを得なくなります。

iPhone Xの発表当時から「M字ハゲ」などと揶揄されることすらしばしば起こるほどの激しい賛否両論が生まれましたが、以来たった数ヶ月でスマホ業界ではこのノッチデザインが完全にブームとなってしまい、次期バージョン「Android P」では標準でノッチをサポートすることになりました。果たしてこのデザイン、スマホにとって良い進化であったのでしょうか。

一方で、もう1つのブームとなりつつあるデザインが「超縦長ディスプレイ」です。従来は16:9という比率が一般的でしたが、スマホのフットプリントを変えず画面の表示領域をギリギリまで広げる方策として生まれたのが「更に縦に長くする」というものです。筆者としてはこちらのほうがよりスマートな印象がありますが、みなさんはどう感じているでしょうか。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する「Arcaic Singularity」。今回はそんなスマホの画面デザインの変遷と利便性について考えます。


人々が求めるままにスマホのデザインは進化してきた(画像はiPhone 3GS)


■ノッチデザインは「悪」か
いきなり結論的なことから書いてしまえば、筆者はノッチデザインは嫌いではありません。しかし大きな理由もなくそのデザインに「右にならえ」で乗りかかるような流れはあまり褒められたものではないとも考えます。

デザインの模倣という手法自体が悪いわけではありません。世の中の全ての人造物はデザインの模倣によってブームが起き、そこから新たな発想や解釈が生まれるからこそ発展・進化していくのですが、現在の各社によるノッチデザインの模倣はその中でもかなり品のないスタートラインだと言わざるを得ない状況です。

そもそも、iPhone Xがあのデザインを目指した理由は「フルディスプレイと生体認証の両立」です。スマホデザインの行き着く先、いわゆるミニマルデザインの究極は「ただの板」、つまり正面から見た際にディスプレイ以外に何も配置されていない姿です。

これまでiPhoneの象徴でありアイデンティティでもあったホームボタンすらも排し、思い切った全画面デザインを採用したiPhone Xは、失った生体認証機能(指紋認証)を顔認証として組み込むことで利便性を確保しようとしました。そのためにギリギリまで画面を広げた結果があの奇抜なノッチデザインであり、またその必要性を訴えるが如く高精度な画像認識技術を使った「Animoji」を提案するなど、ノッチデザインの存在意義を強くアピールするものでした。


光学カメラだけではなく赤外線センサーやドットプロジェクタの搭載が可能にした「Animoji」


しかし他社のノッチデザインを採用したスマホはどうでしょうか。そのデザインに主張性は少なく、単に「これからはノッチデザインだ!」と真似たという以外の理由に乏しいのが実態です。かつてiPhoneが登場し一大ブームを巻き起こした際も、各社は端末の正面に画面とホームボタンしか配置しないスマホを作り現在の形へと進化させてきたわけですが、当時でさえアップルはサムスン電子を相手に意匠などの特許侵害などで訴えているだけに、今回も「またパクリか」と人々に苦笑されてしまうのも仕方がないのかもしれません。

しかも今回は時代背景が違います。当時はiPhoneのような物理的な文字入力キーのないスマートフォンがほぼ存在せず、他社はそのデザインを真似る以外に方法がありませんでしたが、ノッチデザインは敢えて真似る強い理由がないのです。そのデザインにする明確な理由がない時点で「ただ流行りに乗っただけ」という印象が強く、また当時と違い技術的にもすぐに真似できる時代であるだけに、わずか数ヶ月で雨後の筍のように次々と同じようなデザインの端末で溢れかえったのです。


癖の強いデザインだけに、明確な存在理由がなければ「見た目だけ真似をした」と言われても仕方がない


■スマホの正当進化「超縦長ディスプレイ」
一方で、スマホ業界にはもう1つの潮流が静かに押し寄せています。それは「18:9」や「18.5:9」という画面比率を持つ超縦長ディスプレイです。

iPhone Xによって一気に加速された「全画面スマホ」の流れはノッチデザインとは違い、これまで大画面化が進み続けてきたスマホの正当進化と言えます。現在のスマホは片手で扱えるギリギリまで巨大化しており、これ以上画面の横幅を広げるわけにもいきません。そこで縦方向へ画面を伸ばして表示領域を広げ、なおかつディスプレイの占有率を上げることで全画面スマホ的な美しさも狙おうというものです。


18.5:9という超縦長ディスプレイを採用したサムスン電子の「Galaxy S9」


こちらの流れは実に自然です。先に挙げたミニマルデザインの究極としての「ただの板」に無理なく近づいている感があり、ノッチデザインのように「無理矢理表示領域を広げました」的な違和感がありません。奇抜さこそないものの、こちらのほうがより扱いやすくスタンダードになり得る形なのではないでしょうか。

特に重要だと考えるのはコンテンツとの相性です。例えばiPhone Xの場合、コンテンツデザインではノッチ部分を考慮したデザインにしなければいけませんが、スクリーンショットを撮るとノッチ部分はカットされずに長方形そのままの画像が撮影されます。つまりノッチ部分は「単に表示されていないだけ」なのです。コンテンツや動画の視聴時にはただの邪魔にしかならず、ノッチを避けて黒帯にして表示するならばそもそもノッチデザインにした意味すら感じられないのに、そのデザインにユーザーエクスペリエンス(UX)としての整合性があるようには思えません。

しかし18:9以上の長方形ディスプレイであればコンテンツ製作時にノッチを考慮するという面倒もなく、純粋に大きく広い画面で設計することができます。またスマホの通知領域としても、やはりノッチがないほうがより多くの情報を表示できるのではないでしょうか。


通知領域でスマホの状態をできる限り一瞬で確認したいと考えるのは古いのだろうか


■ディスプレイの進化がスマホを「一人立ち」させる
iPhone Xにしても画面のアスペクト比は約2.17:1とかなりの縦長ディスプレイなので、「ノッチがあるから画面が狭い」というわけではないのですが、どちらにしても現在のスマホの進化の先にあるのは「パソコン文化からの脱却」ではなかろうかと感じるのです。

これまでスマホの画面の多くが16:9であったのはパソコンで扱うコンテンツの画面比率が16:9であったことに由来します。特に動画コンテンツの画面比率が16:9であることは大きな要因であると考えられ、その動画を画面いっぱいに広げて楽しめるというのがスマホの画面比率を決定する理由だったのではないかと思いますが、ノッチデザインにしろ純粋な超縦長デザインにしろ、もはやそういったパソコン向けの動画コンテンツにとらわれない、むしろスマホ独自のコンテンツの在り方を提案できる時代になってきた証拠なのではないでしょうか。

スマホが一般に浸透してきた頃、YouTubeに縦長画面の動画が当たり前のように投稿されはじめ、動画と言えば4:3もしくは16:9の横長画面で撮るものだという固定概念があった筆者は軽い衝撃を受けたことを覚えています。しかしパソコン文化に馴染みの薄い10代の若者や一般層にはそんな固定概念は存在しません。スマホなのだから縦に持ったまま動画を撮る。その方が当たり前で自然な発想なのです。

超縦長ディスプレイは、そんなスマホ文化の生み出した産物でしょう。パソコンで見るための動画やそのコンテンツの画面比率にとらわれない、真の意味でスマホに最適化されたディスプレイです。動画や写真は縦画面で撮影し、閲覧するのも縦画面のままです。ウェブサイトもパソコン向けよりもスマホ向けの縦長デザインが当たり前となりました。InstagramやTwitterではスマホでもパソコンでも違和感なく閲覧できる「正方形」の画像や動画が主流となりつつあります。デバイスのデザインがデジタルコンテンツやインターネットの世界を変えようとしているのです。


写真を撮るためにスマホを横持ちする、という発想そのものが古臭い扱いとなる時代がすぐそこまで来ている


スマホのデザインは行き着く所まで来たと思いがちな昨今ですが、もしかしたらまだまだ発展途上なのかもしれません。それはコンテンツに合わせたデザインから人々のライフスタイルに合わせたデザインへの変化を感じるからです。その意味で、ノッチデザインも「画面は四角くなければいけない」と考える古い頭が悪いのかもしれない、もっと発想を柔らかくしなければ……と、厄年を迎え頭が固くなりつつある筆者は自戒の意味を込めて気を引き締めるところです。


人々の日常がデバイスデザインを変え、コンテンツを変えていく


記事執筆:秋吉 健


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