民進党代表選に水さす蓮舫「出演拒否」と玉木「いじめ」
■“遅刻数分”で締め出された玉木候補
9月15日に投開票が行われる民進党代表選で、不可解な出来事が起きている。まずはまるで子供のいじめのような“玉木外し”だ。
それは9月7日午後、長野市内で開かれた民進党代表選演説会のことだ。会場となった長野駅前には代表選に出馬している蓮舫代表代行、前原誠司元外相、玉木雄一郎国対副委員長の3人が顔をそろえるはずだった。ところが3人の候補が並ぶべき街宣車の上には、玉木氏の姿だけ見ることができなかった。なんと午後4時10分の開始時間を数分遅刻したため、締め出されたというのである。
玉木氏が遅刻した原因は、長野1区選出の篠原孝元農水副大臣の地元集会に顔を出していたためだった。この時、玉木氏は地元農家によるシャインマスカットの栽培を視察し、「年間12人の新規就農者が生まれている」ことを評価しながら、「農業輸出などよりも、学校給食や介護の食事で地産地消を推進すれば、1000億円規模の国内市場になる」「農業を21世紀型の田園都市国家構想の柱にしたい」とフェイスブックに日本の農業への期待を綴っている。
「玉木さんに篠原さんの地元集会に参加を勧めたのは私だ。篠原さんは一生懸命に玉木さんを応援しているし、せっかく長野県に行ったのだから、玉木さんに長野県の農業を見てほしいと思った」
玉木氏の選対本部長を務める荒井聡元経済財政政策担当大臣はこう語っている。荒井氏と篠原氏はともに農水省の元キャリア官僚で、玉木氏自身も兼業農家の出身。祖父は地元の農協の組合長を務め、父親は経済連(経済農業協同組合連合会)に勤務した。日本の農業を重視している立場は共通だ。
「もっとも交通機関の関係で、演説会にはやや遅れるだろうことはあらかじめわかっていた。しかしわずかな時間であるし、演説会に支障が出るわけでもない。私のモットーは“義理、人情、浪花節”で、略してGNN。ルールを厳守することはもちろん大事だが、忘れてはならないもっと大事なものがあるということだ」
ところが、同じ政党に所属する仲間同士だから多少の融通はきかせてもらえるだろうという荒井氏の思いは裏切られる。民進党選挙管理委員会の判断は非常にクールだったのだ。
「定刻に間に合わないかもしれないとのことだったので、事前に玉木選対と何度もやりとりを行った。玉木議員には重ねて遅刻しないように申し入れたが、それでも時間を守ってもらえなかった。会場に入れなかったのは当然だ」(党本部関係者)
結局、党職員によって玉木氏は演説を阻まれた。職員は駅の改札口で玉木氏を待ち伏せ、「遅刻しましたからしゃべられません」と演説の現場に近寄らせなかったという。ちなみに演説会は5分遅れてスタートし、23分ほど続いた。その光景を遠くから見ながら、玉木氏は何を思っていたのか。
■蓮舫代行“TV出演拒否”のなぜ?
その後、ホテルメルパルク長野で行われた候補者討論会で、玉木氏が声を詰まらせる一幕もあった。旧民主党政権時の失敗を謝罪する前原氏の姿に、逆風に耐えている落選中の仲間や地方議員の姿が重なり、胸にこみあげてきたものがあったという。
この時、しんみりした雰囲気が会場に漂ったが、それを吹き飛ばしたのは「男が泣くな」という蓮舫氏の言葉だった。会場からは笑いも沸き起こっている。
このように相手には単刀直入に切り込む蓮舫氏。だが、自分については突っ込まれるのが苦手なようだ。というのも、かねて問題視されている“二重国籍疑惑”について、あたかも追及を極力かわそうとするかのように、蓮舫氏は民進党代表選に関して各テレビ局が企画した候補者討論番組に出演を拒否している。冒頭で述べた不可解な出来事のもうひとつは、せっかくの代表選を国民にアピールして盛り上げようとしない蓮舫氏の行動だ。
たとえばBS11は、9月6日と14日に放送の「インサイドアウト」で討論会を企画したところ、前原氏と玉木氏からは快諾を得ることができた。ところが蓮舫氏は地元日程などを理由に出演を断ったという。
そこで前原選対と玉木選対は、8日夕方に党の選管に対して申し入れを行った。その内容は公開討論会を開くこと、その際には蓮舫氏の“二重国籍疑惑”については話題にせず、専ら政策談議のみとすることをも盛り込んだ。蓮舫氏の“二重国籍疑惑”は本人のみならず、むしろ本気で政策論議を行って代表選を闘おうとする2人にとって迷惑なものなのかもしれない。
現在のところ、テレビその他で民進党代表選の討論会を中継する予定はない。もっとも選挙期間の後半に入り、郵送によらなければならない地方票は投票済みになるため、そのような討論会を行っても意味がないという意見もある。
しかし実際の得票数に影響を与えなくても、代表選の様子をオープンにすることは、国民に対する党のイメージ一新に寄与することは確実だ。
蓮舫氏を支持する岡田克也代表でさえ、8日午後に行われた最後の代表記者会見で「できるだけ多くの皆さんが、3人の候補がどういう考えを持っているのか、民進党がどうなのかがわかるチャンスをできるだけ生かしていく方がいい」と述べて、公開討論会開催に理解を示している。
現在のところ、蓮舫氏の圧倒的優位が報じられ、1回目の投票で決着がつくとも言われている。新代表に就任すれば蓮舫氏は、マスコミに対応しなければならず、逃げ隠れできるはずがない。そもそも代表選出過程から不可解な出来事を抱えて、党の刷新は可能なのか。民進党の行く手はこれからも長く険しいだろう。
(ジャーナリスト 安積明子=文 AFLO=写真)