九州産業大学付属 九州産業高校(福岡)

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 毎年、勢力図が変化する福岡県。私立だけではなく、公立校も強く、上位に勝ち進むことも珍しくない。そんな今年の秋の福岡を制し、今年の秋季九州大会に出場したのが九産大九産である。今回は福岡県筑紫野市に学校がある九産大九産の取り組みを追った。

エース梅野が台頭した今年の3月がスタートライン

 九産大九産の野球部で特徴的なのはグラウンドが山間部にあることだ。なんとグラウンドは筑紫野市にある学校からかなり離れた飯塚市の山間部にある。グラウンドまで移動する風景は山しか見えなかった。そのコースは箱根駅伝の5区を彷彿とさせるものがある。12月以降になると雪が降りやすく、グラウンドへ行く道が通行止めになることも珍しくない。そのためグラウンドで練習ができないこともある。

 もともとは筑紫野市内にグラウンドがあったようだが、グラウンド近くに住宅街ができたことで、音を出して練習するのが厳しくなった。そこで飯塚市の山間部にグラウンドを置くことになったのだ。選手たちは学校の授業が終わるとバスで40分かけてグラウンドへ向かう。そういった環境の中、選手たちは実力をつけてきた。

 今秋、九州大会出場を果たしたチームのスタートは今年の3月だと言っていい。今では投打の大黒柱であり、最速151キロ右腕の梅野 雄吾がちょうど台頭してきた頃だった。実戦で投げられる3年生の投手がほとんどおらず、3年生も成長した梅野の姿を見て、「梅野がエースで!」という声を挙げていた。しかし平川 剛監督は、夏はやはり3年生中心でないとと考えていた。

「3年生に左投手、右投手が1人ずつおりまして、彼らには梅野に頼るのではなく、自分たちでしっかりとやって、夏はお前らのチームでやっていこうぜと話したんです」こうして3年生投手2人へ自覚を求めた。しかし夏の大会では3回戦で久留米商に敗れ、甲子園出場はなくなった。

左から柴田 大雅主将、只松 宏樹選手(九州産業大学付属 九州産業高校)

 そして新チームがスタート。チームは梅野を軸とするチームとなった。投球だけではなく、打撃も大きく伸びていた梅野は4番を任されることに。主将を任せる構想があったようだが、梅野が断り、柴田 大雅が主将となった。こうしてスタートした新チームだが、スタート直後は不安の方が大きかったという。「梅野以外、夏にベンチ入りしていたのはショートの只松 宏樹だけでしたので、不安は大きかったですよ」

 梅野に頼らざるを得ないチーム状況。迎えた秋季県大会でも、いきなり筑陽学園と対戦。この試合に2対1で競り勝つと、福岡南部大会決勝で東福岡と対戦し5対3でまたも競り勝ち、準々決勝へ進出。準々決勝では夏8強の希望が丘と対戦し、これも4対3で競り勝つという、まさに綱渡りの試合だった。平川監督はこの状況についてこう振り返る。

「強い相手ばかりで、毎日が決勝戦のような感じでした。1試合1試合、本当に集中力を持ってやってきましたね。試合を振り返ると、日替わりで打つ選手がどんどん出てきましたね。また普段、守備でミスしている選手から予想以上のファインプレーが飛び出したりと驚きの連続でしたが、少しずつチーム力が付いている感じはあります」

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 迎えた準決勝では最速146キロ右腕・濱地 真澄擁する福岡大大濠と対戦。当然、苦しい試合になることが予想されたが、1回裏に1点を先取。そしてエースの梅野も平川監督が驚くほどの快投を見せた。「極端にいえばプロの投手を見ているかのような投球でしたね。ストレートだけではなく、変化球もうまく使っていて、またムキにならず、試合最後まで冷静でした」

 梅野はノーヒットノーランを成し遂げ決勝進出を果たし、九州大会出場を決定的にしたのである。決勝の小倉戦でも梅野が快投を見せ3対1で勝利して、福岡県大会優勝を果たす。そして九州大会を迎えたのであった。

鹿児島実業戦のコールド負けが自分たちを見つめ直す結果に

秋季九州大会 鹿児島実業戦より(九州産業大学付属 九州産業高校)

 九州大会ではいきなり夏の甲子園出場校で、昨秋の九州大会王者である九州学院と対戦(試合レポート)。九産大九産ナインは胸を借りるつもりで臨んだ。試合は3回まで2点を先制。4回にも1点を入れたものの、その裏に1点差に詰められたが、8回に再び追加点を挙げ、4対2で逃げ切った。そして、勝てば選抜へ大きく前進する準々決勝では鹿児島実と対戦。しかし梅野が鹿児島実打線に捕まり、被安打13、失点も13点と大量失点。打線も1点しか返すことができず、1対13で6回コールド負けとなった。大敗となったが、平川監督は収穫ある試合だったと振り返る。その理由とは。

「鹿児島実業さんの立ち居振る舞い、姿勢など本当に素晴らしいものがありました。また梅野が打たれたことで、みんな俺たちがやらなければと思ったのですが、どうにもならない状況で、これほどやられたことで、一からやり直さなければならないと改めて実感した試合でしたね。不思議と悔しさよりもすっきりした試合でした」

 投打に渡って梅野が中心のチーム。勝ち進みながらも、このままではいけないと感じていたこと。鹿児島実にコールド負けしたことは、九産大九産からすれば、一つのターニングポイントになる試合となったのだ。

 一からやり直す。それは選手たちの自覚を促すことからのスタートだった。平川監督は一教師として、学校の行事などでどうしても教師としての仕事を優先しなければならない時がある。そういうときこそ、選手たちの自覚が求められる。いかに自分の課題を把握しながら取り組めるか。「僕が見て2倍うまくなるならずっと見ますけど、萎縮するかもしれませんからね(笑)。僕がいない間、コーチたちがしっかりとやってくれているので、頼りになりますし、選手たちの自覚次第だと思います」

 では選手たちはどう感じながら練習に取り組んでいるのだろうか。主将の柴田は、「やはり梅野に頼り過ぎていたところがありましたので、1人1人がしっかりとやらなければならないと思っています。平川先生がいない間でも主力選手が上手くやっていると思います」

 グラウンドを見渡せば野手は打撃練習、投手陣はグラウンドの横で体幹トレーニングや反復横飛びなど、様々なメニューに取り組んだり、グラウンドから出た選手は自主的にウエイトトレーニングをしたりとそれぞれが淡々と自分のメニューに取り組んでいた。鹿児島実にコールド負けした悔しさを忘れずに取り組んでいる様子が見て取れた。

[page_break:来年の1つ1つの公式戦で課題を持って臨んでいきたい]来年の1つ1つの公式戦で課題を持って臨んでいきたい

エース・梅野 雄吾(九州産業大学付属 九州産業高校)

 打撃、守備とそれぞれ課題はあるが、チーム全体の課題は守備だと語る平川監督。「シートノックから怖い段階でした。まずは盤石となるものを作らないといけないと思い、守備の基礎・基本をしっかりと固めて強化しております」

 それは選手も課題としてとらえている。打撃の要である只松はショートとして内野手を引っ張る立場でもある。只松は、「自信があるのは打撃ですが、守備はこの冬に鍛え直さないといけないと思っています。また守備で、どううまく見せられるかも、上で野球をするためにも必要だといわれていますので、そこをこだわっていきたいと思います」主将の柴田も、「チームとして見れば守備が課題です。守備で梅野の足を引っ張らないようにしていきたい」と語る。

 個々の能力をどれだけ伸ばすことができるか。また梅野以外の投手陣の底上げというのも目指していることである。平川監督は、「この秋は梅野だけだったんですよ。梅野、梅野になると、やっぱり苦しくなる。梅野の負担を軽くできるような投手を作り上げたい。また梅野には連戦でも連投できるスタミナ、メンタルなどを求めていきたいですね」

 その成果を試す場は、来年の公式戦。福岡は県大会の他に、ローカルな大会が多い。平川監督はローカルな大会こそ夏へ向けての重要な大会だと考えている。「この大会が大事で、ある程度、課題を持って取り組んでいきたいと思いますね」

 最後に佐賀県出身のエースの梅野になぜ九産大九産を選択したのか聞いてみた。グラウンドがかなり遠いということも知っている。それでもここで実力を磨きたいと思った理由は何なのだろうか。「誘っていただいた監督さんのためにも、そして自分が甲子園に連れていきたいという思いで来ました」

 その梅野はチームの大黒柱。「勝ちたいという気持ちは一番強く持っていますね。そして野球に対する意識が非常に高い」と平川監督が話すように、ナインも梅野に全幅の信頼を置いている。「1年の時は最弱世代といわれた代でした。今は梅野におんぶにだっこにならないように自分たちがしっかりと意識を高め、甲子園を目指したいと思います」と決意を語った柴田主将。

 鹿児島実戦をきっかけにさらに自覚が芽生えた選手たち。激戦の福岡を勝ち抜く、盤石の実力をこの冬で身に付ける。

(取材・文=河嶋 宗一)

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