運動生理学から考えるランニング
こんにちは、アスレティックトレーナーの西村 典子です。
オフシーズンに入り、体力づくりに力を入れるチームも多くなってきたことと思います。暖かい日などはボールを使って練習することができても、手がかじかむほど寒い日やもともと積雪量の多い地域のチームなどは、野球の練習よりも体力向上のためのトレーニングやランニングに時間を費やすことが増えてくるでしょう。
さて今回は体力づくりの一つとして多くのチームが取り入れているランニングについて、運動生理学の観点から考えてみたいと思います。
この時期はとにかく「走り込み」と称して長い距離を走ったり、長い時間をかけてランニングをすることがあります。走り続けると身体はキツくなりますので、自然と力のロスを少なくし、ムダのない効率的な走り方を覚えることにつながります。こういった点では「ある程度の」ランニング量は必要と言えるでしょう。しかし長い時間や長い距離を単調に走り続けることは、慢性的なスポーツ障害につながることもありますので、選手の体力面とランニング環境、ランニングの頻度などを十分に考慮する必要があります。
エネルギー供給システムから考えるエネルギーをもたらす過程によってランニングを考える
ランニングは単純に距離と時間によってロング走(ローパワー)、ミドル走(ミドルパワー)、短ダッシュ(ハイパワー)と大きく3つに分けることができます。これを運動生理学の観点からみてみると、酸素を取り込みながらエネルギー源である糖質と脂質を燃焼(酸化)させることによってエネルギーを得るもの(酸化系)をロング走、糖質を乳酸まで分解する時に発生するエネルギーを利用するもの(解糖系)をミドル走、筋肉でのエネルギー貯蔵物質であるクレアチンリン酸(CP)を、クレアチンとリン酸に分解する時に放出されるエネルギーを利用するもの(ATP-CP系)を短ダッシュと分類することができます。
たき火に例えてみるとすぐに火がついてすぐに燃えてしまう新聞紙がATP-CP系、火がつきやすいが長時間はもたない小枝が解糖系、火はつきにくいが一度つくと長時間燃え続ける炭が酸化系と考えるとわかりやすいのではないでしょうか。
こうした運動生理学の観点に基づいて、野球に必要な体力要素を強化するためのランニングを考えていきたいと思います。
[page_break:目的によって走り方は変わる]目的によって走り方は変わる目的をもったランニングでさまざまな体力要素を鍛えよう
●ロング走投手に必要といわれているロング走ですが、全身持久力(おもに心肺機能)、筋持久力の強化としてランニングプログラムを組むようにしましょう。スピードによって負荷が変わりますので、心拍数などがモニターできるものを用いるのも一つの方法です。ただ「走り込み=下半身強化」につながるというのは、筋力レベルを上げるという点から考えるとあまり効率的な練習ではないということも覚えておきましょう。
スピードレベルを落としてゆっくり走ることは血流をよくし、疲労回復効果も見込めますので、クールダウンにも適しています。
●ミドル走試合後半になってもバテない身体づくりの一つとしてミドル走を行い、全身持久力と筋持久力を強化します。運動生理学的に設定するとおよそ40秒まではATP-CP系、解糖系のエネルギー供給システムに依存していることになるため、このタイム以内でのランニング距離を設定するようにします(〜400m程度)。ミドル走での体の軸がぶれない走り方は、下肢だけではなく体幹の筋持久力を鍛えることにもつながります(ランニング量によって変化する)。
また中距離を走るときはランニングと休憩(インターバル)の比率を変えることで、ランニング負荷を調整することができます。ランニング間のインターバルが短くなればなるほど心肺機能に負担がかかり、全身持久力の強化(いわゆるスタミナ強化)にもつながります。
●短ダッシュ時期としてはシーズン中や試合期に行うことが多い短ダッシュですが、スピード強化の一つとしてオフシーズンのランニングに取り入れることもよいでしょう。スタートでの爆発的な力と短い距離を走りきるスピードは、野球のプレーにおいても瞬発力強化にもつながります。ただし一度に大きな力を発揮するため、基礎筋力が出来上がっていない段階で繰り返し行うとケガのリスクが高まります。
疲労の少ない練習開始から早い時間帯に本数や時間を決めて、短時間で行うことが望ましいと言えるでしょう。ダッシュの時にけり足が後ろに流れる走り方は、力感があるばかりで効率の良い走り方にはなりません。坂道での短ダッシュなどで膝を上げて前への推進力をうむようなフォームを意識するようにすると、スピードアップにもつながります。
野球が上手くなるために行うランニングで、心身ともに大きな負担がかかってしまっては本末転倒です。何を鍛えるのかを明確にしないまま、同じランニング量、ランニングの内容にするのではなく、バリエーションを持たせながら、さまざまな体力要素を鍛えて野球のレベルアップにつなげましょう。
【トレーニングの基本的考え方】・ムダのない効率的な走り方を覚えるためにはある程度のランニング量は必要・エネルギー供給システムによってロング走、ミドル走、短ダッシュと分類できる・ロング走は主に心肺持久力の強化、スピードを落とせばクールダウンにも向いている・ミドル走では下肢や体幹の筋持久力強化を目的とし、インターバルの設定で負荷を調節する・短ダッシュは爆発的な力とスピードを養成する・坂道での短ダッシュはスピード効率の良い走り方の練習にもつながる。
(文=西村 典子)
次回コラム公開は12月30日を予定しております。
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