維新は分裂?(維新の党ホームページより)

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【朝倉秀雄の永田町炎上】

潰えた「衆愚政治の申し子」橋下徹の野望

 5年にわたり“上演“されてきた橋下徹大阪市長脚本・監督・主演のドタパタ劇「大阪都物語」が5月17日の「住民投票」でついに閉幕に追い込まれた。これには安部総理や菅官房長官なども「特別出演」を買って出る場面もあったが、結局は国民を惑わし、いたずらに世間を騒がせただけだったようだ。

 橋下はいっぱしの「政治家気取り」だったようだが、行政マンと政策秘書とを合わせ30年以上の経験を持つ筆者に言わせれば、一介のタレント弁護士出身で、たかだが7年余の地方公共団体の首長を務めただけの橋下などはおよそ「政治家」の範疇に入らない。目立ちたがり屋で下積みが大嫌い。メディアであろうが有識者であろうが、少しでも批判されると、大人げなく猛然と反撃に出て、下品な罵詈雑言を浴びせる。取材禁止になる。誰よりも人権感覚に溢れていなければいけない弁護士なのに「言論の自由」の封殺など日常茶飯事だ。そんな我がままで、傍若無人な日頃の言動を「ペテン師」か「政治ゴロ」の戯言くらいにしか思っていなかった筆者などは野望が潰えたことを喜ぴ、ほっと胸を撫で下ろしているくらいだ。

橋下の政界復帰などもってのほか

 およそ行政組識というのは、小さくなればなるほどコンプライアンスが機能しにくくなる。政治家や右翼、ヤクザ、エセ同和団体など外部からの圧力に屈しやすくなり、行政が歪められ、汚職や不祥事が起こりやすくなる。ましてや、大阪府や大阪市というのは、得体の知れない人種が蔓延り、強制ワイセツ罪で在宅起訴され、懲役1年6か月、執行猶予3年の有罪判決を受けた横山ノックのような「お笑い芸人」を知事に奉り、大阪市職員の113名が刺青を入れているような、そんな“民度”を持つ土地柄だ。

 そんな風土のなかでもし「都構想」が実現し、大阪市5つの特別区に分割され、区長を公選にし、区議会などを置いたら、どうなるか容易に想像がつく。区長や区会議員の周辺には利権を漁っていかがわしい連中が猟犬のようにまとわりつき、行政は無茶苦茶にされてしまったに違いない。その弊害は「二重行政のムダ」どころではない。ともあれ、大阪市民の賢明な選択により、かろうじて大阪市の危機は回避された。

 結果を受けて橋下氏は記者会見で「市長の任期満了まではやるが、それ以上は政治家はやらない」と引退を表明した。「衆愚政治の申し子」である橋下政治の否定であり、5年にわたり世間を惑わせた「橋下劇場」の終焉である。橋下ような口先三寸で世渡りするイカサマ師に引っ掻き回されたのは、ひとえに日本が民主主義が「衆愚政治」に陥っているからに他ならない。一部には構下氏の政界引退を惜しみ、国政に打って出ることを期待する向きもあるが、いくら厚顔無恥な「衆愚政治の申し子」でも、そこまで言い切った以上、前言を翻すことはないであろう。

「東京系」と「大阪系」が路線違いで分裂?

 看板政策だった「都構想」が否決され、「維新の党」こと「橋下商店」の“店主”がいなくなれば、政党としての存在意義が危うくなる。まとまりもつかなくなる。「船頭」がいなければ、船は真っ直ぐには進まない。もともと「維新──」は大阪府内の地方議員出身者、民主党脱党組、解党した「みんなの党」から別れた「結いの党」などの寄せ集めなのだからなおさらだ。

 維新の党は19日の両院議員総会で民主系の松野頼久を選んだが、松野の器量では舵取りは荷が重いであろう。ちなみに松野は慶応義塾高校から慶応大学にエスカレーター式に進んでいながら卒業するのに8年もかかっているし、卒業後、日本新党の職員になるまでの6年間、いったい何をやっていたのか、さっぱりわからない。分不相応にも2000万円以上もするベントレーを乗り回し、鳩山内閣の官房副長官時代の平成2010年にはホステスと見間違うくらいド派手な妻素子の運転で広尾のラーメン屋に乗りつけ、駐車違反を起こしており、あまり素行が良いとは言えない人物だ。

 それはともかく、維新の党にはこれまでも野党再編を睨んで民主党との連携を模索する民主党系の松野や結いの党出身の江田憲司前代表らの「東京系」と、橋下改革の「抵抗勢力」だった労働組合を支持母体とする議員が多い民主党を嫌う、橋下子飼いの馬場伸幸国会対策委員長ら「大阪系」との路線の対立があった。だが、橋下の引退表明と松野の代表就任で「大阪系」の求心力が急降下し、相対的に「東京系」の勢力が強くなり、今後は民主党との連携が加速すると思われるが、「大阪系」のなかには「もし民主党と合併するなら、党を出る」と言い切る者までおり、分裂の火種となりそうだ。

 有権者というのは、現在の政治のどこがどう悪いのか具体的に指摘できないのに、常に漠然とした不満を抱いているものだ。それに乗じるように「新党」が生まれ、やがて消えてゆく。その繰り返しだ。1976年のロッキード事件により政治不信を背景に誕生した「新自由クラブ」、1993年の自民党の下野による“55年体制”の崩壊による「日本新党」や「新党さきがけ」、最近では「みんなの党」があるが、残っているものはひとつもない。もともと大政党での下積み生活が嫌いな連中が国民の受けを狙って思いつきで結成し、政権担当能力などなきに等しいのだから、いずれは存在意義を失い、雲散霧消するのも当然の成りゆきだ。現在の民主党の勢いを考えれば、維新に残ろうが、民主党に合流しようが、次の選挙で当選する可能性は限りなく低い。

 いずれにせよ維新の党もやがて同じ運命を辿るだろう。それが筆者の観測だ。

朝倉秀雄(あさくらひでお)ノンフィクション作家。元国会議員秘書。中央大学法学部卒業後、中央大学白門会司法会計研究所室員を経て国会議員政策秘書。衆参8名の国会議員を補佐し、資金管理団体の会計責任者として政治献金の管理にも携わる。現職を退いた現在も永田町との太いパイプを活かして、取材・執筆活動を行っている。著書に『国会議員とカネ』(宝島社)、『国会議員裏物語』『戦後総理の査定ファイル』『日本はアメリカとどう関わってきたか?』(以上、彩図社)など。最新刊『平成闇の権力 政財界事件簿』(イースト・プレス)が好評発売中