【戸塚啓コラム】川口選出の背景にあるもの
選考はおおむね順当だっただろう。昨年11月の南アフリカ＆香港遠征にリストアップされた23人のうち（ケガで参加できなかった中村憲剛と森本貴幸を含む）、実に20人がメンバー入りを果たしている。また、今年３月のバーレーン戦に招集された20人からは、18人が選出された。いずれも海外組を含むベストチームが編成された遠征（試合）であり、これまでの流れに沿った選考と言うことができる。
とはいえ、見切り発車的な招集ではない。すでに４月から実戦的なトレーニングを消化しており、４月中に復帰するプランもあった。しかし、所属するジュビロ磐田が４月のリーグ戦で無敗だったことで、現場スタッフがあえて無理をさせなかったというチーム事情がある。コンディションは実戦に耐えうるレベルに到達しており、そもそも彼は経験豊富だ。試合勘をつかむまでに、さほど多くのゲームは必要としない。
岡田監督は川口について、第３ＧＫとの立場を明言した。楢��正剛と川島永嗣がケガをしない限り、彼がワールドカップのピッチに立つ可能性はない。そして、二人のＧＫが相次いで負傷に見舞われるとは考えにくい。１か月以上の期間を、川口は控え選手として過ごすことになる。
強烈な個性の持ち主である川口は、それゆえベンチに置いておくのは難しいと思われがちだ。「控え選手としてチームを盛り上げなければ」という忠誠心と、「先発メンバーとしてピッチに立ちたい」という闘争心が激しくぶつかり合い、気持ちの整理がつかない時期は確かにあった。
２０１０年現在は違う。正確に言えば数年前から、彼は控え選手でもチームに貢献できることを証明してきた。ジーコのもとで楢��、土肥洋一と信頼関係を築き、岡田監督のもとでもチームを後方から支援していた。トレーニングの前後に率先して荷物を運び、声を出し、居残りのシュート練習に付き合った。自分と同じように試合に出られない選手に、一緒にチームを盛り上げていこうと声をかけていた。歴代２位の国際Ａマッチ出場数を誇り、イビチャ・オシム前監督のもとでゲームキャプテンを任されていたプライドは、彼のなかで何よりも優先されるべきものではないのである。
過去３大会を知る川口を加えたことで、控え選手を含めた一体感が高まっていけば──ドイツＷ杯のチームにはなかった強みを、日本は手にすることができる。
・戸塚啓コラム - サッカー日本代表を徹底解剖
関連情報（BiZ PAGE＋）
1968年生まれ。'91年から'98年まで『サッカーダイジェスト』編集部に所属。'98年秋よりフリーに。2000年3月より、日本代表の国際Aマッチを連続して取材している
