ビル・バーネット氏、デイヴ・エヴァンス氏共著の『ライフデザイン』(早川書房)。ニューヨーク・タイムズ第1位に輝くベストセラー。

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人とのコミュニケーションには言葉が欠かせない。言葉を駆使して人生を勝ち上がる人は、どこが違うのか。各界を代表するプロフェッショナルに極意を聞いた。第2回は、スタンフォード大学デザイン・プログラムのエグゼクティブ・ディレクター、ビル・バーネット氏だ――。(全4回)

※本稿は、雑誌「プレジデント」(2018年6月18日号)の特集「聞く力入門」の記事を再編集したものです。

■1989年に初来日したとき、日本は元気だった

米・スタンフォード大学の「ハッソ・プラットナー・デザイン研究所」(通称dスクール)。“デザイン思考”の授業が開かれるこの研究所で私は教鞭をとっています。私と協力者が編み出した「ライフデザイン」(人生設計)の講義は大学で1、2位を争う人気授業です。このたび、その授業の内容を記した本が和訳されました。

今、ライフデザインという本を日本で発売するのはちょうどいい時期だと思います。日本では、働き方が変わりつつあるからです。

私は1989年に初めて来日して以降、多いときは年3回ほど日本を訪れています。初来日したときの日本はとても元気でした。しかし、その後バブルが崩壊し、日本のサラリーマンは会社で出世するチャンスが減り、人生の見通しが悪くなりました。伝統的な終身雇用制度の会社も減少し、これまでモーレツに働いて会社に尽くしてきた人が、働く意味を問いはじめました。

■ライフデザインが、日本に必要な理由

この本は自分の将来に漠然とした不安を抱いている若い人にとって最適でしょう。今の時期、日本の大学4年生は就職活動に励んでいますね。ヒエラルキー型の会社が多い日本では、会社で自分のやりたい仕事をすぐにするのは難しいでしょう。「総合職」では、自分が行きたい部署に行けるかわからないですし、日本ではどんな仕事に就かされても文句は言いづらいでしょう。

そもそもインターンが根付いていない日本ではその職が自分に本当に合っているのかどうか、なかなか学生には見えにくいでしょう。とはいえ、「石の上にも3年」という文化があることもわかります。だったら無理に仕事でライフデザインをしなくてもいいのです。プライベートですればいいのです。

私の教え子は、フェイスブックの社員だったり、コンサルタントだったり、さまざまですが、仕事以外では子どもたちのサッカーのコーチ、ロボットづくり、経営学の勉強といろいろなことをしています。たとえ仕事がつらくても、そうやってプライベートから人生を「意味あるもの」にしましょう。新入社員には仕事以外にやりがいを見つけてもらいたいです。

■私が日本の“社畜”に伝えたいこと

ライフデザインは、もともとスタンフォード大学の生徒のためにつくった人生設計のプログラムですが、20〜30代の社会人にも大変高い評価をいただきました。ぜひ、日本の「社畜」にも読んでもらいたいと思っています。

それにしても社畜とはヒドイ言葉ですね。なにやら会社と家畜を組み合わせた造語だそうで……。そもそも日本人は働きすぎです。アップル時代、日本の取引先は平日の夜遅くまで働いたあと飲みにいき、また会社に戻っていました。そして翌日の会議は眠そうでした。明らかに作業効率が悪くなっており、結果、土曜日も働いていました。

そういった働き方は日本社会がカイゼンするべきところですが、たしかに一国民、一社員には、どうにもコントロールできないかもしれません。それでも、どんな些細なことでもいいから、自分で「選択」することが大切です。

何か自分で選択できることがあれば、あなたは会社の家畜ではなくなり、人間となります。「今日の残業は明日やる」。それだけでも社会は変わります。こういった小さい主張の積み重ねで日本は変わっていくでしょう。本来、誰もこんな状況で働きたいわけではないはずです。誰も会社の家畜のように扱われるべきではないのです。

大切なのは、自分が自分の人生の舵をとること。仕事では上の指示に従うだけでも、仕事は人生の一部ととらえ、少しでもプライベートの部分で意味のあることをするべきなのです。

■人とは何かしら、喋りたい生き物

さて、本の中では「ライフデザインインタビュー」というものに触れています。人生設計においては、自分がやりたい仕事や生活を実践している人の話を聞くことが大切です。あなたが検討している仕事や生活を実際にしている人や、あなたが疑問を持っている分野の本格的な経験や専門知識がある人に話を聞き、あなた自身がその仕事をしている様子をイメージしてみるのです。相手の仕事や人生、そこに至った経緯も聞いてみるといいです。ライフデザインインタビューでは話を聞くだけで、貴重な情報がたくさん得られるのだから利用しない手はないですよ。

インタビューで大切なのは自分の考えを相手に押し付けるのではなく、相手にとにかく話してもらうことです。最大の注意点は「就職面接」にさせてはいけないこと。そうなると相手の視点はあなたへの「評価」や「批評」になり、興味深い話は引き出しにくくなるでしょう。インタビュー中、いつの間にかあなたばかりが質問に答えていたり、自分の話をしたりしていると気づいたらいったん話はやめて、会話の流れを変えましょう。

■「もっと聞かせてください」と聞き続ける

一方で相手からの印象がよければ転職に有利になるかもしれません。だからこそ、「テル・ミー・モア(もっと聞かせて)」とジェスチャーを交え、前かがみになり、話を聞きましょう。相手は「あなたにとって自分は大切な人」「自分の言っていることは意味のあること」だと思うようになります。インタビューの相手は今ではSNSで簡単に見つけられます。これをたくさん続ければ、あなたを助けてくれるネットワークができるのです。

ちなみにビジネスの商談などで大切なのは、相手の話を聞くことです。私は相手が自分に何を求めているのか探るため、最初は聞くことに徹します。簡単に言えば「もっと聞かせてください」と聞き続けるのです。

もし会話の途中で沈黙が生まれてしまっても、私はあえて待ちます。気まずい空気になるかもしれませんが、相手が口を開くのを待ちます。だいたい人って何かしら喋りたい生き物ですから。あと極力大きな机などをはさんで話すのはやめましょう。フォーマルすぎるとインタビューや商談はうまくいきませんよ。

私はこれまでさまざまな人にライフデザインを教えてきましたが、この世で一番不幸なのは成功者だと思います。彼らは「金も名誉もあり周囲に羨ましがられるが、今の状態が嫌い」で「身動きがとれない」のです。あなたもぜひ、本当の幸せは何か、ライフデザインを通じて探してみてください。

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ビル・バーネット(Bill Burnett)
スタンフォード大学デザイン・プログラム エグゼクティブ・ディレクター
ライフデザイン・ラボの共同創設者。アップルのパワーブックのデザインで賞を受賞。デザイン・コンサルタント会社のCEOも務めている。
 

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(スタンフォード大学デザイン・プログラム エグゼクティブ・ディレクター ビル・バーネット 構成=鈴木聖也 撮影=横溝浩孝 写真=iStock.com)