突然親が倒れたら何がいくらかかるのか

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お金さえあれば、人生は安泰なのか。もちろん、そんなことはない。雑誌「プレジデント」(2017年6月12日号)の特集「お金に困らない生き方」では、人生の後半戦にやってくる5つの「爆弾」への備え方を解説した。第5回は「親が倒れた」について――。(全5回)

■こんなはずじゃ……暴力・暴言の事例も

超高齢化社会の到来がいわれ始めたのはかなり以前からですが、現在40代、50代の方で、若い頃から親の介護という事態を想定していた方は少数ではないでしょうか。

多くの方は「田舎の親、大丈夫かな?」と案じはするけれど、本人が「大丈夫だから」と言われるままに放置していた。ところがある日、実家近くの警察署から、「認知症で親御さんが外出先から自宅に戻れなくなった」という電話がきた――そういうパターンが多いですね。

以前から親と同居していた方であれば、認知症が徐々に進むとおのずと気が付きますから、症状の進行によるトラブルは少ないでしょう。何かの拍子に転倒して骨折したり、脳梗塞や脳内出血等、脳の病気が原因で入院し、その後遺症でマヒが残り家に戻ってくる、というケースが多いのではないかと思います。

突然介護が必要になると、まず気になるのは、やはりお金の問題でしょう。ただ、実際には介護保険制度がありますから、在宅介護でしたらそれほどお金はかかりません。通常だと月々5万円くらいで済みます。

介護保険の財源が厳しいので制度が改正され、当初は1割で済んでいた利用者負担が、年金収入や合計所得が多い方については2割になりました。それでも上限があって、3万8000円くらいに抑えられています。ほかにおむつ代等が発生したとしても、総額5万円程度という計算です。

在宅介護ではなく、施設介護を選択するとなると、金額が大きく変わってきます。

弊社では、サービス付き住宅という老人ホームと在宅介護の中間に位置するような施設も運営していますが、家賃や食費込みで18万円から20万円、年間200万円はかかるので、家計的にはかなり厳しくなります。

特別養護老人ホームなどの介護保険施設は、国からの補助金もあって費用が安く抑えられ、大変人気があります。どこでも入居は200人、300人待ち。しかし、要介護3以上でなければ入居ができないことが明文化されました。

そうなると、有料老人ホームへの入居も考えなくてはいけませんが、その多くは月額の費用が30万円程度かかる高額の施設です。なかには月額20万円を切る施設もあるようですが、当然サービスの質は下がります。

不動産など資産を売却して有料老人ホームの入居費用にあてる方もいますが、なかなか希望額では売れません。また親御さん本人も、施設に入るより長年住み慣れたわが家での生活を希望される方が多いですから、在宅での介護を選ばれます。

結果として、面倒を見る息子や娘が、勤めていた会社を辞めざるをえない「介護離職」に追い込まれたりしています。

帰郷しても仕事が見つからず、それまでの年収を失ったうえで、親の年金で親子が生活したり、生活保護費でまかなっている方も珍しくありません。それでいて、在宅介護が必ずうまくいくとは限りません。もともと別居していたのが、介護が必要になって同居するわけですから、意見が対立することも多いですね。

介護を背負わされ、こんなはずじゃなかったという気持ちを、奥さんが親御さんのほうに向けてしまい、暴力をふるったり、暴言を吐いてしまうという事例も起きていて、市役所や区役所が間に入るケースもあります。

国も財源の問題があるので、特養をどんどん建てるよりは、「なるべく在宅へ」という方向で物事を進めています。状況は改善していません。

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松田吉時
ケアリッツ・アンド・パートナーズ副社長。1979年生まれ。東京大学経済学部卒業。日本生命保険等勤務を経て2009年、ケアリッツ・アンド・パートナーズ合流。
 

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(ケアリッツ・アンド・パートナーズ副社長 松田 吉時 構成=金井良寿 撮影=初沢亜利)