日本政府の「布マスク」一斉配布の方針が批判を浴びる中、シンガポールも「再利用可能」なマスクの配布を打ち出している。

これまでシンガポールでは、体調不良の人以外がマスクを着けることには否定的な立場だったが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて方針を転換した。マスク配布のためのウェブサイトも立ち上げ、方針発表の2日後には実際に配布も始まっている。

再利用可能マスクで「若干の守りを強めることができる」

感染拡大を受けてリー・シェンロン首相が2020年4月3日にビデオ演説を行い、4月7日から5月4日にかけて、生活に不可欠な業種を除く大半の民間企業のオフィスを閉鎖するように求めた。学校もすべて休校にして、オンライン学習などに切り替える。この演説の中で、マスクをめぐる方針にも言及した。

これまでシンガポールは、「体調不良を感じた時のみ」マスク着用を求めてきた。2月初めには1世帯あたりサージカルマスク4枚を配布したが、あくまで「病気になった時のために」だった。だが、演説では、世界保健機関(WHO)がマスクをめぐる見解を変更したことに言及しながら、

「感染者は無症状かもしれないが、それでもウイルスを他者に感染させるという証拠が出てきた」

として方針を転換。サージカルマスクは医療関係者向けに回す必要があるとして、一般向けには

「再利用可能なマスクといった代わりのもので、若干の守りを強めることができる(give some added protection)だろう」

などとして、1人1枚の「再利用可能」なマスクを配布することを打ちだした。

配布期間は4月5日から12日まで。特設サイトに自宅の郵便番号を打ち込むと最寄りの配布場所が表示される仕組みで、身分証明書を持って受け取りに行く仕組みだ。特設サイトにある「配布場所が混雑していたら?」という質問には「急いでマスクを受け取る必要はありません」。混雑している時間を避けて受け取りに行くことを進めている。

「マスクがあろうとなかろうと...」

4月5日にチャンネル・ニュース・アジア(CNA)が「もう、政府の再利用可能マスクは受け取りましたか?」とツイートし、受け取ったマスクの写真を掲載している。そこには、「3層布マスク 再利用可能」の文字。同じものが現地のフリマサイト「カルーセル」で、1枚10.5シンガポールドル(約800円)で売られていた。特設サイトには

「マスクはランダムに渡される。マスクは様々なところから供給を受けており、デザインや素材は異なる。しかし、あるマスクが他よりも優れている、ということはなく、それぞれが基本的な保護機能を果たすことができる」

とも説明されており、種類にはばらつきがあるようだ。「再利用可能マスクはどの程度使えるのか」という質問には「すり切れない限り利用可能だ」とも説明している。

リー首相の演説では、

「マスクがあろうとなかろうと、手洗いと、他の人との安全な距離を保つことは必要だ」

と強調しており、必ずしもマスクを着けることの優先順位は高くない。

日本の厚生労働省のまとめによると、シンガポールでは4月5日時点で1189人の感染を確認。そのうち5人が死亡している。シンガポールの人口は約564万人で、人口あたりの感染者数は日本の8倍程度だ。

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)