一方、後半にはこんな言葉もあった。
「やはりこういうフリーランニングの質が疲れている中では重要になってきます」
長谷部が本田からのパスを受けようと走り出した時の言葉だ。

あるいは、局面での競り合いを伝えながら、さりげなく逆サイドの大久保がフリーだと伝える場面も、二度以上あったように思う。
松井や本田が数的不利な中で、仕掛けること、ための時間を作ることが、どれだけ味方を助けるか、を語る場面も多かった。
先輩のトラさんのような、文学的な行間は足りないが、「サッカーの行間レベル」は高かった。

「サッカーに歴史が必要」と一言で言うが、本当に歴史が必要なのは、監督や選手たちではなく、サッカーを見ている僕らの方だ。
そのためにサッカーを伝えるメディアの品質は、実は日本サッカーの今後の成長にとても大きな役割を果たす。

思えば辛い数週間だった。
負け続けた試合、情けない監督の顔と言葉、目を覆いたくなる采配、子供たちさえ見放す闘志の無さ。
小学生たちがサッカーの練習中に、「もうトゥーリオいらないから」とネタにして言い出す姿を見ると、さすがに情けなくなった。

その責任の多くは局面の最適化だけで岡田監督を選んだサッカー協会と、自分の強みを理解せずに、迷走した岡田監督自身にある、と僕は思う。
それでも、その代表を伝える報道は、あまりほめられたものではなかった。トップの指揮官の「ブレ」を取り上げるのが、最近の流行りなのかもしれないが、協会や監督以上にメディアの視点は、短絡的だったように思う。

もちろん、当日のテレビの在り方も、完璧とは言えない。
ハーフタイムにニュースを挟んだこと(「はやぶさ」のニュースだったからいいけど)、ボールが動き始めているのにリプレイを繰り返した点(エトーと本田が向き合うシーンは目に焼きついちゃったけど)、試合後に本田だけを特別にインタビューしたこと(本田の方がかえって大人だったけど)、そういった点はいただけなかった。

しかし、いい点も多くあった。
飲み屋で語るような勢いだけの精神論もなかった。ピッチにいない俊輔を語り視聴者の集中をそぐこともなかった。家族の話題で高校野球化することもなかった。遠藤の質の高い走りを語らず、がむしゃらに走ることを求めることもなかった。
野球中継から抜け出せない他のメディアとは一線を画し、素晴らしくサッカーを伝えることに集中できていたと思う。

もし、ゲームを録画している人がいたら、じっと中継の言葉だけを聞きながら、見直してみることをお勧めします。はい、とてもいい中継ですし、とても勉強になります。

「チームが一つになれた」
それを勝利の一番の要因に上げることに異論はない。しかし、僕ら視聴者の側も、ぶれずにサッカーに集中できた点は、何%か野地アナが勝利に貢献したような気がする。

初戦の視聴率は50%近くあったという。この南アフリカの初戦で、日本のサッカーを見る目が、また一段上がってくれればうれしい。
スポーツ新聞が、翌日の一面で本田を礼賛する中、これはチーム全員の勝利だろ、とスルーできる視聴者が増えてくれたような気がする。

「試合終了! ニッポン勝ちました!1対0 薄氷を踏む勝利でした。しかし最後まで緩みのないいい試合でした」

今回の中継を多くの日本人が見たことは、日本サッカーの、小さいけれど偉大なもうひとつの勝利だ。
最後まで、緩みのない、本当にいい実況中継でした。


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