さて、無事に本が出てゆるゆるとだけど、売れている。「1冊、本を出してからが勝負だ」と多くの編集者が忠告してくれるので「ヨシ、オレも『Number』に出てくるような薫り高い文章、書いちゃうもんね」と、先週、前のめりに「浦和対FC東京」を観に出かけた。埼玉スタジアムは4万9千人を飲み込んだ。ご存じのとおり、赤い悪魔は騒々しくうごめき続ける。

 そもそも記者やカメラマンというのは不幸な職業だ。と僕は思っている。かなりいい場所でお金も払わずに観戦してはいるけど、超絶プレーにもゴールに対しても、突き上げたくなる拳をぐっと諌めて経過をこと細かにメモしなくては(カメラマンはシャッターを押し続けなくては)ならない。ビールだって飲めない。

 僕は恥ずかしいことに取材者というより観戦者のスタンスに近い。記者席に座っていてゴールが入る。ほかの記者さんは一心不乱に手元の手帳を小さな文字で埋める作業に没頭しているけど、僕だけは「わ」と「お」の間くらいの発音で叫び、「YAH YAH YAH」の飛鳥のように宙を殴ってしまう。周囲の記者からは訝しげな目線をいただく。
 話を戻す。それが良くないと思ったので、今回はポンテのフィジカルにも驚かず、羽生の飛び出しに声を上げることなく静かにプロっぽく観戦しようと決めていた。

 でもたったの開始3分。田中達也がエジミウソンにつなぎ早い先制点が生まれた。
「出るのか!? あるぞあるぞあるぞ! あっ! 取った! はえ〜」
 この意味のわからない一文は、僕が記者席で絶叫した実況である。もちろん手元の取材ノートは真っ白。プロフェッショナルとは対極にある。
 これでいい、とは絶対に思わないけれど、こういう感じの自分がどうしても嫌いになれなかったりもする。
 僕のサッカーライター生命はどうなるんだろうか。とっても不安だ。(了)


竹田聡一郎 Soichiro Takeda
 黄金世代と同じ1979年生まれ、神奈川県出身。湘南ユースでプロを目指した元DF。04年にフリーランス宣言以来、情報誌、グルメ誌、トラベル誌などに寄稿している。

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