Netflixシリーズ『ガス人間』

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 1960年公開の映画『ガス人間第一号』は、東宝特撮シリーズのなかでもカルト的人気を誇る不朽の名作のひとつ。『ゴジラ』(1954年)を生んだ名コンビ、本多猪四郎監督と円谷英二特技監督による「変身人間もの」の代表作であり、犯罪劇とラブストーリーを融合させた和製SFフィルムノワールの大傑作でもある。

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 自在に気体化する特殊能力を手に入れ、奇想天外な完全犯罪を重ねるガス人間に扮するのは、黒澤明作品でもおなじみの名優・土屋嘉男。その妙演はのちに『容疑者Xの献身』(2008年)で堤真一が演じた天才数学者の原点とも言える。また、彼が恋する日本舞踊の家元に扮した名女優、八千草薫の国宝級の美しさも忘れがたい。

 熱狂的なファンを持つ作品だけに、おいそれとリメイクできるタイトルではなかったはずだが、まさかのNetflixシリーズ『ガス人間』として令和の世に復活。しかも『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016年)のヨン・サンホ監督が立ち上げた製作会社WOW POINTと、東宝の共同プロジェクトとして“新生”を果たした。監督に抜擢されたのは『岬の兄妹』(2019年)、『さがす』(2021年)などで注目を集めた異才・片山慎三。いわゆる単純なリメイクではなく、オリジナル版を知る人ほど驚かされる内容となっている。

 舞台は現代の日本。生放送中のテレビ局のスタジオで、ある番組ゲストが「意思を持つ気体」に襲われ、空中で爆死する衝撃的シーンから物語は始まる。冒頭からいきなり血まみれになるジャーナリスト役の蒼井優、事件を追う刑事役の小栗旬を中心に、多彩な登場人物が入り乱れるドラマが展開。オリジナル版との共通点としては、1)ガス人間という存在、2)悲哀を湛えたラブストーリー、3)自身の意思とは関係なく怪物化した人間の悲劇性……といった要素が挙げられるが、そのほかにも独自のアレンジが随所に施されている。

 思わぬ方向から事件にかかわり、中盤からストーリーを牽引する配信者兄妹(林遣都&広瀬すず)のキャラクターは、ヨン・サンホ×Netflixによるドラマシリーズ『地獄が呼んでいる』(2021年~)や、片山監督のデビュー作『岬の兄妹』の登場人物を連想させる(なお『岬の兄妹』に主演した松浦祐也と和田光沙も、重要な役で出演しているので要チェック)。そして、事件の核心であるガス人間が帯びる悲劇性には、国家や巨大権力によって個人が蹂躙される理不尽というテーマが込められており、ヨン・サンホが監督作『新感染~』やその続編『新感染半島 ファイナル・ステージ』(2020)、あるいは新作『顔 ―かお―』(2025年)などで示した社会派作家ぶりがここでも深く刻まれている。

 片山監督の演出も、意外なまでの娯楽色とともに持ち前のシニカルな作家性を発揮。都知事選を背景にした後半の劇的展開もおおいに盛り上げている(香港の雨傘運動を揶揄するような描写にはさすがに「?」となったが)。場面によってダサくも、逆説的にも、ド直球のラブソングにも聞こえるサザンオールスターズ「いとしのエリー」の多彩な使い方も巧みだ。俳優陣の怪演を引き出す演出スタイルは、助監督時代に『TOKYO!』(2008年)、『母なる証明』(2009年)で組んだポン・ジュノ監督の影響だろうか? 今回はわりと控えめだが、『さがす』ぐらいポン・ジュノ愛全開でやってくれてもいいと思う。

 魔法のランプの精霊のごとき超人的活躍を繰り返すガス人間のキャラクターは、オリジナル版の土屋嘉男とはだいぶ異なる設定ながら、哀切さは健在。もともとの人格を失い、かろうじてこびりついた記憶の断片だけで行動を保つかのような設定は、湯浅政明監督のTVアニメシリーズ『カイバ』(2008年)も思いださせる。タイトルロールを演じるUTAは、本木雅弘と内田也哉子を両親に持つ期待の新人だが、俳優デビュー作ならではの匿名性が絶大な効果を発揮している。父親の主演作『黒牢城』(2026年)と同時期リリースとなったのも感慨深い。『ゴジラ-1.0』(2023年)でアカデミー視覚効果賞を獲得した白組によるダイナミックなVFXも見どころだ。

 現在、Netflixでは原典たる『ガス人間第一号』も同時配信されているので、ぜひ『地獄が呼んでいる』などのヨン・サンホ関連作と併せて楽しんでほしい。また、現代と過去の悲劇を直結させる社会派ホラーとして、高橋洋が脚本を手がけた韓国映画『オクス駅お化け』(2023年)もオススメだ。

(文=岡本敦史)