【映画評】「ガラクタ」から始まった…広島ホームテレビが、いま映画『原爆資料館 語り継ぐものたち』を作った切実な理由
半世紀以上にわたって撮りためてきた映像
1945年8月6日、広島市上空で炸裂した米軍の原子爆弾は、約14万人の命を奪った。その資料や証言を展示するのが「広島平和記念資料館(通称「原爆資料館」)」だ。広島ホームテレビが制作したドキュメンタリー映画『原爆資料館 語り継ぐものたち』は、資料館の歴史と存在意義を静かに描き出す。半世紀以上にわたって映像を撮りためてきた、地元テレビ局ならではの労作である。
資料館は、世界的建築家の丹下健三が設計し、1955年に開館した。被爆者の姿が焼き付いたとされる石段、黒焦げになった弁当、ぼろぼろに破れ血で変色した衣類…。市民から今も寄贈される資料を2万2000点以上収蔵し、被爆者の証言ビデオも公開している。外国人も目立つ入館者は、2025年度には258万人を超え、累計8000万人に達した。
資料館設立の立役者は、初代館長の長岡省吾だ。地質学者だった長岡は、原爆投下の2日後に出張先から広島市へ戻り、高熱で変形した瓦や瓶などを集めた。1949年、市内の公民館に「原爆参考資料陳列室」を開く。
それを広島市が引き継ぐ形で、資料館が実現した。長岡の娘は「ガラクタでも、お父さんとしては大事なもん。原爆がどげん恐ろしいかいうことを、みんなに知ってもらいたいから。自分が(収集)せにゃあ、するもんがおらんと思って」と振り返る。
第7代館長の高橋昭博は中学生の時に被爆し、やけどの痕が手などに残っていた。原爆症で度々入院しながら、子どもたちに「戦争は、かっこいいもんじゃありません。みなさん一人ひとりの死につながる。家族や友人が死ぬことが戦争ですよ」と話した。「核兵器のない世界」を提唱した米大統領のバラク・オバマに手紙を書き、「資料館を自分の目で確認して、アメリカは何をしたのか、事実を知ってほしい」と訴えた。
高橋の死後の2016年、オバマは来館し、「過去に解き放たれた恐ろしい力について考える」と演説した。2023年の広島サミットの際は、先進国首脳がそろって資料館を訪れたが、視察の様子は完全に非公開とされた。
2019年の3度目のリニューアルで、それまで展示されていた、皮膚が垂れ下がる被爆者の人形が撤去された。「視覚的にイメージしやすい」と存置を求める意見が出る一方、「被害を正確に伝えていない」との批判が上がっており、「事実資料で展示を構成する」との方針に基づいた措置だとされる。
核兵器が使われかねない時代だからこそ
歴代館長は印象深い言葉を残している。
「写真、原爆の絵、遺品を見つめて、魂の叫びを聞いていただきたい」
「歴史の現場ですよね。歴史の記憶を伝え続けているのが、この館です」
「どういう惨状だったのか、それを自分のものとして受け止めて、メッセージを発信してほしい」
「被爆者が体験を語ることが難しくなった時に、被爆資料や遺品が代弁者として語り掛けてくる」
広島ホームテレビが映画を制作したのは、広島県安芸高田市長の石丸伸二を追って話題となった2024年の『#つぶやき市長と議会のオキテ【劇場版】』に続く。
監督は斉藤俊幸と立川直樹。記者6年目の斉藤は、同局が1970年の開局以来、撮影してきた100時間以上の資料館関係の映像に全て目を通し、貴重な証言を拾い上げた。報道部長の立川は、世界各地で紛争が起き、核兵器が使われかねない時代だからこそ、この作品を企画したという。
テレビ番組を基に映画版を作るのではなく、当初から劇場向けに制作した。ナレーションは使わず、テロップも抑制的で、コラージュのように細かく編集した映像に語らせる作りだ。分かりやすさを優先し、説明過剰に陥りがちなテレビドキュメンタリーとは一味違う仕上がりになっている。
老夫婦の暮らしを見つめた「人生フルーツ」をはじめ、名古屋市の東海テレビが2011年以降、長期取材に基づくドキュメンタリー番組を次々に映画化したのを受けて、地方テレビ局がドキュメンタリー映画を手掛ける動きが広がった。「原爆資料館」も、地元で取材を続け、映像を蓄積してきた地方局にしかできない、組織ジャーナリズムの力を示した作品といえよう。
米アカデミー賞国際長編映画賞に選ばれた「ドライブ・マイ・カー」で知られる石橋英子の音楽は穏やかで、落ち着いて視聴することを促しているように感じられた。映画を見てから資料館を訪問すれば、展示の理解がぐっと深まるはずだ。
『原爆資料館 語り継ぐものたち』は7月18日に東京・ポレポレ東中野で封切り、7月24日から広島・八丁座とイオンシネマ広島西風新都で公開し、その後順次、各地で上映予定。(文中敬称略)
【もっと読む】「難民」と一括りにされた人々のリアル…映画『ロストランド』と『オールド・オーク』が描いた世界
はら・しん/共同通信記者・編集委員としてメディアを長く取材。2026年3月に独立。近著『音と光の世紀 ラジオ・テレビの100年史』(集英社新書)で日隅一雄・情報流通促進賞特別賞を受賞。「地方の時代」映像祭審査委員なども務める。

