記事のポイント
ナイキはワールドカップを複数スポーツ戦略の一環と位置付ける一方、アディダスはサッカー市場と米国事業拡大の最大の好機と捉えている。
ナイキは幅広いスターを起用してリーチを拡大し、アディダスはサッカーに特化した施策で高いエンゲージメントを獲得した。
ソーシャル上ではナイキが規模で優勢だった一方、アディダスはEMVやエンゲージメント率で上回り、商業成果でも先行している。


競合するアパレルブランドのナイキ(Nike)とアディダス(Adidas)にとって、ワールドカップは絶好の機会だ。しかしこの好機は、両者をまったく異なる立場に置いている。

2025年10月、厳しい市場環境のなかで売上が1%増加したようにみえたナイキの回復は、結局は一時的なものに過ぎなかった。

3月31日に発表された最新の決算では、売上は横ばい、粗利益率は縮小という結果が示された。

ナイキの経営陣が立て直しを試みるなか、長年のライバルであるアディダスは、国際的に差を縮め、米国でのビジネスを拡大する好機ととらえている。

アディダスCEOのビョルン・グルデン氏は3月、第4四半期決算説明会のなかで、アディダスは米国事業の規模を倍増させ、それ以外のすべての地域で首位を狙うと投資家に語った。同社はその四半期に利益率が改善し、売上は14%増加した。

「責任ある立場の人間は、誰もが1位をめざす野心を持つべきだ。いま重要なのは、すでに首位にある分野でリーダーシップを維持すること、そしてそれに加えて、米国の消費者を特にターゲットにすることだ」とグルデン氏は述べた。

豪華キャンペーンとデータから見る両社の思惑



eMarketerのアナリスト、スカイ・カナベス氏は次のように指摘する。ナイキにとってワールドカップは、スポーツの夏を彩るいくつかの重要なイベントのひとつに過ぎない。同社が強みを持つマラソンやテニスのシーズンも、同じように重要だからだ。

一方、アディダスにとってはサッカーを掌握し、米国で高まる人気の波に乗って商業的成功につなげる好機だ。「ナイキはスポーツ全般にわたってはるかに大きな存在感を持っている。そのため、アディダスにとって、ワールドカップが自社のブランドや売上に与える影響は、ナイキよりもはるかに大きい」とカナベス氏は述べた。

両社はともに、大会開幕に先立って豪華スターを起用したブランドキャンペーンを公開した。ナイキは「リップ・ザ・スクリプト(Rip the Script)」を発表し、クリスティアーノ・ロナウド、ヴィニシウス・ジュニオール、アーリング・ハーランドをはじめ、数十人のサッカー関係者がCM撮影現場で大混乱を巻き起こす様子を描いた。

アディダスは「バックヤード・レジェンズ(Backyard Legends)」を選び、ティモシー・シャラメ、バッド・バニー、そして国境を越えて集められたサッカースターたちが主導する物語仕立ての作品とした。

直近に控えるナイキの次期決算発表を前に、商業面ではアディダスが優位に立っているようだ。エムサイエンス(M Science)のデータによると、アディダスのアパレルへの支出は5月に前年比70%急増し、6月に入っても堅調を維持した。とはいえ、夏はまだ終わっていない。

各社のワールドカップ施策のソーシャルメディア上のパフォーマンスを分析すると、それぞれのキャンペーンがどのように商業的な目標を推し進めているかがわかる。それはまた、より大きな話題を生み出すナイキの幅広いリーチと、サッカーそのものに焦点を絞り、ファンとのより高いエンゲージメント率を生み出すアディダスの戦略との対比を浮き彫りにしている。

タレント戦略:サッカー特化か、横断か



物語性のある映像づくりとスター起用という共通点があるにもかかわらず、ソーシャルモニタリング企業のメルトウォーター(Meltwater)が共有したデータは、両キャンペーンの背後にある2つの異なる戦略を明らかにしている。

ナイキの映像には、サッカー選手の顔ぶれに加えて、レブロン・ジェームズやBLACKPINKのリサなど、より幅広い分野のアスリートや著名人が登場した。これは、サッカーに特化したアディダスの作品と比べて、バスケットボールやK-POPを通じて、もう少し幅広い層にアピールすることを意図していたことを示唆している。

それはメルトウォーターのソーシャルリスニング分析にも表れている。キャンペーンを直接話題にした投稿のうち、リサはおよそ30%で言及され、レブロンは20%で話題にされた。

対照的に、アディダスの作品をめぐる議論は、スポーツ以外のスターであるシャラメ(54%)と、サッカーのレジェンドであるリオネル・メッシ(40%)の起用に集中していたようだ。端的にいえば、各ブランドのキャスティング戦略は、それぞれの商業上の関心を映し出していた。アディダスはサッカーのみに焦点を当て、ナイキはその瞬間を複数のスポーツにまたがる文化的手段として利用したのだ。

配信プラン:集中投下か、物量か



チューブラー(Tubular)のデータは、各キャンペーンがやや異なる配信戦略をとったことも示唆している。

キャンペーン開始後の数週間で、ナイキは自社のソーシャルプラットフォーム全体で217本の動画をアップロードしたのに対し、アディダスは開始後に約1000本のクリップを公開した。

ナイキはその活動でより高いエンゲージメント率を享受したようで、クロスプラットフォームで合計4億回の再生数を獲得した。これはおそらく、より幅広い対象を取り上げたアディダスの動画戦略と比べて、ナイキの動画活動が「リップ・ザ・スクリプト」をより緊密に支えていた結果だろう。

「両社は2つのまったく異なるアプローチをとったように見える。ナイキは豪華なタレント陣を揃えるとともに、ワールドカップ期間中に『リップ・ザ・スクリプト』があらゆる場所で目に入るよう、より集中してリソースを投入したようだ」とチューブラーの広報担当者は説明した。

ソーシャルの反応:規模か、熱量か



両キャンペーンが出そろったあと(6月5日〜17日)に収集されたスプラウトソーシャル(Sprout Social)のソーシャルリスニングデータは、各社の中心となる投稿がソーシャルプラットフォーム上でどれだけ好調だったかを示している。

インスタグラム上で、ナイキのキャンペーンは240万件の「いいね」と5870万回の再生数を獲得した。

一方、アディダスのリーチはこれより低く、再生数はわずか700万回だったが、「いいね」の数はより多く(256万件)、Webユーザーのあいだでより高いエンゲージメント率があったことを示唆している。

活動全体で見ると、両ブランドはほとんどの指標で接近しており、推定インプレッション数はナイキが36億4000万件、アディダスが34億3000万件だった。

メルトウォーターの数字もこれと一致している。同社は、各キャンペーン開始後の最初の3週間において、ナイキのほうが絶対的なリーチ、ソーシャルメディアでの言及数(2万2300件対4600件)、エンゲージメントともに高かったが、アディダスのほうがエンゲージメント率は高かったと測定した。

「ナイキは純粋な規模で勝った。一方、アディダスは規模こそ小さかったが、投稿あたりの熱量は高かった」とメルトウォーターの広報担当者は述べた。

収益指標EMVではアディダスが先行



しかし最終的には、こうしたソーシャル上の話題は、ドルやユーロの売上に変換されてはじめて意味を持つ。

クリエイターIQ(CreatorIQ)の推計によると、各広告主のブランドキャンペーン公開3週間で、アディダスはナイキよりも多くのアーンドメディアバリュー(EMV)を獲得した。約3000人のクリエイターが関わる6700件の投稿全体で、同社は4890万ドル(約73億円)のEMVを生み出した。

対照的に、クリエイターIQの推計では、ナイキは1900人のクリエイターによる4400件の投稿というより小さな足跡のなかで、2890万ドル(約43億円)のEMVを得たとされる。

ナイキの次期四半期決算は、同社のキャンペーンが享受した幅広いリーチが、サッカーファンの間での売上に結びついているかどうかを判断する明確な指標となるかもしれない。我々はその決算と、大会の残りの期間を通じて各ブランドがどのようにアプローチを転換し、調整していくかを注視していく。

[原文:Nike versus Adidas: Who’s winning the World Cup’s brand head to head?]

Sam Bradley(翻訳、編集:藏西隆介)