長友佑都「魂のスピーチ」は日本代表に何をもたらしたのか…中村敬斗、後藤啓介が明かした「言葉の力」
日本代表はチュニジア戦で4-0というW杯に出場したアジアのチーム史上最大得点差で勝利を飾った。その背景には、単なる戦術やフィジカルではなく、チームとしての「心の準備」と「結束」の深まりがあったという。
現地で取材を続けるミムラユウスケ氏が選手から聞いた話をもとに代表チームの状態を分析する。
試合3日前ミーティングでの長友の「魂のスピーチ」
チュニジア戦の3日前、長友佑都がキャプテンの板倉滉に進言して開かれた選手ミーティングが、その好影響を如実に物語っている。
その前のオランダ戦は、2度ビハインドを負いながらも2度追いつく、文字通り「命がけ」の内容だった。長友は4大会連続出場という経験から、グループステージ第2戦の難しさを痛いほど知っていた。過去の日本代表は、初戦を終えてわずかに緊張の糸がゆるむことで、第2戦で思わぬ落とし穴にはまることが少なくなかった。
「(2戦目は)一回緊張の糸が切れるというか、そういう部分もあると思うから、もう1回引き締めてみんなでやろう」
1つの大会で2試合続けて選手ミーティングが開かれることは異例中の異例だ。だが、そこに長友の信念があった。
ミーティングの場で、長友は約1分半の「魂のスピーチ」を披露した。JFA公式のTeam Cam映像にも収められたその言葉は、単なる訓示ではなかった。過去の経験を率直に共有し、失点した場合の対応として「ピッチの選手はまず集まろう」と具体策を提示。
「これからどうしていくのかをみんなで話して、心をもう一回つなげよう」
そうした実践的な確認に加え、チームの強みを体現するエピソードを挙げて、結束を再認識させた。
ただ、長友が伝えたのは、チームを引き締めるためだけではなかった。チームのために働く、各選手の献身的な態度をみんなの前で賞賛したのだ。
試合後にピッチに立てなかった吉田麻也や南野拓実らが、選手が使ったスパイクを磨いて片付ける姿にも触れ、「本当に世界一の団結力だと思うから、このチームで絶対に7月20日までもう絶対に残るから」と、チームの未来への決意を込めた。
悔しいと思うけど
特に印象的だったのは、チーム最年少の後藤啓介の行動を称賛した一幕だ。
オランダ戦で出場できなかった後藤は、ベンチの一番前で声を張り上げ、ピッチの選手を鼓舞し続けていた。
ライバルでもある塩貝健人が途中出場する際には、自らの悔しさを押し殺し、水のボトルを持って話しかけ、励ましの言葉をかけていた。長友はこう指摘した、
「悔しいと思うけど、そういうことを若手とかベテラン関係なく、みんながやっている最高のチーム」
このミーティングがチームにもたらした影響は、明快だ。
過去のような「気のゆるみ」が生まれる隙を、事前の対話で完全に塞いだのである。長友の経験に基づく警鐘と、選手全員で確認した「集まって心をつなげる」ルールは、チュニジア戦での冷静で統一されたプレーに直結した。
4分という早い時間に先制した後も、日本は集中力を切らすことなく追加点を重ね、終盤まで高い運動量と判断力を維持。
守備でも連係の乱れは皆無で、ミーティングで共有された「不具合があったらどうするか」という意識が、万全の備えとなっていた。
世代を超えた相互信頼
2回にわたる選手ミーティングの効果はその他にもある。
一つが、中村敬斗への影響だ。このW杯で初出場を果たした中村は、オランダ戦でゴールを決め、チュニジア戦では鎌田の先制点をアシストするなど、攻撃の起点として大車輪の活躍を見せている。
中村は長友の果たす役割をこのように表現する。
「ワールドカップを何度も経験している選手がチームにいてくれて、体験談を語ってくれるというのは心強いです。僕なんかはW杯に出るのが初めてだったので、どういう気持ちで臨めばいいのかというのはあまりわかっていなかったので。ただ、長友選手が語ってくれたことで、気持ちの整理がつきました。ああいうことを話してくれるのは、“めちゃくちゃ”ありがたいですね」
過去のW杯における日本代表の戦いぶりを振り返ってみると、やはり、初めて臨む大舞台で緊張してしまい、思うようなパフォーマンスを残せなかった選手は多かった。
もちろん、今回の中村の活躍は彼の努力と、この数年間でブラジルやイングランドのようなW杯優勝国との試合で、決定的な活躍をしたことで得た自信も大きいはずだ。
ただ、そんな中村が、ここで長友の影響の大きさを挙げるのだから、相当なものだ。
もう一つは、後藤啓介への影響だ。ミーティングで自身の献身を長友に認められた後藤は、後に「めちゃくちゃ嬉しかった」と素直に喜びを語った。
その理由は以下のようなものだ。
「ああやって、見ていてくれる人がいたのでね。佑都さんもピッチに立てていないのに……。あのようにしっかり見ていてくれるというのはやはりベテランだなと思いますし、本当にありがたいことだなと思います」
後藤はこれまでにも多くの目標があった。W杯に出場すること(チュニジア戦で達成)、チームを勝利に導く活躍をすることなど……。
ただ、今は、そこに新たな目標が加わった。
「次は佑都さんと一緒にピッチに立って、佑都さんからのボールで(ゴールを)決めたいと思います!」
21歳の若手が39歳のベテランと共にピッチに立ち、アシストからゴールを決めるという、感涙もののビジョン。それは、単なる個人の野心ではなく、世代を超えた信頼と高め合いの象徴だ。
チュニジア戦で後藤が途中出場した際、長友がその背中を優しく叩いて送り出した光景は、新たな師弟関係の誕生を象徴していた。
信念を貫くことと、歩み寄ること。
組織においてこのバランスを取るのは容易ではない。長友は自らの豊富なW杯経験という「信念」を基盤にしつつ、若手や出場機会の少ない選手たちの声に耳を傾け、彼らの貢献を積極的に認め、チーム全体で共有する「歩み寄り」を選んだ。
その結果、生まれたのは、選手たちの心地よさと感謝、そしてより強固な一体感だった。
監督・コーチ陣の準備と相まって、選手主体のこの対話と相互認識の文化が、現在の日本代表の大きな強みとなっている。
6月26日にはグループ最終戦でスウェーデンと対戦する。
日本はすでに勝ち点4を手にし、決勝トーナメント進出へ大きく前進しているが、さらなる高みを目指すには、この結束を維持し、進化させていくことが不可欠だ。
長友の進言から始まった一つのミーティングが、チームに与えた「気のゆるみゼロ」の姿勢と、世代を超えた相互信頼。それが、日本代表がW杯の舞台で真に躍進するための、静かだが確かなカギなのである。
取材・文/ミムラユウスケ
