《“日本一のバナナ”にもナフサショック》千葉県民が愛する老舗「佐藤商店」店主が明かした“追熟支えるエチレンガス不安”「なんとか我慢して踏ん張っています」
現在、流通の裏側で深刻な事態が進行している。プラスチック原料や化学製品の基礎となる「ナフサ」の不足である。
5月31日、赤沢亮正経済産業大臣は石油を備蓄する鹿児島の喜入基地を視察した際、石油やナフサの供給について「国全体としては量的に足りている。ただ、供給の偏りや流通の"目詰まり"が生じている」と発言。萩生田光一幹事長代行も、ナフサ不足はあくまで「流通の目詰まり」であり、在庫を抱える業者についても特定していると語っている。
政府はあくまで必要量を確保していると説明するが、スーパーで包装を簡易化したり、塗装業者がシンナーや硬化剤の入手に苦戦したりと、末端の現場での不安は尽きない。
そしてそんな不安の波はバナナにも──。
実は、バナナの追熟(熟成)に不可欠な「エチレンガス」の原料にもナフサが使われているのだ。千葉を中心に全国にファンを持ち、"日本一のバナナ"とも称される老舗「佐藤バナナ商店」の三代目店主・佐藤隆史氏に、中東情勢による地政学リスクに直面している現場の実態を取材した。
エチレンガス不足の懸念と「見た目」という生命線
創業90年以上の歴史を持つ同店は、昔ながらの「室(ムロ)」を用いた追熟技術を武器としている。温度や湿度を管理することに比べると、補佐的な役割ではあるが、無色の可燃性気体であるエチレンガスもまた、バナナの熟成には欠かせないという。
佐藤氏は、現在のエチレンガスの供給状況について次のように語る。
「現在のところ向こう2〜3か月分のガスの在庫があり、仕入れ先からも直近での値上げはないと聞いているため安心はしています。しかし、今後の中東情勢次第ではガス不足に陥る可能性もあり、不安があることも間違いないです」
温度や湿度の徹底管理に加え、室内にガスを撒くことでバナナは約1週間で鮮やかな黄色へと熟す。ガスを使うことで、味や甘み以上に「見た目」に大きな違いが出るという。
「鮮やかな黄色にすることで、お客様にも手に取ってもらいやすくなります。ガスがないと品質は維持できない」
代替策の代償とコスト増の波
万が一ガスが供給停止になれば、品質は維持できるのか。
佐藤氏は、ガスが入手困難になった場合でも、味を落とさずに提供できる代替策をすでに並行して準備しているというが、問題はコストだ。
「エチレンガスを使用する方が本来は安価に済みます。打開策をとれば味は変わらず提供できると自負していますが、今以上のコストがかかってしまうのは事実です」
そして、エチレンガス不足以上の直接的な脅威もあるという。
「関連資材の価格高騰です。現在、ありがたいことにバナナ自体の流通には支障が出ておらず、エクアドルやフィリピン、台湾などから安定して輸入できているため、本体の値段は上がっていません。問題は、レジ袋や発送用の段ボール、緩衝材などの資材価格が3割増しになったこと。こちらの方がはるかに大きなダメージとなっています」
4月末からのわずか1か月で、これまでにないペースで資材が高騰しているという。これまで、バナナ本体の価格が上がったタイミングで価格転嫁を行ってきた同店だが、今回ばかりは過去に例を見ない資材高騰により、6月からは値上げに踏み切ることになった。
「苦渋の選択ではありますが、若干の値上げを予定しています。100円のものが200円になるような大幅なものではないですが、イメージとしては100円が110円になる程度にはなるかもしれません」
危機を乗り越える老舗の覚悟
地元住民の普段使いから観光客の土産、地域イベントへの差し入れまで、広く愛されてきた佐藤商店のバナナ。先代から受け継いだ「バナナの状態を観察し、温度・湿度を管理して時間をかけてゆっくりと追熟する」という伝統の手法は今、マクロ経済の波に晒されている。
佐藤氏は「全世界的に厳しい状況の中、なんとか我慢して踏ん張っています。最悪の事態も想定しつつ、お金がかかっても代替策で今まで通りの美味しいバナナを提供したい。バナナ自体はあるのだから、今は状況を見守り、品質を落とさないようにやっていくしかないです」と力強いが、もはや現場の自助努力だけで解決できる問題ではなく、価格転嫁は消費者の生活も直撃する。
6月には新たに食品1000品目以上に加えて、夏用タイヤなどが値上がりすると言われている。今がまさに「最安値」という現実は、しばらく続きそうだ。
