ジェセル王の階段ピラミッドが水圧リフトを使って建造された可能性があることが分かった/DeAgostini/Getty Images

(CNN)今から4000年以上も前に、古代エジプトの巨大なピラミッドがどのように建てられたのかについて、エジプト学者らは長年にわたり熱い議論を交わしてきた。

そして今、エンジニアと地質学者で構成される研究チームが、新たな説を提唱している。それは、水圧リフト装置を使用し、ためてある水の浮力作用により、エジプト最古のピラミッドの中心部で重い石を浮かせていたとする説だ。

紀元前27世紀頃、古代エジプト人がエジプト第3王朝のファラオ、ジェセル王のために建設した階段ピラミッドは、高さが約62メートルあり、当時、最も高い建造物だった。

しかし、重さ300キロもの巨大な石をどのように積み上げてこのピラミッドを建てたのかについては、何世紀にもわたって謎のままだったと米科学誌プロスワンに先ごろ発表された研究論文が指摘している。

この新しい論文は、学際的アプローチを用いて、階段ピラミッドの内部構造と一致するシステムを発表した最初の論文だ、と執筆者たちは記している。

同論文によると、現地の資源を活用した複雑な水処理システムにより、ピラミッドの内部の垂直シャフトが水力エレベーターと化し、浮力を利用した一種の昇降機が、ピラミッドの中心部まで重い石を持ち上げていた可能性があるという。

エジプトの砂漠はかつてサバンナのようだった

同研究チームは、古気候学(過去の気候の研究)や考古学データなど、利用可能なさまざまなデータを分析した結果、古代の小川の水がサッカラ台地の西から、階段ピラミッドを囲む深い堀やトンネルで構成されるシステムに流れ込んでいたと示唆する。

また論文の執筆者らによると、過去のいくつかの研究で、数千年前のサハラ砂漠では、現在よりも日常的に雨が降っていたことが分かっているという。当時のサハラ砂漠は、砂漠というよりもサバンナに近く、乾燥した砂漠の環境よりも多くの植物が育っていた可能性がある。しかし、気候が湿潤だった時期が正確にいつだったかについては説が分かれている。

階段ピラミッドが建設された当時の水量は、水圧リフトのようなシステムを支えるのに十分だった可能性がある、と指摘するのは、英ケンブリッジ大学の地質考古学者ジュディス・バンバリー博士だ。バンバリー博士はこの新しい研究には関与していない。

バンバリー博士によると、過去の研究で、階段ピラミッドが建設された古王国時代に雨水用の排水路が建設・使用されていたこと、また、当時の鳥たちはカエルなど、湿地帯に生息する生物を食べていたことが分かっているという。

一方、専門家の間では、水圧リフトを支えるための構造物を満たすだけの降雨量が常にあったのかについて議論されている。この水圧リフトを支える構造物の一つが、階段ピラミッドやその周辺の構造物を囲む「乾いた堀」と呼ばれる巨大な水路だ。同論文の執筆者たちは、この水路にたまった水が、水力エレベーターの動力源だったと考えている。

エジプト学者で、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の元エジプト考古学上級講師、デビッド・ジェフリーズ氏によると、サハラ砂漠が緑に覆われていた時代は、紀元前3千年紀の開始前に終わった可能性が高いという。

また、わずかな降雨量では、水圧リフトを動かすのに必要な水を構造物にためられないだけでなく、構造物の石灰岩内の水分の喪失を補うこともできない、と語るのはポーランドのワルシャワにあるステファン・ヴィシンスキー枢機卿大学考古学研究所の責任者を務めるファビアン・ウェルク博士だ。ウェルク博士もこの新しい研究には関与していない。

ウェルク氏は、たしかにサッカラを含むエジプト北部では、第3王朝時代(紀元前2670〜2613年)に冬の降雨により気候が湿潤化したが、降雨の強度は比較的弱く、乾いた堀を水で満たすことはできなかっただろうと指摘する。

論文の執筆者たちも、このシステムが永続的に水で満たされていた可能性は極めて低いとの見方に同意する一方で、当時発生した鉄砲水がピラミッドの建設中に水圧リフトを支えるのに十分な水を供給した可能性が高いと主張している。

しかし、執筆者たちは、この時期にどれほどの降雨や洪水が発生したかを正確に把握するためにはさらなる研究が必要だと同論文の中で指摘している。

古代エジプトの構造物に隠された謎

研究者らは、ジェセル王のピラミッド内の垂直シャフトの明確な目的をまだ特定できていない。ギザの大ピラミッドなど、後に建設された一部のピラミッドには換気用と思われるシャフトがあるが、採光や地下の部屋の圧力を和らげる目的だった可能性もある、とジェフリーズ氏は指摘する。

しかし、最古のピラミッドである階段ピラミッドは実験的な構造物であり、当初はマスタバ(平らな墓)として建設が始まったが、最終的に階段状のピラミッドとして完成した。そのため、ピラミッド内部の特徴が正確に何を意図していたのかは不明なままだ、とジェフリーズ氏は付け加えた。

階段ピラミッド内のシャフトは、長さ200メートルの地下トンネルにつながっており、その地下トンネルは、ピラミッドの外にある別の垂直シャフトとつながっている。この外部のシャフトは、「深い溝」と呼ばれる「乾いた堀」の水上輸送に使われていたとされる部分につながっている可能性があるが、この点についてはさらなる研究が必要だと同論文の執筆者らは述べている。

一方、ピラミッド内部のシャフトは、ピラミッド中心部付近の真下から始まっており、そこには底にプラグが付いた花崗岩(かこうがん)製の箱が置いてある。この箱は、ジェセル王の墓室であると広く考えられているが、論文の執筆者たちは、この箱は水圧リフトを開閉するためのもので、リフトの使用時にシャフトが水で満たされる仕組みになっていると説明している。

他のピラミッドもこの方法で建設されたのかについて、同論文の主執筆者で、古代技術を研究するパリの民間研究所パレオテクニックのシャビエル・ランドロー最高経営責任者(CEO)は、さらなる調査が必要だと述べた。

そしてランドロー氏は、「これは、クフ王やケフレンのピラミッドなどで見つかった巨石をどのように持ち上げたのかという謎を解明する鍵を握っているかもしれない。これらの巨石は数十トンの重さがあり、人力だけで運ぶのは不可能に思える。一方、中型の水圧リフトを使えば、50〜100トンの石を持ち上げることが可能だ。これらのピラミッドに隠されたシャフトの調査は、ピラミッド研究の有望な手段になるかもしれない」と付け加えた。