じつに「思いもよらない方法」で、発見される新種…「超難解」の平面充填の世界。証明のカギは「図形の特徴」という「意外な事実」

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ノーベル賞学者としても有名な天才物理学者・数学者のロジャー・ペンローズが、1970年代から半世紀にわたって探し求めてきた「ある図形」が話題になっています。

その名は「アインシュタイン・タイル」。

2023年にようやく発見されたその図形とは、いったいどのようなものなのでしょうか?

ペンローズが考案した「ペンローズ・タイル」を超える“幾何学上の大発見”について、ビジュアル重視でやさしく詳しく解説した『ペンローズの幾何学』が刊行されました。

パズル感覚で楽しむことができ、しかも奥深い「平面幾何」の世界を探訪してみましょう。

※この記事は、『ペンローズの幾何学』の内容から再構成・再編集したものです。

発言の主はペンローズ

「ずっと探していたんだけど、最近は忙しくてね」

2023年3月末、緊急開催されたとあるオンライン会議で参加者一同が注目するなか、91歳の白髪のイギリス人男性がこう発言しました。

この男性はロジャー・ペンローズ博士。2020年のノーベル物理学賞を受賞した、高名な物理学者であり、数学者です。

彼のいう「ずっと探していた」ものとは、「平面充填(じゅうてん)」とよばれる数学の分野の、ある問題の答えでした。

平面充填では、「平面を隙間も重なりもなく敷き詰める図形」を探究します。「どのような形状」が「どう組み合わされば」平面を充填できるかを考えることは、数学の重要なテーマの一つなのです。

「ペンローズ・タイル」と「アインシュタイン・タイル」

ペンローズ博士が、平面充填に関する有名な図形「ペンローズ・タイル」を発表したのは、今からちょうど50年前の1974年のことです。

2023年3月の緊急会議は、ペンローズ・タイルを超える「新種のタイル」の発見を受けて開催されたものでした。

果たして、ペンローズ・タイルをどのように超えたのか?

詳細はこのたび筆者らが刊行した『ペンローズの幾何学』に譲りますが、同会議には、その「新種のタイル」の発見者も参加していました。

発見したのはデイビッド・スミスという名の、平面充填のコミュニティでは知られた人物でしたが、数学の専門家ではありません。

平面充填の世界において、専門外の人が思いもよらない方法で新種のタイルを見つける事例はこれまでにも多くあり、それがこの分野の魅力を高めています。

特に今回は、「ペンローズ・タイルを超える」半世紀ぶりの新種ということで、大きな注目を浴びたのです。

この新種については、「アインシュタイン・タイル」という呼称もありますが、ここでは発見者に敬意を表して「スミス・タイル」とよんでおきましょう。

平面充填が可能な図形の特徴

新種の候補として、このスミス・タイルを見つけ出したのはスミスですが、新種であることの証明は、コンピュータ科学者や数学者とのチームによる成果です。

その証明は、おもにコンピュータを用いた膨大な計算を含むもので、きわめて難解とされています。

『ペンローズの幾何学』を執筆した目的は、この難解な証明を解きほぐすものではありません。

代わりに、2023年7月に発表された別の証明をもとに解説していきます。この別証明は、筑波大学教授の秋山茂樹と筆者の一人である荒木によるものです。

『ペンローズの幾何学』の目的は、なるべく直観的にこの平面充填の問題と、その新種の概要を伝えることです。

そのため、この別証明についても、おもな流れを触れるにとどめ、証明のカギとなるいくつかの図形の特徴を説明することにページを割いています。これらの特徴については、ペンローズ・タイルに対しても同様に説明します。

スミス・タイルとペンローズ・タイルには、興味深い共通点と相違点があるのです。

パズルを解く感覚で楽しもう!

前述のとおり、証明に関してはおもな流れを押さえるにとどめているため、厳密さは犠牲にはなりますが、『ペンローズの幾何学』では、なるべく日常の感覚で読み進められるように心がけています。特に前半は、難しいトピックを噛み砕き、段階的に平易な言葉で解説しています。

繰り返しになりますが、専門外の人が思いもよらぬ方法で新種を見つける事例は、平面充填においてこれまでも多くあります。

この記事をお読みくださっているみなさんが、「次の新たな新種の発見者」になるかもしれません。『ペンローズの幾何学』がそんなきっかけとなることを期待しています。

なお、数学的な詳細や最新の研究動向に関心のある方は、こちらのサイトに掲載されている文献もあわせてご覧ください。

それでは、ペンローズ博士も取り組んだ平面充填問題がどんなものなのか、そしてスミスが見つけた新種はどんな図形なのか、探訪していきましょう。

パズルを解くような感覚で、ぜひお楽しみください。

ペンローズの幾何学

対称性から黄金比、アインシュタイン・タイルまで

「存在しない」と考えられてきた図形「アインシュタイン・タイル」が、2023年、ついに発見されました。 非周期モノ・タイルとよばれるこの図形は、いったいどんな形状で、どこがどうすごいのか?

数学者だけでなく、アマチュア愛好家によっても偉大な発見が続々となされてきた平面幾何の世界。 パズル感覚で楽しむことができ、しかも奥行きの深いこの分野で、「次の大発見」をもたらすのは、あなたかもしれない!

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