「公認・非公認」の基準をめぐって自民党内からも悲鳴が聞こえる(写真:David Mareuil/Anadolu Agency/Bloomberg)

 「非公認の基準がわからない」「いったい党執行部は、どこまで処分しようとしているのか」ーー。

自民党のあちこちで、こうした悲鳴が聞こえてくる。

「政治と金」問題をめぐって石破茂首相は、10月27日に投開票の衆院選で「非公認より重い処分を受けた」「処分継続中かつ政倫審で説明していない」「説明責任を果たさず、地元での理解が十分に進んでいない」という基準に該当する12人を公認しないと決定した。

問題は「地元の理解が進んでいない」6人

すでに「非公認より重い処分を受けた」については、党員資格停止1年の下村博文氏(東京11)と西村康稔氏(兵庫9)、そして党員資格停止6か月の高木毅氏(福井2)が当てはまり、「処分継続中かつ政倫審で説明していない」については、党役職停止1年の三ツ林裕巳氏(埼玉13)と萩生田光一氏(東京24)、平沢勝栄氏(東京17)が該当する。党役職停止1年処分が継続中の松野博一氏と武田良太氏に至っては、政倫審で説明したとして非公認から外された。

問題は、「説明責任をはたさず、地元での理解が十分に進んでいない」に該当するとして、9日に菅家一郎氏(福島3)、小田原潔氏(東京21)、中根一幸氏(埼玉6)、越智隆雄氏(東京6)、細田健一氏(新潟2)と今村洋史氏(東京9)の非公認が発表されたことだ。

中根氏が1860万円の裏金で党役員停止6か月の処分を受けている一方で、220万円の今村氏や84万円の越智氏は幹事長注意を受けたにとどまる。また、今村氏や越智氏よりも多額の裏金が判明している人たちの多くも、非公認とされていない。なお越智氏はすでに不出馬の意思を表明しており、それを追認した形になっている。

石破首相は総裁選の最中に、「公認するにふさわしいか、議論は徹底的に尽くすべきだ」と“正論”を主張していたが、当選後は「原則公認」に言及するなど大きくブレた。そして最終的には上記12人の非公認のほか、「裏金」を記載しなかった34人については公認するが比例重複を認めないという厳しい措置を決定した。

石破首相の方針が「ブレブレ」になった背景

その背景にあるのが「民意」だろう。10月1日と2日に各社が行った世論調査での石破内閣の支持率は、51%(読売新聞・日本テレビと日経新聞・テレビ東京)、50.7%(共同通信)、46%(朝日新聞)などと、いずれも「ハネムーン期」と言われる政権のスタートにすれば低かった。

しかも石破首相はこれまで各社の調査では「次期首相候補」の上位の常連だったはずなのに、その期待すら見られなかった。

さらに衆院選を控えて自民党が行った情勢調査も、結果が思わしくなかったようだ。10月7日夜に開かれた全国幹事長会議で、石破首相は「国民の皆様方のご批判、これは私どもが思っているよりはるかに強いものだ」と危機感を募らせた。

だから非公認は当初決定した6人では足りず、その枠を広げなければならなかったのだろう。自民党内では「500万円以上の不記載は、公認されないのではないか」との噂も流れた。ならば該当者は25人(辞職した堀井学氏らを含む)になるが、それでは自民党がもたなくなる。

「勝てそうな候補は残し、勝てない候補を斬ったのではないか」と、ある自民党議員は語る。たとえば東京9区で非公認となった今村氏だ。同氏は2012年の衆院選で日本維新の会から比例東京ブロックで当選し、1期務めた後に2015年に自民党に入党したが、2017年の衆院選で比例東海ブロックから出馬して落選。2021年の衆院選では東京15区で落選した後、新設された東京9区の支部長に選任された。

一方、東京9区では、2021年に公職選挙法違反で議員辞職し、自民党を離れた菅原一秀氏の復党が10月9日に認められた。自民党は当選したほうを追加公認する予定で、もともと旧東京9区で分厚い支持層を持っていた菅原氏は、今回の衆院選では今村氏の事実上の“刺客”といえる。

「刺客」を巡って党内でもさまざまな動き

もっとも自民党の森山裕幹事長は10月7日、非公認候補には刺客を立てない方針を明らかにしている。「裏金問題」で自民党を離党し、和歌山2区に出馬予定の世耕弘成氏についても、「若いし、将来もある」と刺客を送ることに反対した。森山氏自身も2005年の郵政選挙で、刺客を立てられた経験がある。

しかし、党内には刺客を立てるべきだという意見もある。ある若手は党幹部からこっそりと、非公認の選挙区での出馬を打診されたという。自民党の選挙区を他党にとられたくないのか、それとも自分の“手下”を増やそうという魂胆なのか――。自民党内では密かに「次」を狙った動きが見られる。

10月9日の会見で石破首相は、衆院選の勝敗ラインを「自公で過半数」と明言した。これは歴代の自民党総裁が建前として述べてきたことだが、今回の衆院選では「50前後の議席減」の予想も現実味をみせている。

それをカバーするのが公明党の存在だ。公明党は10月7日、自民党が公認しない候補について推薦しない方針を決定した。一応「裏金問題から距離を置く」という姿勢を示したわけだ。

ところが、その2日後の10月9日、公明党は「地方の党関係者と良好な関係を築いている」として、党員資格停止1年の処分を受けて非公認とされた西村氏(兵庫9)と三ツ林氏(埼玉13)のほか、「不記載」の前議員や支部長ら16人を含む174人を推薦することを決定した。

兵庫県内に中野洋昌氏(兵庫9)と赤羽一嘉氏(兵庫2)を擁立している公明党と、自民党兵庫県連会長を務めた西村氏の関係は深く、三ツ林氏も10増10減による衆院選挙区変更で、新14区に挑戦する石井啓一公明党代表に選挙区を譲った形になっている。

また比例重複を封じられた16人も、選挙区内の比例票すべてを遠慮なく公明党とバーターすることができるだろう。しかしそれで、「禊(みそぎ)は済んだ」と言えるのか。

「裏金問題」の解決見えないまま衆院選へ

こうして「裏金問題」の解決について確固たる方針を欠いたままに、石破・自民党は衆院選に突入しようとしている。

石破首相は著書『保守政治家』(講談社)で、「もし私などが首相になるようなことがあるなら、それは自民党や日本国が大きく行き詰った時なのではないか」と記すとともに、政治の師である故・田中角栄元首相の「首相は天命だ」との言葉を引用した。はたして石破首相の天命は、自民党や日本を救うことなのか。それともその最期を看取ることなのか――。

(安積 明子 : ジャーナリスト)