Apple Intelligenceに対応する「iPhone 16」の新色ティール(筆者撮影)

アップルが2024年9月9日(現地時間)に開催したイベントで、最新のiPhone 16シリーズ4モデルを発表した。9月13日から予約開始、9月20日に発売という、例年通りのスケジュールだ。

今回発表されたiPhone 16は、6.1インチ・6.7インチ、新色3色を含む5色展開。上位モデルとなるiPhone 16 Proは、画面サイズが拡大し、6.3インチ・6.9インチの2モデルと、新色1色を含む4色展開となる。


Apple Intelligence利用については、時間を割いて説明が加えられた(筆者撮影)

アップルは今回、マーケティング上のメッセージとして、同社が6月に発表していた人工知能機能である「Apple Intelligence」のために、一から設計し直したとアピールした(参考記事:「iPhoneの新機能」使って最も感動したポイント)。

発表会のハンズオンエリアでの実機での体験や取材を通じて、iPhone 16シリーズの「AI力」について、3つの視点で考えたい。

1. 日本では2025年にスタート

Apple Intelligenceは、2024年6月に開催した開発者向けイベント「WWDC24」で発表された、アップルなりのAI時代への答えと言えるサービスだ。

多くの処理を、iPhone/iPad/Macといった「Appleシリコン」チップで動作するデバイス上で実行することができ、一部の処理を暗号化やデータ非保存などを駆使した特別なクラウドで実行することで、他社サービスにはないセキュリティとプライバシーを実現する。

このサービスは現在開発者向けに、アメリカ英語の環境で利用可能となっている。この後のスケジュールとしては、2024年10月、つまりiPhone 16が発売されて1カ月後に、アメリカ英語の環境で一般ユーザー向けのベータ版提供がスタートし、12月までにアメリカ以外の英語圏でのベータ版提供が開始されることが明らかになった。


Apple Intelligenceの日本語対応は2025年に始まることがアナウンスされた(筆者撮影)

そして、2025年に、中国語、フランス語、ドイツ語に加えて日本語でも、ベータ版提供が開始されることが明言された。この発表は喜ばしくも、複雑な心境での受け止めとなる。

日本語環境で使う筆者とすれば、2025年に開始されるというリストに入ったことは、うれしいニュースだ。個人的には、もっと後になるのではないかとも思っていたので、意外でもある。ただし2025年は12月31日まであるわけで、Apple Intelligenceが日本語対応する時期には、かなり大きな幅がある。

要するに9月発売のタイミングで手に入れたとしても、iPhone 16を「AIスマホ」として活用できるのは、10月にアメリカ、年内は英語圏の各国に限られる。つまりAIスマホだけを目当てにiPhone 16を手に入れるのは、利にかなった選択ではないだろう。

AIサービスは機械翻訳などを駆使して、開発言語である英語に直して大規模言語モデルによる処理を行い、再び英語から使用言語に戻して結果を返すことで、多言語対応を果たすこともできる。

しかしアップルとしては、文化的な背景も含めての言語対応を進める意向で、単なる翻訳での多言語対応を急がない考えだ。

2. iPhone 16だからこそできることは?

アップルは今回のiPhone 16シリーズを、Apple Intelligenceを実行することを念頭に設計した点をアピールし、AIスマホとしての買い替え需要を盛り上げたい考えだ。

ただ、既存のiPhone 15 Pro/Pro Maxも、Apple Intelligenceを利用できる。では、iPhone 15 ProとiPhone 16シリーズの間で、利用できるApple Intelligenceに差があるのだろうか?

結論から言えば、現時点では「ない」。

テキストの修正や翻訳などを行うWriting Tools、絵文字や画像を生成できる機能、Siriの進化といったApple Intelligenceの機能は、iPhone 15 Proでも、iPhone 16シリーズでも、同じように使うことができる。

ただし、Apple Intelligenceを開始する国・言語環境で今年の年末にかけて提供される「Visual Intelligence」については、iPhone 16シリーズに新たに追加された「カメラコントロール」を用いるため、iPhone 15 Proでは利用できないようだ。

3. Apple Intelligence向けに設計の「意味」

Apple Intelligenceを目当てにiPhone 16を活用する意味はどこにあるのだろうか。

まず、iPhone 15シリーズの中では、A17 Proチップを搭載する上位モデルのiPhone 15 Pro/Pro Maxでしか、Apple Intelligenceが利用できなかった。上位モデルを買った人向けの対応だった。

しかしiPhone 16シリーズでは、下位モデルのiPhone 16/16 Plusも、Apple Intelligenceを利用することができる。より多くのユーザー層にも、AI機能を提供できるようになっているのだ。

アップルは、Apple Intelligenceについて、「かなり日常的に、頻繁に使われること」を想定しているようだ。

例えばWriting Toolsの文書校正や要約などはビジネスや学習の現場で重宝するが、日常的に使わないのではないか?と思われるかもしれない。しかし、ユーザーが明示的に呼び出さなくても使われる。

メールアプリでは、届いたメールを要約して2行で内容を表示し、開かなくてもメールの中身が一目でわかるが、これはメールアプリが自動的に、メール本文に対して要約をかける。それだけでなく、その要約から緊急性を察知したら、優先して通知を送ってくれる。

つまりユーザーは、明示的にAI機能を使わなくても、AI機能の恩恵を授かることになるのだ。

このように、AI機能を裏で動かし、その結果ユーザーが便利にiPhoneを使う、という実装を進めていくのであれば、アップルが考える日常的かつ頻繁という条件で、スマホの設計を考える必要が出てくる。


iPhone 16では、日常的なAI利用を見据え、A18チップと内部デザインの変更で、熱対策とバッテリー拡大などの対策が施されている(筆者撮影)

アップルはA18・A18 Proチップで、メモリー帯域の17%、2倍の機械学習処理性能を発揮するとしている。そして内部設計を刷新し、できるだけチップを中央に配置したり、高いアルミニウムのパーツを活かして熱を逃がす構造を採用、さらにバッテリー容量を拡大させている。

これらの対策によって、AIを使うからバッテリー持続時間に影響が出る、といったことが起きないようにしている。

そうした対策が施されたチップや内部設計は、AIがユーザーによって、または自動的に日常的かつ頻繁に使われる状況でも、バッテリー持続時間を毀損しないということもまた、「AI向けの設計」と言えるのではないだろうか。


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(松村 太郎 : ジャーナリスト)