そんな校歌が、全国的に脚光を浴びた高校野球和歌山県予選。球場に校歌が流れた瞬間、彼らはライブに出演していたというが……。

「出番が終わってSNSをみたら、ものすごい量のメンションが来ていて何事かと思いました(笑)」(横川翔氏)

その多くが、斬新なレゲエ校歌に好意的なリアクションだったという。しかし、否定的な見方をするコメントも混ざっていた。

「一部では『こんなのレゲエじゃない』という声もありました。裏打ちのリズムがレゲエというイメージがあると思いますが、この校歌は裏打ちではないので。でも、僕もジャマイカでレゲエを学んで日本に戻って来ましたが、今回の曲は製作のスタイルも含めて、レゲエ要素はバッチリ入ってますよ」(INFINITY16氏)

さらには、伝統的な校歌のイメージからかけ離れていることから「こんなの校歌じゃない」という意見も。しかし、WARSAN氏の言葉からは校歌を制作した3組が見ているのは、別の地平だということが伝わってくる。

「外から何を言われても別にいいんです。僕たちは、学校と何より子供たちのために作ったので、彼らが笑顔になってくれているから、それで十分なんですよ」(WARSAN氏)

◆球場で校歌が流れて「こみあげるものがあった」

野球部の1回戦勝利は、南陵高校と校歌の存在を全国に知らしめた。続く2回戦、敗れはしたものの、3人とも球場に駆けつけて応援をしたという。

「やっぱり、めちゃくちゃ気持ちが入りましたね。試合に負けた子供たちの悔し涙を見たときは、3人でめちゃくちゃ泣きました」(横川翔氏)

「対戦相手は選手も応援団もたくさんいるのに、『こいつら、たった12人のチームで戦ってるんだ』ということを目の当たりにすると、胸が熱くなりますよね」(INFINITY16氏)

「2回の攻撃の前にそれぞれの校歌が流れるんですが、実際に球場で流れているのを聞いて、改めてこみあげるものがありましたね」(WASAN氏)

◆野球部は2回戦で敗退してしまったものの…

残念ながら野球部は2回戦敗退に終わったものの、バスケ部は地方予選を勝ち抜きインターハイ出場を決めた。彼らもまた、寮の食事提供もままならず実家から送られてくる食料で空腹を満たしたりするなど、ずさんな経営の煽りを受けて来た生徒たちだ。

「バスケは5人でやる競技なのに、メンバーが6人しかいないんですよ。それで勝ち抜いていったパワーは本当にすごいです」(INFINITY16氏)

大人の事情によって大切な青春時代に傷をつけられたと感じても仕方のない状況。それでも生徒たちの笑顔は輝きを失わず、校歌の歌詞にあるように「一歩前へ」と進もうとしている。そんな彼らの思い出のなかには、このレゲエ校歌が青春の記憶として流れ続けるだろう。

<取材・文/Mr.tsubaking>

【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。