このようにして生み出されたサイゼリヤの低価格戦略は、中国市場でも非常に効果的であり、競合他社に対して大きな優位性を持っています。

 例えば、ピザハットの客単価は70元〜100元と、サイゼリヤの約2倍に相当します。この価格差は、サイゼリヤの低価格戦略が多くの消費者に支持される理由の一つです。

 特に中国の消費者はコストパフォーマンスを重視するため、サイゼリヤのリーズナブルな価格設定は非常に魅力的に映ります。

◆西洋料理の“意外な”強み

 もう一つ、サイゼリヤの成功要因の一つは、料理の標準化です。中華料理に比べて、西洋料理は調理の標準化が容易と言えます。

 例えば、西洋料理の代表であるピザやパスタは基本的な材料と調理法が決まっており、調理工程もシンプルです。このため、調理の標準化が容易であり、コストを抑えつつ大量生産が可能です。

 一方、中華料理は多様な調理法と豊かな味付けが求められます。地域ごとに異なる食文化や味付けがありますし、調理には高度な技術が必要です。結果的に、大量生産や効率的なサプライチェーン構築が難しく、低価格戦略をそのまま取り入れることは困難なのです。

◆一部メニューを値上げも安心感は変わらず

 このようにサイゼリヤ中国市場でいかに強いかを解説してきましたが、丁度タイミングよく同社が中国で一部のメニューを値上げし、ユーザーからは「30元以下でお腹を満たすことがサイゼリヤの魅力ではないのか」と嘆きのコメントが散見しました。

 しかし、これはあくまでサプライチェーンのコストが値上がりしたことによる最終価格が数元単位で上がっただけに過ぎません。少々上がったからと言って2倍近くの客単価のピザハットに顧客をごっそり持っていかれることは考えにくいです。

 また、正常化が進めば顧客ファーストのサイゼリヤであればまた価格を元に戻すなどの動きをしてくれるでしょうし、それさえできれば現状は安泰と言えます。

 次なる戦略は奇抜な経営スタイルではなく、実直にこれまで通りのやり方やノウハウを駆使して、店舗を各地に展開していくことと私は予想しています。

 上海や北京の大通りの目立つところに旗艦店を出す他の飲食チェーンやアパレルとは異なり、実直に目立たない家賃の低い立地に店舗を出していくでしょう。

【吉川真人】
京都出身。同志社大学卒。中国青年政治学院留学。2020年に中国人のビジネスパートナーと共に中国深センで起業。中古ブランド品のビジネスからスタートし、その後、日本やアメリカ向けのOEM貿易、中国SNSマーケティング支援、中国企業の日本進出支援など、幅広い事業を展開する。中国の時事ネタやテックニュース、日系企業の中国市場での動向をウォッチし、Xや会員制の中国ビジネストレンドコミュニティで発信中。Xアカウント:@mako_63